行政書士試験に合格するために何を考え、何をしたか
このnoteの目的
令和6年度(2024年)の行政書士試験にどうやら合格(自己採点で記述抜き180点超え)することができた。
テキストやノートを捨てようと片付けをしているのだが、私はどうして行政書士試験を受けようと思って、どうやって勉強してきたのか、そうした自分の過去までも捨て去ることは少々もったいないと思った。そこで記録して残すこととし、もそもそとパソコンにWordで書き始めたのだが、もしかしたら私の経験が他の受験者に役に立つのかもしれないと考えた。というのも、私は2回目の試験で合格見込みとなったわけだが、足掛け3年は勉強してきた。その間、行政書士試験に関する様々な情報に接してきて、自分なりの勉強法を編み出したつもりでいる。
このnoteはそうした行政書士試験に対する私の考えや姿勢の記録である。
そもそもの始まり・・・受験動機
なぜ行政書士試験を受験しようと思ったのか。いま真剣に振り返ると、様々な理由が考えられる。
職歴に箔をつけたい、弟が難関国家試験に合格したから、勉強が嫌いではなくたまたま手持ち無沙汰だった、友人が超一流企業の役員になったこと、リストラへの怯え、己のプライド、親戚への見栄、収入への不安(補足する。額面は年々増えていて額面上は大台を超えているが、正味の手取りは驚くなかれこの15年全く増えていない、というか、微妙に減ってすらいる。職務の責任は重くなり社内的にそれなりのポジションに就いてはいるものの、年々可処分所得は減っていて、心理的負担感がある。最近は働くことがバカバカしくて、怒りすら覚えている)・・・。
外部要因、個人的内部要因、いろいろ考えられたが、究極のことを言えば「たまたま何となくそう思って、たまたまタイミングがあった」ということになろうか。
職務の都合上、何年も前に個人情報管理士(さほど取得する意味もなかった資格だが、行政書士試験の試験範囲である個人情報保護法関連では少しは役にたった)、ビジネス実務法務検定2級(債権、会社法に関しては行政書士試験よりも難しいかもしれない)を取得していたので、受験に対するハードルが低かったということもあるかもしれない。せっかく勉強したんだしもったいないから、という貧乏性な感覚もあったと思う。とにかく、特に身構えたりはしなかった。
宅建より行政書士を選んだ理由も、さほど重いものは無い。万一リストラにあった場合、行政書士の資格があれば独立開業できるな、と思った程度である。ただ、この年になって雇われ仕事はもうイヤ、つまり、サラリーマンにうんざりしていたという気持ちも少しはあったと思う。だから、する気もないのに「独立開業」というワードに、少々冒険心をくすぐられたのかもしれない。
私のスペック
1970年代生まれ
出身・実家は仙台。東京23区に20年以上在住。
一浪ののち旧帝大経済学部卒
職歴 : 化学系メーカー社員。営業からスタートし、現在は本社においてグローバルな業務の機能統制が主業務。転職経験無し。
趣味 : 読書(50年くらい前のSF、30年くらい前のミステリ)。小説のほかに漫画もよく読むがラノベは読まない。映画鑑賞。将棋・相撲の観る専。ベガルタ仙台サポーター。ラーメン食べ歩き。スプラトゥーン。
家族 : 妻と子供二人(R6現在、長女大4、長男大1)。上の子がたまたま法学部に入学していたことが、のちのち試験勉強の役に立つこととなる。両親は実家で健在。
資格 : 普通自動車運転免許、個人情報管理士(期限切れ放置)、ビジネス実務法務検定3級および2級、安全衛生管理者(甲種)
ファイナンス (受験動機に重要な要素だと思うので記す) : 年収は非常に良い方だと思う。持ち家として分譲マンションを購入し、ローンが残り10年ほど。そのほか、株や投資信託、外貨預金等々、なんだかんだで資産はあるものの、子供は二人とも中学からずっと私立でかなりの負担。私の昼食代は500円以内。妻は医療系の資格を持っているが、病気療養のため離職中。
1年目(2022年)
使用したテキスト・問題集
合格革命 行政書士基本テキスト
合格革命 肢別過去問集
勉強開始(2022年2ー6月)
上で述べたように、今振り返ると、勉強に対する熱量はあまり高いものではなかった。俺なら受かるだろうという鼻持ちならない自信もあった。他の簡単な資格のように、過去問を繰り返せば解けるようになると思っていた。
