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素敵な靴は、素敵な場所へ連れていってくれる 5
有美は、拓海に背を向けるようにして、ベッドに横になる、クーラーの低い音と、拓海がキーボードをたたく音だけが、小さな部屋に残される。
七月になって、紗季が言っていたように、飯田は職場を去っていた、二日ほど前に、部長から各関係社員たちに知らされて、当日終業間際に本人から少し挨拶があったらしい、らしいというのは、ちょうどその時間、有美は別のところで、急な会議を行っていて、その時間は不在にしていた。
「・・・・飯田さんらしく、静かにみんなに挨拶していたよ、あんたにも宜しく言っていたよ・・」
後で、紗季にそう聞いた時、一言挨拶しておけばよかったと、少し後悔した。
特段、彼とは接触があったわけではないし、半年ほどの期間だったけど、温厚でいつもニコニコしていた飯田に、有美は悪い印象は全くない。むしろミスをしても、嫌味を言うわけでもなく、叱責することもなく、温和に接してくれた彼には、感謝の感情しかない。
「・・・次も。あんな人だったらいいよね」
主を失い、パソコンの電源が落とされた、無人のデスクに向かい、紗季がそう呟いた。
会社によると、後任はまだ決まっていいないらしい、飯田の退職が急だったことと、そもそもが、閑職の部署に人を遣るほど、会社も余裕はないのかもしれない。
「ひょっとしたら、契約が今期で、切られるかもねぇ・・・」
心配そうに紗季はそういうと、自分の席に戻っていった。
確かに、紗季や有美にとっては、これを機に組織が改変されて、今いるところがなくなって、派遣の契約が切られる方が重大な問題だ。
有美も自背に戻って、会議の資料を片付けると、帰り支度を始めた。
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今宵も、最後までお読みいただきありがとうございました。
私は、日々少しでも嫌なことがあると、ついついそれを
引き摺ってしまいがちです。
もう少しメンタルが強くなりたい・・・
この主人公は一つの憧れです。