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詩小説『引越物語』㉞伝える前に

【小説を読んでいただく前に】
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初めて、拙作『引越物語』をご覧になる方は、こちらのマガジンのほうで登場人物をおさえていただきますと読みやすくなるかと思います。良かったら、こちらをお読みくださいm(_ _)m
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こちらが前回のお話です。お話が繋がるので、よろしければご覧ください。

では、この川をジャブジャブ歩いて渡っていただき『引越物語』第34話をお読みください(*´ー`*)





「なっ、じゃなくて。私は、早く本当のことを麻美ちゃんに話したほうがいいと思う。そりゃショックやろけど、いつまでも隠しておくのは違うと思うが。なんでかとゆうと…なんでかな…。」

「ちょっと待って。なっちゃん、私って言うようになったがかよ。えらい大人の主婦みたいやか。」

菜摘の義父の龍誠は、幼い話し方を直そうと奮闘するお嫁さんを目を細めて見ている。

「主婦は大人に決まっちゅうろ。親父も話を茶化しなや。大事なことながやき。」

菜摘の顔色が曇ったのを見た龍也は、俺の奥さんを守る!とばかりに割って入った。

スシローに来たというのに、誰も寿司を食べていない状況は異常だ。店員が訝しげに横目で通り過ぎていった。

義理の妹が大事にされているのを見てホッとした凪は、軍艦巻きを一皿手にした。ひと口で平らげお茶で流し込む。

「麻美さんがいつまでも父親が誰か知らないまま、死んだことも知らないままなんて、やっぱりあかんよね。」

皆が一様にうなづいた。

「はぁ……。誰が伝えたらいいのかな…。なっちゃん頭が悪いき話し方がわからん。麻美ちゃんをトントンしたり手をつなぐのはできるけど。」
元の話し方に戻って悩む菜摘を、皆が和やかに見つめた。


ずっと無言で腕組みしていた未希が、意を決して話し始めた。

「みなさん今日はありがとうございます。麻美ちゃんがうちに来てから二ヶ月になるけれど、今もよく眠れないようだし、食事もびっくりするくらい食べる時と殆ど食べない時があって…。とても元気になったとは言えないの。お亡くなりになったお母さんのことばかり話しているのよ。同時期に両親をなくすなんて、麻美ちゃんじゃなくても不安定になるわよね。」

麻美のためらい傷を思い出し、未希は頭を左右に振った。

「こういう時に、私達はマリオに頼ってばかりだけど。今回は話が込み入っているからね。彼に任せるのは難しいと思う。」

唸るように告げる未希に、凪も大きくうなづいた。


「ほんならよ…俺が言うちゃおか?事情は大体わかったき。恨まれても叩かれてもビクともせんきよ。」

「えー!龍誠さんが?」
未希、凪、菜摘が同時に声にした。

「俺じゃ、いかんろうか。かえって遠い人間が本当にあったことだけを話したら、八つ当たりもできんき聞くよりほかないろう。親を亡くしたら、誰しも辛い思いを抱えて生きていくより他ないきねぇ。あとはキミらぁが支えていくろうがね。」

「亀の甲より龍の口か。」
父親の突然の行動に驚きながら、顎を撫で続える龍也は自分も何か力になれないだろうかと思案していた。

菜摘がいつのまにか寿司を10皿クリアし、食後のスイーツに手を伸ばしている。

「さぁ、俺がおごるき遠慮せんと食べや。」

皆がやっと食欲を取り戻す中、菜摘は満腹になったお腹を撫でてニコニコしていた。

「なっちゃんは、ちったぁ遠慮しなさい。」
龍成に言われて、菜摘は照れ臭そうに肩をすくめた。




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上湯かおり
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