ネットで調べると表示される資格業者の宣伝は信用ならないと思った一方で、Youtubeの試験対策動画などはうっかり信じてしまった。
即ち、「過去問n周すれば誰でも合格」「私は肢別を10周して一発合格」といった、視聴者にとって飛び付きやすく、頭を使わない、単純で機械的な勉強法だ。私の失敗は「肢別を繰り返せば合格するんだな」と、深く考えずに安易に受容してしまったことである。
というわけで早速ネットで上記2冊を購入し、届き次第勉強を開始した。
ビジネス実務法務で商法、会社法、債権法は多少は齧ったものの、憲法、行政法、物権法、家族法は初学である。
そこで以下のような勉強計画を立てた。Youtubeの動画を参考にした。
基本テキストを通読
ポイントや判例などを自分なりにノートに書き出す
肢別をまずは一周し、間違った箇所はすぐにテキストで確認
二周目以降はひたすら問題を解く(つまり、肢別を回す)
思うように進まない(2022年7月)
夏を迎えるまでに、肢別を3周回した。1周回すのに、だいたい一ヶ月かかった。
この時点で、憲法、国家賠償、地方自治法、家族法はだいたい正解することができたが、肝心の行政法と民法総則、物権、債権の理解が進まない。ノートにまとめながらのはずなのに、理解できていない。つまり、自分の言葉で説明できない。まだ行政不服審査法も行政事件訴訟法も、覚えることが山のように残っていた。一方で、肢別は3周回しているので○×は即答できていた。ただし、なぜ○なのか、×なのかをきちんと整理して自分の言葉で説明はできなかった。わからない設問は、ネットで検索したり、Youtubeの解説動画を見たりして理解に努めた。ただ、他人の説明をわかり易いと思ったことはなかった。彼らなりに工夫して説明してくれるのだが、図も、説明も、どうも的を射ていないように思えた。資格塾系の無料動画なども視聴してみたものの、30分あまりの動画だったが、自分が30分間教科書を読んだとき以上の成果を得られたようには思えなかった。話者や講師の面白くもない雑談にはうんざりした。
お盆を過ぎるころには行政書士試験の勉強を始めてしまったことを、後悔しはじめていた。一方で、受験申し込みの期日は迫っていた。
独学なので本代、文具費以外にお金はかけていなかったが、時間をかけることに意味を見い出せないでいた。時間の無駄だと感じた。仕事の方でもプレッシャーが高い状況が続いていた。そしてなかばそれを言いわけにする形で、この年の受験を止めることとした。秋にはテキストを開くこともなくなっていた。
そうして2022年は終えようとしていた。
2年目(2023年)
使用したテキスト・問題集
(基本テキストは昨年の使い回し)
合格革命 肢別過去問集(最新版)
合格革命 40字記述式・多肢選択式問題集
本試験をあてる TAC直前予想模試 行政書士
勉強再開(2023年1ー7月)
とはいえ、肢別を3周繰り返し、基本テキストは概ね読み終えてはいる。消費時間は私の中では「サンクコスト」として意識され・・・、つまり、「せっかく時間をかけたのにもったいない」という、非常に貧乏臭い、後ろ向きな理由から勉強を再開した。
勉強を再開するにあたっては、引き続き肢別を「回し」、全問正解することを目指した。そのうえで、分からない設問についてはテキストを読み返し、ノートを振り返り、Youtubeで解説動画を漁ったりした。
肢別は、1日当り1回90分、だいたい40ページくらいの進度で解き進めた。ただ、仕事で帰宅が遅かったり、疲れが出たり、旅行に行ったりした日は全く勉強しなかったので、1周するのにだいたい3週間から4週間はかかった。
春頃には再びさぼり癖が発症したものの、夏前までには肢別は8周回した。少くとも掲載されている設問は全問正解でき(というか、設問の最初の数文字が目に入ると○×を判断できてしまう)、関連する判例もだいたい押さえていた。
この頃にはノートにまとめる事もしなくなっていた。ノートには、肢別でつまづく都度、それに関する情報を整理したりしていたのだ。例えば、制限行為能力者ができること、できないこと、などについて、条文を記載して整理し、理由をテキストから転記したりしていた。ノートにすることは非常に手間だったが、「勉強してる感」もあって、満足感は高い。また、書くことで知識が記憶されもする。そうした作業を経たところ、肢別を回すことに退屈を覚えるようになってきていた。簡単に感じるようになってしまっていたのだった。
