米を喰え!<パックご飯をトレジャーハントする> (3)サトウのごはん 魚沼産こしひかり
1.『サトウのごはん 魚沼産こしひかり』のスペック
サトウ食品株式会社は、言わずと知れた「パックごはん」では国内トップ企業。また1988年に初めて無菌包装米飯(いわゆる「パックごはん」)を市場に送り出した先駆者である。テレビCMでよく聞いた「玄関開けたら2分でごはん」のキャッチフレーズもお馴染みだ。
業績としては、2018年の時点で年間2億食以上を生産。2021年4月の決算では、コロナ禍の影響による内食需要の拡大もあって、包装米飯製品は10期連続の過去最高売上高を更新している。希有なことである。
原料の「魚沼産コシヒカリ」といえば、今更だが日本一の米どころの新潟県で日本一の味と讃えられる最も有名なブランド米。特徴として「独特の甘みを持ち、食感はもっちりとした粘り気が特徴で、噛めば噛むほど口の中で優しい甘みが広がる」という(以上、魚沼市観光オフィシャルサイト『pure uonuma』の記述に拠る)
この最強コンビによる『サトウのごはん 魚沼産こしひかり』、店頭価格も当然ながらそれなりである。まずは本作を出発点・基準点として、”利きPack米”取り組みの最初に喰らってみることにした。
2.蓋を取って、キラキラ感にオドロク。
記録画像については撮影の巧拙はもちろん光線の具合によって見た目が変わるので、今回は1回目の試食を夕方、2回目を朝に行ってIpadで撮影を実施している。
さて。チンして蓋をむしり取って、驚いた。長年パックごはんを勤め先で利用していた家内もひと目見て声を上げた。加熱されたごはんの表面がキラキラと輝いて見えるのだ。艶やかさ、というべきだろうか。美しいとさえ思った。
言うなれば、光沢のあるグロス仕上げか。現時点では根拠はないが、ガス直火大釜炊飯らしい色艶と感じたのだが。
正直に申し上げると、私はこれまでまったくと言っていいほどパックごはんを食べたことがない。とにかく、米はオノレで炊いて喰う主義。大昔一度だけ喰った透明ビニール入り白米の不味さに辟易して、以来”即席物”がどーにも信用ならなかったのである。
しかし、先日単身赴任でこっちに戻ってきた友人から、一度喰ってみろよと寄贈されたパックごはんを試してみた。そうしたら意外に旨くてびっくり。「このクォリティなら手軽で売れるはずだ」と納得した。あまりに遅ればせながら、パックごはん人と化したわけで、こりゃ可能な限りどこまで旨いのかどれが旨いのか、追及したくなったんである。
というわけで、私とは真逆の長らくのユーザーであるカミサンも注目した艶やかさがある『サトウのごはん 魚沼産こしひかり』を、口に入れてmogumoguしてみた。
3.粘りとモチモチした歯応えの両立、硬派好きも納得
噛んでみるとモチモチ感はしかとある。ベチャッとしていない。私は”硬派米飯原理主義者”なのでさらにシャキシャキでもイイが、これは文句なし。表面のテカリ感、粘りと歯応えのバランスの良さがある。やはり原料である魚沼産こしひかりの力というべきか。
米粒の輪郭が少し緩く見える。この点は、実は一足先に喰っていた蒸気炊飯商品の粒々感とは大きく異なる印象を持つ。蒸気炊飯のごはん粒はおこわや赤飯のように輪郭が綺麗でネッチョリとせず、表面はサラリとしたマット仕上げのようだ。
うるち米に対しての蒸しと炊き、熱を加えることは一緒だが、どう差が出るのか、差は出ないのか、気になるところだ。
香りについては、私は特に感じ取れなかった。私の嗅覚が鈍いのだろか。ただ、良い意味でなんの引っかかりもなくすんなりと口に入るわけで、それはそれで高品質の証しとでも言うか。
4.お米がごはんと化す理由
以下、文章は長いが、お米の構造と炊き加減についての基礎知識で、今後の”利き米”のためにも必要なことなので、少々お付き合いいただきたい。
資料によれば、米粒の微細構造は「細胞>アミロプラスト(デンプンを蓄える細胞小器官)>デンプン粒」の三層構造」となっていて、精米→吸水→炊飯→保存の各工程で構造変化が生じるとある。
また調理によって三段階の大きな科学的構造変化を示す、とされる。その三段階とは以下である。
①膨張:吸水によってデンプン粒が大きく膨らみ、約1.2倍の大きさになる。さらに、炊飯で約2.3倍に膨張する。
②糊化:膨張したデンプン粒が加熱されることで、水+熱=「糊化」という現象が発生。生米の状態で有していた結晶構造「βデンプン」が、糊化によって構造が崩れて「αデンプン」に変わる。
③老化:糊化したごはんをそのままにすると「老化」現象が起きる。結晶構造から水分が飛び、弾性がだんだんと失われることで再βデンプンと化す。暖かいと旨いが冷や飯になると風味が落ちるのは、この”老化”のせいだった。
また、デンプンは「アミロース」(グルコースが直鎖状に連なった分子)と「アミロペクチン」(グルコースが枝分かれした分子)を含んでいる。アミロースが多いと硬く、アミロペクチンが多いと粘りが強くなる。(以上、大阪ガス「Labo Letter No.8」2016年10月に拠る)
うるち米の場合、アミロースとアミロペクチンの比率はほぼ20:80。ところが、もち米は0:100であり、ゆえに強い粘りが出る。粘りのあるごはんを旨いと思うのはアミロースの含有量が低い米を好むということなのだ。
ちなみに、もち米は粘りの強さに吸水力の大きさをも合わせ持つので、うるち米のように水を加えて炊くと柔らかくなりすぎる。また粘りを避けるために水を少なくすると均等に吸水できない。さらにもち米を普通に炊くと”もち米臭”がしてくるという。蒸す理由を初めて知った。
現在では炊飯器でもち米が炊けるようになった。しかし昔はデンプン成分の違いに合わせて蒸籠で蒸すという加熱法を工夫していたわけで、そこにやはり民衆の知恵なのだな。
5.味わい・・・・スタート、発起点なので相対評価なし。
何十年か生きてきて、飯をおかず無しで、それこそ”飯で飯を喰う”ことで旨いと感嘆したことは、一度だけある。
家内の叔父が熊本県阿蘇は内牧に住んでいた。久しぶりに訊ねた折り、当地で米農家をやっている縁者から購入したという阿蘇米と叔父自作のニラ醬油だけを用意していた。もてなしとしてはえらく質素だが、ごはんを一口含んで唸ったのである。もう旨味がまったく別世界、ただただ美味しいと感動した。こんな凄い米があるのか!とニラ醬油も使わず、ガツガツと飯だけで飯が三杯いけた(マジ)。昔食べた食味計90以上のブランド米を軽く凌駕したその味わいは、シンプルかつ最高の歓待だったと今でも思う。
米そのものが極上の米飯に、おかずは不要である。
さて、『サトウのごはん 魚沼産こしひかり』。久しぶりに飯だけをずっとmogumoguしてみた。言い換えるとmogumoguできたのだ。1回あたり150g、2回だと300gをずっとごはんそのもので咀嚼できるQualityはある。極めて素直でスムーズ。何か喰らう側が躓く要素はまったく有していない。
今回はスタート地点・発起点なので、ここまで。これからが酔狂な”利きPack米”の本番なのだ。
(了)
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