【2020 ACL グループリーグ 第2節】横浜F・マリノスvsシドニーFC マッチレポート
1.はじめに
さて、データを主に用いたマッチレポート、久しぶりの復活になります。ACLは公式HPに様々なスタッツがあります。情報収集が楽でほんと助かります。ということで、いくつか出してみましたので見ていきましょう。
レビューは以下になります。
2.マリノスのハイプレス効果測定
■PPDA
まずは、ハイプレスの指標としてPPDAを算出しました。
PPDAとは、Passed allowed Per Defensive Actionの略称です。言葉の通り、こちらの数値は『自陣で許した相手のパス数』を『味方の守備アクション回数』で割ったものになります。この数値が低いほど敵陣でボールを奪う回数が多く、高いほど自陣まで侵入されていることになります。詳しくは以下をご覧ください。
今回、守備アクションとしては以下をカウントしました。
・インターセプト数
・成功タックル数
・失敗タックル数
・与ファウル数
前半15~30分の間に数値が少し上がっています。この時間帯は相手が攻めてくる頻度が高かったことがわかります。それでも他の時間帯とかけ離れて大きな値を記録しているわけではありません。1試合を通じて自陣への侵入をあまり許さなかったと言えるでしょう。
■インターセプト位置
実際インターセプト回数も多く、敵陣で5回成功していたようです。また、奪った位置がマリノス左サイドに寄っていることも確認できました。これは相手のカウンターがそこから始まることが多いからでしょう。ブラッタンとバウムヨハンが右サイドにいたことからも、シドニーの攻撃は彼らを経由する狙いが多かったことが伺えます。
■アクションエリア
アクションエリアを見てもマリノス自陣が17.2%とかなり低い数字に。ハイプレスをかいぐぐられても、ミドルサードで回収できていたことが多かったようです。この数値からも、ハイプレスは長い時間機能していたように思います。
3.シドニーのビルドアップルート
■アタッキングサイド
さて、シドニーの攻撃がどこを中心に行われていたか見てみましょう。
右サイドが50%、左サイドが32.7%と、サイドが中心。しかも右に寄っています。このことからも、前述した通りブラッタンやバウムヨハンを経由して攻めたい。または左サイドの裏を抜けたいという意図が伺えます。
■パスマップ
次にシドニーのパスマップを見てみましょう。前後半に分けて集計しました。パスマップの詳細や、作り方については以下をご覧ください。
前半に関しては、左サイドはキング、レトレ、カセレスの三角形で多くのパスを回していたことがわかります。ただ、カセレスより先へパスが出ていないため、左サイド深くから攻められなかったようですね。もしかすると彼は低い位置でビルドアップに貢献していたのかもしれません。
右サイドを見てみると、サイドバックであるグラントへボールを集め、そこからブラッタンへパス。彼から前線へボールが供給されているようですね。このことからも、右サイドに攻撃の比重が高まっていたことがわかります。
次に後半を見てみましょう。またカセレスにボールが集まっていますが、前半に比べて前線への供給が増えた様子。また、右サイドもグラント、ブラッタン、バウムヨハンの三角形でスムーズにボールを回しているようです。パスを受ける回数が多い選手も、前寄りになりました。後半はオープンになって攻勢で出れたことが伺えます。
前後半共通して言えることは、ディフェンスライン同士のパス数が少ないことです。マリノスのハイプレスがきいていたことと、センターバックの選手に足元がないことからこのようになったのでしょう。シドニーは両サイドバックとボランチの頑張りによってボールを前進しているのですね。
4.バウムヨハンを封じられたか
さて、シドニー攻撃の要であるバウムヨハン。マリノスは彼を封じることができたのでしょうか。見ていきましょう。
■スタッツ比較
(データ元:sorfascore)
攻守に関する値が軒並みリーグ平均を下回っています。特にシュート0に抑えられたのは素晴らしいことだと思います。これだけ攻撃に関与できなければチャンスも減りますよね。
また、空中デュエル回数が大きく増えています。リーグ戦では細かくパスを繋いで彼にボールを供給しているが、この試合においては浮いたボールが多くなったからでしょう。なぜそうなったかというと、マリノスのハイプレスが炸裂し、相手に繋げる余裕を与えなかったからではないでしょうか。下から繋ぐ余裕がなく、大きく蹴り出すしかなかった。その結果、空中での競り合いが増えた。いい環境でボールを出させなかったことが、試合を支配できた理由の1つだったのでしょう。
■ヒートマップ
次にヒートマップを見てみましょう。彼がボールを持つのはサイド低い位置がほとんど。しかも外側ギリギリです。また、ゴール前やサイド深い位置もほとんど受けられていないことがわかります。
先ほどのようなスタッツを記録したのは、このようなヒートマップになったことからも納得できますよね。ハイプレスとハイラインの結果、蹴らせるボールが浮き、受ける位置も下げさせることができたのだと思います。
5.扇原とマルコスの役割について
さて、巷で話題になっている扇原とマルコスの変化。
「昨季まで扇原こんなに上がってなかったよね?」
「マルコス囮の役割増えたよね」
このようなものをよく目にしますので、昨季のスタッツと比較してみました。以下の3つに分類し、1試合あたりの平均値を求めました。
・エジマルシステム
・エリマテシステム
・ゼロックス+ACL
■扇原のスタッツ比較
(データ元:sorfascore)
昨季に比べ、シュート数、キーパス数、クロス数が増加しているようです。これは彼が敵陣深くでプレーするようになった証左でしょう。今季はより攻撃に絡む頻度が増加しているようです。しかもパス数は据え置き。決してビルドアップを怠っているわけではありません。
また、タックル数やデュエル数は減少。しかしインターセプト数は同じくらい。このことより、高い位置まで進出しているが、そのまま人数をかけてハイプレス。即時奪回に成功していることが伺えます。相手との1対1や無理な状態が少ないからこそ、数値が低くなっているのでしょう。
■マルコスのスタッツ比較
(データ元:sorfascore)
次にマルコスを見てみます。キーパス数とクロス数は増加。デュエル数やパス数が据え置きなことからも、攻撃頻度が特別下がったわけではなさそうです。ただ、シュート数が減少していることから、フィニッシュに絡む頻度は少し下がっている様子。よりチャンスメーカーへ特化しているのかもしれませんね。
以上より、マルコスがチャンスを創出する頻度そのままで、扇原の攻撃力を純粋に足したと言えるでしょう。試合数が少ないのでまだ断言はできませんが…ディフェンスラインがより高い位置を取るようになったことも、扇原が上がりやすい環境を作っているかもしれません。今季は彼のゴールが多く見られるかもしれませんね。
6.おわりに
快勝した試合をデータで振り返ってみました。数値からもポジティブなものが多く出てきて嬉しかったです。ハイプレスが機能していたことが様々な角度からわかりました。また、扇原の攻撃頻度も高くなったようです。これらは今季マリノスの武器として磨いていく部分でしょう。どれだけ仕上がるかが今季を占うかもしれません。