ただ、一抹の不安はあった。行政書士の資格は、こんな簡単な勉強で取れてしまうものなのか? なんだかんだ言って国家資格でしょうに。
どこかに落とし穴があるかもしれない。肢別は一瞥しただけで正解できるのに、不安は増すばかりであった。
力不足を知る(2023年8-9月)
そろそろ本番に向けた勉強をしたい、と思ったものの、その方法は分からなかった。その一方で、肢別を回すことで過去問については自信があった。
それでは次の段階ということで予想問題集を買ってみた。もっと早く購入すれば良かったのだが、予想問題は3回分しかなく、あまり早い時期から取りくむのは「もったいない」と思ってしまったのだった。
ともかく、解いてみた。
解いてみて・・・、不安が的中したのだった。
肢別をあれだけ回し、過去問を瞬殺できるほどの知識があったはずなのに、もの凄く難しく感じた。
もちろん、五肢択一などでは意味がある勉強だった。選択肢を解答候補を狭めることはできる。肢別の知識があれば、例えば五つの選択肢から二つまで絞ることができる。だが、残り二つから正解を導くことが困難であった。正解が分からない。というか、正解に至る根拠を説明できない。二択から正解を選ぶことができないのだ。解説を読むと、初めて知る情報であったりする。いや、基本テキストの欄外に豆知識的にこっそりと書いてあったりはしたが、肢別過去問には載っていない。つまり、ほとんど初見の情報なのだった。
さらに恐ろしいことには、記述は全く回答することができなかった。
質問内容は理解でき、答えも、何となくぼんやりとは思いつく。だが頭に浮かんだその「ぼんやり」を言葉に、それも法律用語を使って表現することができない。記述3問は0点である。
絶望的な気分になった。
「肢別を回せば合格」とはいったいなんだったのか。唯一救いだったのは、一般知識で求められる知識は社会常識、ビジネス上で知っていたことばかりだったので、ほぼ満点が取れたことくらいであろうか。
しかしとにかく、勉強の仕方を何か根本的に間違っていたとしか言えなかった。
直前期(2023年10月)
選択問題の点数を心配するよりも、致命的なのは記述0点である。
Youtubeでは、肢別を回せば記述抜きでも180点取れるなどという動画を引き続き見かけたが、この頃にはもうとてもそんな勉強法など信用できなくなっていた。
まずは2022年の本試験と予想3回分を徹底して繰り返す。そして、足りない知識を補う。だがこれだけでは記述は解答できない。
そこで、記述式の問題集(合格革命 40字記述式・多肢選択式問題集)を購入し、行政法や民法の基本的なワードを頭に染みこませることとした。
やがて、記述式に答えるためには、行政法や民法の条文にある基礎的な用語は暗記が必要だと感じた。例えば、「自己の法律上の利益にかかわらない資格」「知り、知ることができたときに限り~」「取消しの原因となっていた状況が消滅し、かつ、取消権を有することを知った後にしなければ~」等々、こうしたワードがすらすらと出てこないとお話にならないことに気付いたのだった。
気付いたのだったが・・・。
時すでに遅し。
試験日までには到底間に合わなかったのだった。
初めての受験とその結果(2023年11月)
残り1ヶ月ほどをかけて、ノートにまとめていた重要条文の暗記・・・、というかほぼ書き取りに近い作業を繰り返す一方、最後まで肢別を回し続けた。
受験会場は市ヶ谷駅のほど近いビルの貸し会議室だった。
長テーブルに二人ずつ席がある型式。会議室自体はかなり広いのだがテーブル同士の間隔は狭く、受験生を詰めこむだけ詰めこんで、密度が高いというのが第一印象。空調のせいか当日の天気のせいか、やや寒かったことを覚えている。
受験にあたっての諸注意の説明のあと、少々時間が空いたのち、マークシートが配られた。ここで辟易したのが、私の斜め後方の受験者。腕時計を持ってこなかった模様で、「会場に時計が無いのはおかしい」「不公平だ」などと試験官に対し大声で苦情を言い続けるのであった。ちらりと見やると、かなり年配のおっさんである。とても残念な気分になった(ちなみにこいつは試験中も独り言や舌打ちをし続け、うるさかった。私の集中力はだいぶそがれてしまった)。
とにかく、本番の試験が始まった。
受験希望者はご存知のことと思うが、行政書士試験の最初の数問は学問としての法律学から出題される。
「明治8年太政官布告103号裁判事務心得の3条には・・・」
?????
