素敵な靴は、素敵な場所へ連れていってくれる。6
駅前のスーパーは、あまり値引きはしないけど、少し離れたライバル店のスーパーは毎日夕方六時を回ると、値引きのシールを貼りだす、金魚の糞のように店員がシールを張るのをついて回る老人たちが多い、有美がこのスーパーに来る頃は、あらかた値引き商品は彼らに買いつくされていて、あまり良いものは残っていない。それでも有美は適当に買い物をすると、初夏の遅い夕暮れの中、アパートへ帰りつく。
ドアを開けると、中からエアコンの冷気が全身を包み込む、2DKの狭いこのアパートでエアコンだけは良く効く、電気代は恐ろしいほど高くつくが、毎日のこの酷暑には代えられない。見ると拓海はベッドで音もたてずに熟睡していた、今日までに完成させなければいけない原稿もなんとか、今朝完成させたようで、その疲れからほんとに死んだように寝ている。
有美は、彼を起こさないように気を付けながら、その横で、着換えを、すますと、夕食の準備に取り掛かった。
しばらくすると、気配に気づいたのか、拓海が起きてきた。
「・・・・・ああぁ、おかえり、帰っていたんだね・・・・・・」
拓海は、寝ぼけた声で有美に話しかける。
有美は、料理の手を止めず、あえて彼へふり返ることはせずに
「・・・ごめん、起こしてしまった?」と、小さな声で彼を気遣うと、
「・・・・もう、夜、なんだね・・・・一日中寝ていたんだな・・・・」
有美は、久しぶりに拓海の声を聴いたようなきがした、ここしばらく彼が、原稿を書いている間は、「ああ」という言葉しか聞いていない。
拓海はベッドから、起きると、シャワーを浴びに向かう。
用意ができると、有美は手早く料理を並べる、拓海はシャワーを終えると、髪を拭きながらテーブルに着いた。
「ごめんね、昨日と同じようなおかずになっちゃったね。」
「いいよ、気にしなくても、俺はいつも作ってもらうばかりだし・・・・」
疲れているのか、申し訳なさそうに、小さな声で答える。
「原稿の方はうまくいったの?」
「ああ・・・」と、気のない返事をする、そういう時は、あまりうまくいかなかった証左だ、さすがに三年も一緒に過ごせばわかる。
さしたる報酬もなく、生活を支えるアルバイトも、演劇優先の為にままならない拓海は、有美に頼らざるを得ない生活を続けている。けれど有美には彼のその態度が少し歯がゆかった、いい加減あきらめても欲しかった。いつまでも夢を追う事の限界が近づいていることも少しは自覚してほしかった。
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今宵も、最後までお読みいただきありがとうございました。
読み返してみて、なにか糟糠の妻みたいな話なっているなと思いました。
けれど、この先、物語は変わっていきます。
お楽しみに