詩小説『引越物語』②軒下でほげー
家を建てるなら、まずは家族みんなでイメージを固めなきゃ。
いつのまにか、菜摘が取り寄せてくれていたミサワホームやパナホームから送ってもらったカタログを夫とわたしも加わり三人でほげーと眺める。
「なんやお…ほら…あれよや。」
「うん…外国のホテルみたい…。」
とても美しいそれらが、わたし達に微笑んでいる。
こんな立派な外観は必要ない。
そもそも、こんな大手に発注するお金がない。
「退職したら平屋の軒下でぼんやりしたいがよ。」と正雄が天を仰ぐ。
イメージはもうあるのだろう。
大好きなYouTuberさんが動画であげていた高知県産の木をふんだんに使った家を、わたしは思い出していた。
木の温もりが感じられる家か…いいなぁ…。
寝転がることができるくらい広くて手触りのいい縁側で、犬や猫が庭でのんびりしているのを眺めて暮らしたいと素敵な笑顔で話している正雄。
わたしも義妹も、正雄流の軒下ほげーライフに賛成した。
三人で暫し妄想したところで、現実世界に戻ってきたわたしが正雄に尋ねる。
「おばさんの特注テーブルはどこへ置くの?」
広々とした軒下に憧れはするが、かなり家の中が狭くなるだろう。
「なんでぇ……引っ越ししたくないがやろ」
勝手に捻くれていく夫に応戦しようと身構える。
菜摘だけが一人ニコニコしている。
「お兄ちゃん、どっちかにしいやぁ」
「軒下は譲れんき!」
「おばちゃんに大きなテーブルはイヤ!棚がいい!って、なっちゃんが言うちゃお」
いつものお幼稚さんのような愛らしい口調だった。
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