1問目にしていきなりつまづく。行政書士試験の一部は、行政書士実務とはかけはなれたアカデミックな出題がなされる。いくら肢別を何十周もこなし即答できたところで、法的思考が私の血肉になっていなければ解けるはずもない。
もちろん、行政法や民法の問題の全てで「肢別回し勉強法」が完全に無駄なわけではなかった。消去法で解答できる問題もたくさんあった。が、こうした法律の血肉を尋ねる問いや初出題の論点は解くことが難しい。そしてやはり、記述はほとんど書けなかった。
最後の一般知識を解き終えて、時間は1時間ほど余っていた。目印として、正解が確実な問題には○、曖昧だったり分からない問題には「?」を書いておいた。圧倒的に「?」が多かった。余った時間は当然見直しに費すことになるが、「?」な問題はいくら考えても「?」だ。最後の30分はほとんど放心状態だった。
こうして私の初めての行政書士試験は終わった。
はっきり言って悔しかった。問題が解けなかったことにではない。
ネットの情報に踊らされ、自分のリソース、特に時間を無駄に消尽してしまったことが悔しかったのだ。誰のせいでもない、自分の不明が原因だ。俺はこんなにアホだったのかと、いい年して泣きたくなった。
自己採点するまでもなく、合格点に満たないことは明らかだった。
3年目(2024年)
使用したテキスト・問題集
合格革命 肢別過去問集(最新版)
中原茂樹「基本行政法 第4版」
野呂充他「有斐閣ストゥディア 行政法 第3版」
道垣内弘人「リーガルベイシス民法入門 第5版」
池田真朗「スタートライン債権法 第7版」
安永正昭「講義 物権・担保物権法 第4版」
松浦一夫・奥村公輔「憲法概説 第2版」
本試験をあてる TAC直前予想模試 行政書士
出る順行政書士 当たる!直前予想模試
(スマホアプリ)行政書士 秒トレアプリ
リスタートの心構え(2023年11月)
不本意な成績だったため、悔しさは日々募った。
失敗の原因は分かっていた。行政書士試験を舐めきっていたのだ。法に対して真摯に向きあう姿勢も気概も無かったのだ。
しかしそれが原因なのだとするならば、解決策もあるかもしれない。真剣に、法律に向きあえば良いのだ。そう思うことで、少し気分は楽になった。
つまり「行政書士試験の勉強」をするのではなく、「法律の勉強」をすれば良いことに気付いたのだった。
ところで試験制度を踏まえると、行政書士試験は回を追うにつれ難しくなるので少し焦りもした。
※補足する。行政書士試験は、司法書士試験のような相対評価(上位n%を合格させる)ではなく、180点以上を合格とする絶対評価に基づく仕組みである。180点を超えた受験者が5万人いたら5万人を合格させねばならず、0人だったら合格者なし、そういう制度だ。もちろん出題者側は、合格率が10%程度(あるいは望みの合格率)になるよう難易度を調整して策問するよう努力する。
その一方で、試験内容や過去問は毎年分析され、受験者側、特に資格産業業界はそれに応じた対策を施す。
これは実は、出題者からすると困った話である。
少し考えれば分かるが、受験側はとっくに対策済みなのだから、難易度を毎年同じレベルに固定してしまうと、年々合格者数が増え続けることになる(もちろん、受験を諦めて退場する者もいるし、出題範囲が変更されることもあるのでそれほど単純な話ではない)。だから出題側は、受験者側の「対策」を回避するために、アカデミックな設問を増やしたり、レアな判例をテーマとしたり、法制度の細部を質問してくるようになる。
「行政書士試験は10年前より難しくなっている」「難化と易化を繰り返しているが傾向として難しくなっている」と、おそらく肌感覚として皆は感じていると思うが、その感覚は正しい。
年々設問レベルが難しくしなければならないような仕組みが、そもそも制度として内蔵されているのだ。将来的には司法書士試験のように、相対評価型試験に変更されてしまうかもしれない。
・・・従って、できる限り少ない回数、もっとはっきり言えば、次回、令和6年度試験で合格しなければならない。
法律の勉強を開始する(2023年12月ー2024年3月)
とはいえ法律の勉強などは、大学の教養部でほんの数コマ単位を取ったのみで、今や全く記憶に残っていない。かといって高校教科書「政経」では全然物足りないであろう。通勤途中にある町中の書店ではまともな法学書など置いてなどいない。ここでようやく、娘が法学部生だったことに考えが至る。今まで失念していたわけではないが、「大学の法律の勉強」と「行政書士の勉強」とは全く別の物だと、理由もなく思いこんでいたのだった。
