年金「目減り」、就労で補う
まずは年金改定の仕組みを知ろう
最初に賃金・物価の変化を反映する本来の改定率を計算し、これがプラスの年だけ、少子高齢化への対応のため給付を抑えるマクロ経済スライドを適用する。
ステップ1 本来の改定率を決定
67歳以下
現役世代の暮らしの変化と差が開かないよう賃金変動率を使う。
68歳以上
モノを買う力の維持のため原則は前年の物価変動率で改定する。
ただし、賃金変動率 < 物価変動率 の場合は賃金変動率を使う。
※年金の保険料収入は賃金変動率で決まるため、賃金変動率が物価変動率より低いのに物価に合わせて改定すれば年金財政を痛めるからだ。
※2024年度のケースでは、
物価変動率:3.2% > 賃金変動率:3.1%だったため、全年齢で賃金変動率が適用される。
ステップ2 マクロ経済スライド
調整率は被保険者の減少率と平均余命の伸びで計算する。
現役世代の減少や長寿化の分、給付を抑制する。
24年度の調整率はマイナス0.4%。
(※適用は15、19、20、23年度に続いて5回目である。)
本来の改定率から0.4%引かれ、最終的な改定率は2.7%
平均的な収入の会社員の夫と専業主婦のモデル年金の月額は23万483円と前年度比6001円の増加となる。
覚えておきたい知識
①年金は物価上昇にある程度ついていく安心感のある仕組みである
これが十分理解されていないと考える。
理由の一つとして、年金改定が賃金・物価の変動に遅れることがあげられる。
賃金変動率の変動率の計算も複雑だ。(賃金・物価とも過去の数字が基になることが、反映が遅れる要因だ。)
22年度のように足元の物価は大きく伸びても実際の年金改定率はマイナスだったケースもある。
しかし、こういうケースでは年金は翌年度におおきく上昇するので、あわてないようにしたい。
②マクロ経済スライドが適用しやすい状態になっている
人で不足を反映した賃金・物価の上昇傾向が続いているため、過去はあまり実施できなかったマクロ経済スライドが適用しやすい状態になっている。
しかもマクロ経済スライドの調整率は今後少しずつ大きくなっていく可能性がある。
マクロ経済スライドの適用は年金財政健全化のために必要ではあるが、一方で現役世代に比べた年金生活者の収入は相対的により小さくなり続けることになる。
③モデル年金はあくまで一例にすぎない
実際の需給額は、自分と家族の働き方や受給の仕方で千差万別であり、モデル年金がじわり減ることを嘆くより、自分の年金を増やす努力のほうが大切である。
将来に向けてどのような対策をすればいいのか
加入期間中の夫婦の総収入しだいで増える厚生年金の増額
モデル年金は会社員の夫と専業主婦という、昭和の時代に一般的だった世帯が前提となっているが、22年度は共働き世帯が片働き世帯の2.3倍に達している。
厚生年金は加入期間中の総収入で決まるため、妻が夫と同水準で働けば妻の厚生年金が夫と同額になり、24年度の改定後の年金では約32万5千円になる。
また、厚生年金はざっくり、加入期間中の総収入が180万円増えるごとに年1万円増える。65歳以降、夫婦のどちらかが年収360万円で3年間働けば、年に6万円、月に5千円増える計算になる。
年金の受給開始を繰り下げる年金は原則65歳受給開始だが、1か月繰り下げるごとに0.7%増える。
元が23万円なので72か月繰下げれば34万5千円強になり、就労延長による5千円増額と合わせて35万円が見込める。
これはあくまで1例で、自分の望ましい年金額や健康状態、生活スタイルに合わせて就労や繰り下げを考えることが重要である。
NISAで「つなぎ資金」確保
年金を繰り下げることを考えるなら、年金を受け取らない待期期間を賄う「つなぎ資金」を自分で確保する必要がある。
待機中も月35万円を支出するなら6年分の合計は2,520万円。病気などに備えて予備費を別途800万円備える場合、3,320万円となる。
一方で就労収入の3年分で1,080万円が見込めるため差し引き2,240万円が65歳時点で必要となる。仮に退職金で1,000万円を老後資金に回せるなら、1,240万円を用意すればいい。
長期で積み立て投資した場合、年4%で考えてみた。
月3万円の積み立てなら22年
月5万円の積み立てなら16年で達成が可能。
通常は税金で利益の2割が引かれるが、NISAは非課税だ。
自己資金の必要額は増額したい年金額や就労状況、予備資金や退職金の額などでも変わる。
老後の生活プランを考え、早い時期から自己資金を準備したいところである。