素敵な靴は、素敵な場所へ連れていってくれる。 19
七階に上がると、IDカードを使って、オフィスへ入る、20メートルくらい先の窓側に、大津が座って仕事をしていた。
有美は、ゆっくりと大津のデスクのそばへ行くと、
「お待たせしました・・・・」有美は大津へ声をかけた、大津は有美の方へ顔を向けると、小さく笑顔を作って、
「あそこの席のやつ、今週来週と夏休みで来ないから、使っていいよ」、と奥の席を指さした。社員の多くが今は、夏季休暇を取っているのか、ところどころ空いているデスクが多い。
大津の近辺のデスクでも仕事をしているのは、数人だ、それにさっき大津が言っていたような、システムダウンのような切迫感も漂ってはいない、むしろどことなく長閑とした雰囲気だ。
「で、仕事の段取りはどうします?」と有美は、自席から持参したPCを片手に大津へ聞いた。大津は不思議そうな顔をして、有美を見ると、
「なんだったっけ? 仕事の段取りって?」
せわしなそうに、パソコンの画面を見ながら、そう言った
「いえ、部長が先程おっしゃていた、システムダウンの件・・・・」
有美がそう聞くと、大津はようやく有美の方へ向いて、目を細めるように、
「ああ、あれね・・・さっきの件ね・・・・・」と言った。
驚いて目を丸くしている、有美へ向かって
「今日からしばらくは、このフロアで仕事してください、これは業務命令だからね、それとこの件は、依田課長には、私から説明しておくからね・・・いいね」と、それだけ言うと、大津は再び、パソコンへ顔を向けて仕事を再開させる。
有美は与えられた席に座って、持ってきたパソコンを、社内LANに接続させると、さっきの仕事の続きを始めた。
大津の言うと通りなら、これでしばらくは、あの依田の愚痴とも、つかない嫌がらせからは、解放されると、有美は思った。
さすがに、わざわざ、依田もこの階まで上がってきてまでは、そんな事はしないだろうし、第一「上司」の大津の目もある、事実上、大津の隷下に入ったことで、有美は日ごろの憂いが少しなくなったように思えた。
ふと、大津の方を見ると、自分のデスクの近くで、他の社員たちと談笑している。大津は、依田との事を以前から知っていたんだろうかと、有美は不思議に思った。それとも今日たまたま、あのやり取りを見て、急遽思い立ったように、行動に移したのだろうか。
いずれにしても、有美は一度大津に聞いてみたくなった、同時に以前。紗季が言っていた、大津の処理能力の高さを自身の身をもって、実感した。
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今宵も、最後までお読みいただきありがとうございました。
もう一つ、過去の作品、短編ですが、上げてますので
お楽しみください、よろしくお願いいたします。