上記に記載したテキストのうち、娘から「憲法概説」「スタートライン債権法」「講義物権・担保物権法」を徴発した(娘曰く、どうせもう読まないから)。
いずれのテキストも、大学で初めて法律を勉強する、おそらく学部1、2年生あたりを対象としているようだった。特に「スタートライン債権法」は文体が口語調で、私にとっても親しみやすかった。肢別でなんとなく理解していたつもりだった条文について、はっきり理解することができた。これら3冊とも条文の理論的背景は非常に分かりやすく説明してくれていた。一方で、判例の紹介や解説は少なく、受験のための書物ではないと思った。もちろん、受験特化の書籍ではないので、それはそれで良いのではあるが。なお、「講義 物権・担保物権法」はこの3冊の中ではかなりガチ寄りの法学書であり、法律の勉強が初めての人には難しいと思う。私は、腐っても今までの行政書士試験の勉強で物権法の上っ面だけでも知識があったので何とか読めたが、かなり歯応えがあるので注意してほしい。
一方で、民法総則や行政法については娘は教科書を持っていなかった(専攻が違っていたり、教材が教授のプリントだったりしたため)。
そこでネットで法律初学者向けの書籍を検索し、評判をもとに数冊購入した。試し読みができないため賭けに近かった。
「リーガルベイシス民法入門」は法とは何かといった大問題から、西洋の歴史の中でいかように民法が成立したのか、日本での民法制定背景など、行政書士試験とはあまり関係のない話が入り口である。関係ないのであるが、物権法や債権法が、庶民にとっては少々納得しがたい部分を内包しつつも、人間社会を形成していく上で無くてはならないものであることが分かってくる。語り口は平易で身近な話題を例にしながらも、民法そのものの正体を少しずつ見せてくれる良書だった。行政書士試験では問われないが、リース契約における債権関係などは、非常に理解しやすい記載もある。仮担保登記は(ビジネス実務法務検定2級では試験範囲)行政書士試験では対象外であるが勉強になる。しかし惜しむらくは紙面の関係上であろうか、家族法が少々薄いと感じた。もっとも、行政書士試験での出題は2問程度であるから、それでも十分ではあるのだが。
「有斐閣ストゥディア 行政法」は冒頭で本書自身が説明しているように、完全に初学者の法学部生を対象としたテキストである。だから、とても読みやすい。最新の判例の紹介もされている。行政法初学者がつまづき易いであろう、都市計画や市街化調整区域の処分性や原告適格について、スッと腹落ちできる説明となっていて、読んでいて嬉しくなった。これについては肢別で無味乾燥に暗記していただけだったが、理由や背景を理解することができた。ただ一方で、少々物足りなくも感じた。特に、行政事件訴訟法はあまり突っ込んだ解説は無いように感じた。
「基本行政法」は過去問題集や予想問題集を除けば、最も最後に購入したテキストである。めちゃくちゃ歯応えがあり、ここで紹介するテキストの中では一番難しく感じたので、よほどの心構えが無い限りは避けた方が無難かもしれない。アジェンダ構成も少々独特だし、国家行政組織法や地方自治法にはあまり触れていない。行政不服審査法も少し記載が薄い(例えば試験でよく問われる教示などについてはほとんど記載がない)。しかしながら、まさに行政書士試験で問われそうな論点や判例について、かなり詳細に解説している。というか、ここ数年の本試験の出題がアカデミックに解説されていたりする。もしかしたら著者は行政書士試験の試験委員なのか? それくらい試験にマッチしている判例と解説なのだ。取消訴訟と無効等確認訴訟の趣旨と差異をはっきり理解することができたのも良かった。この本をきちんと理解できれば、行政法、とくに行政事件訴訟法については、初見の論点や判例でも解答できるようになると思う。また直近の判例解説が豊富なことも試験向けだったりする。
基礎固めを続ける(2024年4月)
前節の書物は2023年12月に少しずつ書い揃え、ゴールデンウィークが終わるころには読み終えていた。読んだ順番は次の通り。
「憲法概説」
「講義 物権・担保物権法」
「スタートライン債権法」
「リーガルベイシス民法入門」
「ストゥディア行政法」
「基本行政法」
