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人的資本開示の義務化について

人的資本開示、あるいは人的資本経営という言葉が最近よく使われるようになってきました。一方で、急速にこれらの概念が進んだ中で、言葉だけは聞いたことがあるが、そもそもこうした概念、あるいは何をしなければいけないかについて、十分整理ができていない方もいるかと思います。

人的資本開示義務は、プライム市場のみならず、全上場市場に属する企業に開示義務がある為、現在上場している企業はもちろん、これから上場を予定している企業の方も、十分理解しておかないといけない概念です。

そもそもなんでこんな概念が生まれたのか、を含め、改めてなぜこうした概念が日本に広がりつつあるかを整理してみたいと思います。

ちなみに、人的資本開示 / 経営に関連して、足元ではこんなウェビナーもやるので、ご興味がある方は是非ご参加ください!

人的資本経営とはなにか

人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です。

経済産業省 人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~

経産省の定義通りですが、モノ・カネと同様、人材を企業が持つ資本と考え、その価値を引き出すことにより、企業の価値価値向上に繋げていこうという考え方です。

大きな発端は、2005年に国際連合が発表した、責任投資原則(Principles for Responsible Investment)によるESG(Environment, Social, Governance)の考え方と言われています。すなわち、持続可能な社会を実現する為に、環境、社会、ガバナンスにとって責任ある投資をしていこうという考え方です。

出典: https://www.unpri.org/download?ac=14736

このような流れの中で、人材、従業員関係に関する透明性の向上もより求められるようになり、2020年8月に、米国証券取引委員会(SEC)が、上場企業に対する人的資本に関する情報開示ルールの改定を行うなど、世界的に開示や推進の重要性が高まっています。

日本において人的資本開示の義務化が進むまでの変遷

大きな流れとして、以下があげられます。

① 2020年9月 持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 ~ 人材版伊藤レポートが発表
 ② 2022年5月 人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書(人材版伊藤レポート2.0)が発表
 ③ 2022年8月 人的資本可視化指針が公表
 ④ 2023年1月 企業内容等の開示に関する内閣府令が公布・施行

2020年9月 持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 ~ 人材版伊藤レポートが発表

日本においては、2020年1月から、持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会が始まり、2020年9月に、持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 ~ 人材版伊藤レポートが発表されたことが、現在の人的資本開示義務化が進む契機だったように理解しています。

https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/kigyo_kachi_kojo/pdf/20200930_1.pdf

この人材版伊藤レポートにおいて、人材マネジメントの目的は、人的資源管理でなく、人的資本・価値創造であり、人事部が内向きに行うものでなく、経営全体がより投資家・従業員と対話をしながら進めるべきものとされました。

出典:人材版伊藤レポート (2020年9月)

また、こうした人的資本経営を推進する為の、経営陣 / 取締役会 / 投資家の役割やアクションについても提言が為され、経営戦略と連動した人材戦略の策定・実行が必要であり、その為の定量的なKPIの設定や、As is - To beギャップの定量把握などが必要とされました。

出典:人材版伊藤レポート (2020年9月)

その上で、人材戦略に求められる視点 / 共通要素が挙げられています。

出典:人材版伊藤レポート (2020年9月)

 2022年5月 人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書(人材版伊藤レポート2.0)が発表

2020年9月の人材版伊藤レポートの反響を受け、2021年7月から、人的資本経営の実現に向けた検討会が始まりました。そして、その結果が2022年5月に発表されています。

人材版伊藤レポート2.0は、人的資本の重要性を認識するとともに、人的資本経営という変革を、どう具体化し、実践に移していくかを主眼として、それに有用となるアイデアを提示するコンセプトで作られており、旭化成からロート製薬まで、計19の実践事例集がまとめられています。

https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0_cases.pdf

2022年8月 人的資本可視化指針が公表

人材版伊藤レポートなどで、人的資本経営推進の重要性が説かれる中、別の動きとして、2022年8月には、人的資本可視化指針が公表されました。この指針は、人的資本に関する資本市場への情報開示の在り方に焦点を当てて、既存の基準やガイドラインの活用方法を含めた対応の方向性について包括的に整理した手引きとして編纂されたものになります。

https://www.cas.go.jp/jp/houdou/pdf/20220830shiryou1.pdf

可視化に向けては、有価証券報告書において、(強制的に)開示される項目と、統合報告書や中期経営計画、サステナビリティレポートなどで任意で開示が求められるものに分けられるという指針が出されました。

人的資本可視化指針

その上で、有価証券報告書においては、ガバナンス、リスク管理、戦略、指標と目標などが求められるではないか、とされました。

人的資本可視化指針

その上で、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標において、特にどのような内容が求められている or 推奨されるか、記載されています。

人的資本可視化指針
人的資本可視化指針

2023年1月 企業内容等の開示に関する内閣府令が公布・施行

このように、大きな流れがあった中で、2023年の1月末に、企業内容等の開示に関する内閣府令が公布・施行されました。

ポイントは大きく2つあると思います。

1. 企業規模を問わず、全上場企業が人的資本に関する開示を今後行わないといけなくなった
2. 開示内容において、ガバナンスやリスク管理のみならず、人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針(例えば、人材の採用及び維持並びに従業員の安全及び健康に関する方針等)について、戦略や、記載した戦略に関する指標の内容並びに当該指標を用いた目標及び実績を記載しないといけなくなった

つまり、各社が何を今後指標とするかは、各社の状況により一定分かれると考えられるものの、例えば人材育成において、なんらかの指標を示した上で、その目標・実績を合わせて記載しないといけなくなったということであり、今後、そうした目標の設定水準が低い、あるいは目標と実績の乖離が低いことが、機関投資家にとって大きな影響を持つ可能性がある(ダイレクトに自社企業価値にヒットする)ということが、大きなポイントかと思います。

今後の人的資本経営のステップ

2023年3月期決算以降、開示が義務化されるので、今年の6月以降に公表される有価証券報告書から、上記に挙げた項目が開示されていくと思います。

個人的には、恐らく今年は、多くの企業が、そもそも何かしら開示をしないといけない中で、社内データを整理し、まず開示をする、というところに留まるのではないかと思います。

一方、上述のとおり、各種戦略や指標の設定、またその目標を開示しないといけない中で、いかに具体的に各社にとって人的資本経営を推進していくか、というフェーズに移っていくと思います。

次回は、まさにその観点のnoteを書いてみたいと思いますが、我々が提供するVideo BRAINや、関連サービスも、まさに具体的に各社が人材育成や、従業員エンゲージメントを高めていくことに資するサービスだと考えているので、そうした認知、アピールをもっとしていかないといけないな、と思います。

終わりに

はじめに書いたとおり、人的資本開示、人的資本経営は、人事だけの話でなく、まさに経営マターであり、今後、サステナブルに企業が価値を高めていく上で、全企業にとって必須のテーマになると思っています。

そしてなにより、そもそも日本企業があまりヒトに投資をしてこなかった、というデータが幾つか出ているように、こうした流れ自体が、世の中にとってとても大事な流れなんだろうな、という実感もあります。

我々自体が、人的資本経営を今後推進していくとともに、各社の人的資本経営を推進するために、できる併走サポートを今後もしていきたいと思います。僕らのサービスにご関心をお持ち頂いた方など、是非お問い合わせください。

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