詩小説『引越物語』㊲空に捧げるマルゲリータ
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こちらが前回のお話です。
では、ご一緒に『引越物語』第37話の舞台・関西国際空港へ足を踏み入れてみましょう。
「上海行き、7時30分発77便は、ただいま皆様を機内へとご案内中でございます。 ご利用のお客様は、保安検査場をお通りになり2番搭乗口より…。」
飛行機に乗ったことのない麻美は、空港に来るのが初めてだった。
マリオと仲直りしたことも、こうして2人でマリオの母親を空港まで迎えに来たことも、現実のことではないように感じていた。
ただマリオに肩を抱かれている自分がいて、頭の中で空港内のアナウンスが流れている。
「ななじ…さんじっぷん…変な言い方。」知らないうちに口に出していたことを、麻美は自分で驚いて我に返ったのだった。
「ママー!!麻美とマイベイビーだよ。」
大きな太陽のような笑顔が、どんどん近づいてくる。
瞬間、むぎゅーと音がしそうなくらい抱きしめられた。生まれて初めて味わう感覚だ。
そんな奥さんと実母を見つめるマリオは、感激して泣いていた。
このままでいられたら、どれだけ幸せだろう。
麻美は初めて、生きていて良かったと思った。
「〆ajmwp#dwpwydjt!」
バチーン!!大きな母の両手がマリオの顔をサンドした。
「いたいよーママ。久しぶりなのにー。もっと優しく挨拶してよ。」
麻美に解るように、母親の前でも日本語で話すマリオ。
嬉しい反面、わざわざジェノヴァからはるばる来てくださったのにと麻美は感じていた。イタリア語で親子の会話がしたいはずだと、マリオに伝えたかった。だがタイミングが見つからない。
マリオの母親は笑顔で話し続けていた。麻美はスマホのGoogle翻訳を使っていたが、マリオの母親の会話は殆どまともに通訳されなかった。
マリオは叱られているらしい。でも、ほどなくして母親は、2人と孫の3人をぎゅっと抱きしめてくれたのだった。
「アパートに戻って、七夕パーティーをしよう。ボクがマリゲリータを焼くからね。」
あぁ、こういうことか。麻美はひとり納得する。2週間前ジェノヴァから小麦粉が送られてきたのに、マリオが使う様子がなく不思議に思っていたのだ。
「オーブンだから、あまり美味くないけど、2人とも我慢して。ジェノヴァに行けば、最高のジェノバのピザを食べて。」マリオが嬉しそうに告げた。
「う…うん。ジェノヴァのピザってジェノベーゼソースがかかったピザかな?食べたいな。」ほとんど棒読みで返事してしまった麻美は、マリオの表情を読み取ろうとした。だが、マリオは自分のママに何かを話すのに夢中になっている。
まだ少し日本語がわかりにくいところのあるマリオの一言一言に、普段の麻美なら確認するために会話を止めることもあるのだが、マリオの母親にこれ以上の心労を与えたくはなかった。
マリオの母親も、離婚後は一人でマリオを育てあげたのだ。数年前から心臓も悪くしていて、レストランをやめるかどうかで悩んでいると聞いていた。
こんな時、きっと未希さんならイタリア語も話せて、レストランの経営者同士でアドバイスや悩みの共有だってできるんだろうな…。やっぱり私は役立たずだ…。
「ごめんよー。麻美とベイビーにジェノヴァの言葉わからないね。ごめんね。」
ハグしながら謝るマリオに、麻美は1人で落ち込むのは、もうやめようと思った。母親になったのだから、マリオのマンマを見習って強くなろう!
3人で空港の出口から外へでる。
麻美は天空を仰いだ。
眩しいほどの青空。
きっと今年の七夕は晴れ。
織姫と彦星が天の川で再会できるだろう。
参考サイト
トリップアドバイザー
※空港内のアナウンスや便名などは実在しません。
※フィクション小説ですので、登場人物とその言行は創りものです。
次のお話です。