12月から読み初め、新年度を迎えるころには読み終えていた。いずれも初心坦懐、飛ばしたりせずにキチンと読んだ。最も時間がかかったのが「物権・担保物権法」だった。今顧みると、「リーガルベイシス」はもっと早いタイミングで読むべきだったと思う。逆に「基本行政法」については、先に入門的な「ストゥディア行政法」を読んでおいて良かった。いきなり「基本行政法」では理解できなかったかもしれない。前述したようにクセも強い。だが試験直前期にもっとも読み返していたのは「基本行政法」の方だった。特に行政事件訴訟法の解説は、記述に役に立つと思う。
ちなみに私は地方自治法や商法・会社法はこうしたアカデミックなテキストを買わなかった。べき論で言えば、読んでおくべきだったろう。なぜなら、今年の本試験で私が点数が取れていなかったのは会社法だったからだ。明らかにカバーしなかったカテゴリだ。
もっとも、これも考えようかもしれない。会社法はかなり「深く細かい」法律である。興味はあるものの、行政書士試験での点数配分は国家賠償法と同じくらいか。会社法まで大学レベルの勉強をすることは、少々効率が悪いかもしれなかったので、結果的には(?)良かったのかもしれない。
演習に入る(2024年5月)
「肢別10周」はあまり意味の無い勉強法だったとはいえ、3回くらい回しておくことは有益だったと思う。肢の主語と述語を読むだけで一撃で解けたり、選択肢を狭めることが可能だからだ。上述のテキストを読みこんだことで、設問の背景を想像することができ、頭の中で判例とつなぐことも容易になっていた。
今回は予想問題にも早めに着手した。
「本試験をあてる」も「当たる!」も予想問題は3回分入っている。レベルは本番よりちょっとだけ難しいと思う。ちゃんと時間を計ったのはそれぞれ1回くらいで、あとは1問解くたびに解説を読み、理解できていない情報であればテキストを読み返すなどして、かなり時間をかけて学習した。
肢別は所詮、過去問集である。
本試験では、肢の一つとして提示されることもあるが、最近の判例や、社会情勢に関連した出題はカバーできない。だから、予想問題を解くことは大変有益なのである。できれば発売直後に購入し、真っ先に取りかかり、初めて見る判例や論点などは完璧に理解しておくべきだろう。
去年の暮れから春先までで、概ね基礎は固めたという自負はあるものの、記述対策が不十分であることはわかっていた。わかっていたのだが・・・、なかなか対策が難しいこともわかっていた。解き方として解答すべきイメージは浮かぶのだが、その法的状況のイメージを適切なワードで十分に表現できないのだった。
アプリ購入と記述対策(2024年5ー7月)
実は(というか行政書士を目指す方々には常識だが)2024年度から試験範囲が変更になった。行政書士法や戸籍法などが新たに対象となる。が、手頃なテキストを持っていなかった。このためだけに基本テキストを書い直すのも無駄に感じた。
そこで、スマホアプリを購入し、演習で済ませることとした。行政書士法や戸籍法だけを購入してアンロックし、繰り返し解いた。これが思ったより歯応えを感じるとともに、手応えも感じた。通勤中に短時間に終えることもできるし、解答率100%を目指すゲーム性も挑戦欲をかき立てた。肢別のように○×の解答ではなく、言葉を選択しなければならないことが、実は記述の訓練になることに気づいた。結局、憲法、行政法その他、全てのカテゴリを購入してしまっていた。
このアプリを出勤、帰宅時に繰り返すことで、法的なフレーズが自然に頭に入っていることに気づいた。
例えば、「選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格」「抵当権は抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産に付加して一体となっているものに及ぶ」「不動産に関する物権の得喪及び変更は登記をしなければ第三者に対抗することができない」、といったフレーズの中の「選挙人たる資格」「付加一体」「得喪」といった単語がスッと頭に浮かぶようになっていた。具体的に頭に浮かぶのであれば、書くことは簡単であった。「欠缺」「心裡」「保佐人、補佐人」「強迫、脅迫」といった注意すべき漢字は少しはあるが、頻繁に問われる条文や判例のキーワードは、文章として書き下せるようになっていた。
とはいえ、やはり練習というか慣れは必要だと感じたので、予想問題の記述問題を抜かりなく復習し、狙われそうなフレーズを繰り返し声を出して読むことで、体に染みこませた。もちろん書く方が良いのだとは思うが、時間がもったいなかったのである。
模擬試験で腕試し(2024年8-10月)
そんな感じでお盆も勉強を続けた。
