毎年毎年の今日
あの日
私は普通に仕事をしていた。
あの頃は働けていたなぁ。
PCに向かっていて
そうだな、あの日もPCの前にいた。
でも事務所のPCの前。
結局PCの前…
あれ?眩暈?
ふらっとした気がして顔を上げた。
気のせい、かな…
でもやっぱりふらっとして手を止めた。
?
今度はゆら~ゆら~っと足元に感じた。
蛍光灯の紐が揺れているのにも気付いた。
地震?
そう言ったらようやく向かいの子が
「だよね?」って返して来た。
ゆら~ゆら~
まだ揺れてる?
外を見ると倉庫のシャッターが
僅かに揺れてるのが見えた。
なんか変。
ねぇまだ揺れてない?
あれ?
そこからの記憶がない。
あー残念…
少ししてスマホでTwitterを見た。
東北で大きな地震が…
また記憶が曖昧。
でも次の記憶は事務所のテレビの前。
揺れが大きかったとSNSで知ったのだと思う。
みんなで集まってテレビを見た。
想像を絶する映像に言葉を失った
道路を走り画面奥へ向かう大型車。
その更に奥に煙のような何かが見えた。
水煙…、津波⁉
ダメダメ!早く!Uターン!!
テレビの前で叫んだ。
その津波に気付いたのだろう
大型車がスピードを落とし方向転換しようとしていた。
道幅が狭い、車がデカい。
どっちだろう、一度で曲がり切れない。
真横になって何度も切り替えしているみたい。
後ろの車がUターンして画面手前に走った気がした。
早く!早く!
また記憶が途切れた。
海の近く、漁港の映像。
沢山の青い箱はお魚を入れるものかな…
波が来てふわっと浮いてどんどん流れた。
ざわざわざわざわ
波が押し寄せる。
小さめのトラックかな。
人が荷台の上と屋根の上にいた気がする。
足元に波は来ていた。
どうするの⁉逃げ場がない!
何度も叫んだ気がするけどまた記憶がない。
津波は田んぼも襲った。
どんどん襲い掛かる津波をヘリのカメラが追った。
映画のような、でも悪夢だった。
さっきのゆらゆらとした揺れが
テレビの向こうでこんなコトになるなんて
途中で家にいた娘に電話を掛けた。
大丈夫?
「何が?」
大きな地震があったんだよ!
「そうなの?」
うん、とにかくね、まだこの辺りも揺れないとは限らないから
タンスの近くとかエアコンの下とかにいちゃダメだよ!
「うん」
ストーブ気を付けてね!
一度揺れが収まったら火を消しに行くんだからね!
「分かった分かった」
早めに帰るから、とにかく気を付けてね!
「分かった分かった」
テレビを見るようにと言えなかった。
娘は感情を出さない。
私がパニクってるのを見ると凄く冷静な顔をする。
「ママが先に泣くから私は泣けなくなる」って言ってたこともあった。
ってことは感情を閉じ込めてるんだろう。
この映像を一人で見たらどうなるだろう。
心配で、怖くて言えなかった。
家に帰ってからテレビをつけた。
娘は絵を描いていて、時々テレビを見に来た。
何を思っていたかな…
今になるとあの時の娘の胸の内が気になる。
あの時はテレビに映し出される映像で
頭の中が混乱して余裕がなかった。
どのチャンネルも全部津波。
目が離せなくて、そして時々泣いた。
私が泣いていたから
やっぱり娘は泣けなかったのかな。
それが分かっていたから一緒にテレビを見なかったのかな。
それから重い空気の中で
ご飯を作って、二人で食べて
順番にお風呂に入った。
その後またテレビを見ていた気がする。
眠れなかったような気もする。
でも憶えていない。
あんなに大きな出来事だけど
忘れてしまった部分がある。
それは自分の行動の一つ一つで
あの出来事を忘れた訳ではないので
別に自分の記憶力のなさを思う必要はないのだけれど…
毎年毎年の今日
こうしてあの日を思い出す。
毎年毎年の今日
この記憶も少しずつ曖昧になっていくのかな…
でもこうして書き残しておけば
毎年毎年の今日
読み返せば良い。
毎年毎年の今日
これを読むことを憶えていれば。
うん、私にはそれが問題。
例えば、買い物に行く時
今日買って来るものをメモに書いて
そのメモを家に置いて買い物に行った。
「それでは意味ないやん!スマホにメモしなよ」
そう言われてスマホにメモしておいた。
でも、お店でそのスマホを見ることを忘れた。
う~ん…
憶えておくって難しい。
でも毎年毎年の今日
とりあえず思い出せるだけ思い出そう。
悲しくても
辛くても
泣けて来ても
やっぱり思い出そう。
なんだかまたぐちゃぐちゃw
未だに家族を探している人がいる。
それも忘れてはならない。
政府などは東京オリンピックを「復興五輪」としてるけど
復興はまだまだ先が長いことも忘れてはならない。
そう、原発も。
色々とね
忘れてはダメなことが多いね。
深く深く刻んで
生きていきましょう。
なんて…
今日選んだ写真。
自分の目で見たいんだ。
震災遺構になった中浜小学校も
必ず見に行く。
その前に
まずは今日。
10年目の今日こうして書き残せて良かった。