それにしても最近の夏の暑さは異常である。涼しく快適な勉強部屋など私には無かったこともあり・・・、というかそんなことは理由にはならないのであるが、正直な話、少々さぼり気味であったこともここに告白しておく。
暑さに負けてさぼり気味ではあったが、夏の終わりには肢別も予想問題もほぼ完成レベルに達していた。秒トレはだいたい99%くらいの達成率に至っていた。
一方で、法理論や基礎法学は手薄に感じていた。特に、本試験の1問目と2問目は、憲法というか、法学全般に関するアカデミックな出題がなされることが多い。過去問が出題されることはまず無い。しかし民法、行政法の大学学部レベルのテキストを読んでいたおかげで、初見の問題でもある程度は対応できそうではあった。が、不安もあった。「明治8年太政官布告」などという文字を目にしても焦らないようにしたい。不安の原因は演習不足であると確信した。その解決策として、資格業者の模擬試験を受験することにした。
どうせ受験するなら、緊張感の無い在宅やオンラインなどで受けるのではなく、資格学校の講義室で受けることが良いシミュレーションになると思ったし、実際そうだった。
マークシートに書き込む音、問題のページをめくる音だけがシンとした講義室に響く。この雰囲気は家で勉強しているだけでは味わえなかっただろう。試験時間は本番同様3時間であり、時間感覚を掴むこともできた。私の場合、だいたい110分ほどで選択問題を解き終えることができ、記述には約30分必要であることが分かった。残り時間は確認時間にでき、それを経ても試験終了10分前には納得できる解答状態で提出することができるようである。
また、模擬試験とは事実上の予想問題なのであって、過去未出題の論点、特にここ1ー2年の判例問題などは大変参考になった。さらに、憲法や基礎法学などは新たな視点を加えることができ、力を付けることができたと思う。
結局模擬試験は同じ業者のものを2回受けた。
1回目は162点でC判定で、この結果には愕然としたが、条文理解の正確性が必要なのだとあらためて認識できたことは収穫であった。それと、解答ミス(例えば「妥当でないもの」を選ばねばならないのに「妥当なもの」を選んでいたりした)も散見され、問題を慎重に読むことの重要性を肝に銘じた。
2回目は1回目から約1ヶ月後であり、ほぼほぼ満足できる点数を取れた。206点でA判定だった。「条文や判例は正確にフレーズを覚える」・・・この1ヶ月はそれを念頭に置いて学習してきたので、その成果だと思った。記述は28点だったので、もう少し努力が必要だと判断した。
直前期(2024年10月末ー11月)
本番直前期は仕事が多忙を極め、しっかりと勉強時間を確保することが難しかった。
だが、焦りはなかった。模擬試験の結果が良かったことが、心理的に平静でいられた理由だと思う。時間を確保できないなりに、例えば通勤中に、あたかも単語帳をめくるような感覚でスマホアプリで問題を解き続け、就寝前には「リーガルベイシス民法入門」を勉強目的ではなく、読み物としてパラパラとページをめくったりした。
試験の一週間前の日曜日は連休の中日であった。
移動ルートの確認と会場下見のため浅草へ向かった。去年は市ヶ谷で受験したが、今年は浅草の会場を選んでいた。都バスを乗り継いで向かったが、予想より移動時間はかからないことがわかった。とはいえ、本番では念のため開場前には着いておきたい。浅草は外国人観光客でごった返していたので、おそらく来週も同じような混雑になるであろう。早く着いた場合の時間潰しの場所(私の場合は松屋浅草の屋上。実際、本番当日もギリギリまでそこに居た。ほとんど無人であった)も確認しておいた。
試験前日も落ちついていた。鉛筆を削って受験票を鞄にしまって、早くもなく、遅くもない時間に就寝した。
試験当日は少々雲行きが怪しかったが、雨は降らないとふんで家を出た。
バス停はマンションの目の前である。そこで都バスに乗ろうと思ってPASMOを忘れたことに気づいた。えぇ・・・こんなことある・・・。この日の鞄はいつもの通勤バッグではなかったため、入れ忘れたのだった。時間はかなり余裕があったので、いったん家に戻り再び浅草に向かった。
浅草でバスを降りて、財布を忘れたことに気づいた。
普通忘れますか、財布。
この時は心底焦った。幸いPASMOには5千円ほどチャージが残っていたので交通費やペットボトルのお茶代くらいは大丈夫だと思ったが、問題は現金ではなく、いつも財布に入れている身分証明書である。急ぎ受験票を確認したが、必要な持参物として身分証明書の記載は無かったので安心した。
去年、腕時計を持ってこなかったオッサン受験者を不快に思ったのだが、まさか今年は自分が財布を忘れることになるとは予想もしていなかった。しっかり勉強して準備はしてきたつもりでも、どこか抜けていた。そんなマヌケな自分がおかしくて松屋浅草の屋上で独り苦笑いしていると、不思議と気分も落ちついて来た。
11月の百貨店屋上は肌寒かったが、不快ではなかった。
アサヒビール本社の滑稽なビルを眺めるなどして、ゆったりと時間が過ぎるのを待った。ここに至って、問題集を読み返したり、アプリを起動したりはしなかった。
開場直後に受験会場に着いたら、たくさんの受験生が並んでいた。
なかなか殺気立った雰囲気であったが、私はひと気の少ない場所で時間を潰していたこともあって、気持ちに余裕があった。もちろん、しっかり勉強してきたという自負もあった。
最後に
試験当日のことは特に書くべきこともないので、この文章もそろそろ終わりである。会社法の難しい問題のあたりに取り組んでいたころ、会場外の公道で活動家がデモ行進を行なっていたようだ。拡声器で女性活動家ががなり立てていたが、迷惑至極で、少々注意力が削がれてしまったのは残念だった。
ともかく、自己採点では記述抜きで180点を超えていて、記述は最低でも40点は取れる見込みであるため、よほどのマークミスなどがなければおそらく合格である。ちなみに、先取特権については完璧に書けたと思う。
さて、行政書士試験の勉強について思ったことを長々と書いた。思いつくままに書いたので、書き忘れ、書き漏れもあるかもしれないが・・・。とにかく、私の行政書士試験戦記は、以上である。
これから受験しようとする方々の参考にしていただければ幸いである。
最後に、行政書士試験の勉強について私が思うところを簡単に箇条書きで述べて、筆を置くことにする。
肢別問題集は最低3周は回すべきだが、それ以上回しても得られる成果はほとんどない。
予想問題は可能な限り早期に購入、入手し、しっかりクリアしておくこと。前年の、古い版も可能であれば入手して学習しておくべきだろう。おそらく難しく感じることと思うが、きちんと復習しておくことが重要。
模擬試験も受けておくこと。目的は、予想問題の入手と試験本番会場のシミュレーション。
あなたが法律系資格試験の初学者で、かつ、働きながら勉強するとした場合、勉強期間は1年では短いかもしれない。おそらく基本テキストすら読み通せないかもしれない。早めに、文字が大きくイラストが多い、初学者用の易しい入門書を読んでおくことをお勧めする。
各出版社の基本テキスト(合格革命とか受かる!とかトリセツとか)は、初学者は1回は目を通した方が良い。ただ、そこには最低限の情報しか入っていないことを承知しておくこと。本番では初めて見る論点や細部について多く出題される。予想問題を解きこなすうちに基本テキストではすぐに物足りなくなり、専門書や弁護士さんの解説が欲しくなる。
民法についてはそうした基本テキストではなく、司法書士試験のテキストが非常に、非常に、ひっじょーに役に立つ。なぜ誰も薦めないのか。いま司法書士試験民法のテキストを読んでいるが、そのまま行政書士試験に対応できる。というか、基本テキストの民法は内容が薄くて甚だ心許ない。行政書士試験のレベルは、もうそこまで上がってきているのだ。
ノートをまとめるよりも、重要条文のフレーズを暗記する方が有益である。ただし、正確に暗記すること。自分なりのフレーズ集を作っておくことをお薦めする。
スマホアプリは隙間時間の活用にたいへん有効である。
私は結局、六法全書は書わなかった。試験対策としては、今でも不要だと思う。
ただし、政府のe-Govで、必要に応じて法令検索した。というか、憲法、国家行政組織法、行政手続法、行政不服審査法、地方自治法、行政代執行法、国家賠償法、民法、商法、会社法はブックマークしてすぐに検索できるようにしておくこと。
Youtubeの解説動画は、玉石混淆である。ゴミみたいな動画の方が多いので、視聴前によく吟味すること。そして、そんなものを選び、吟味する時間があるのならば、テキストをしっかり読みこむことの方がよっぽど大切。
ギリギリではなく、余裕をもって合格点(180点)をクリアしたいならば、大学学部レベルの入門的な専門書は読んでおくべき。肢別を回し続けたりYoutube解説を見るよりも、「法律」に対する基礎的な学力、「問題を解く力」が身につく。
行政書士試験に特化した判例集があれば、購入したかった。ありませんよね?