広告だけで漫画の感想を書いてみた話

広告、それは商品を広く認知させる手段である。
だからこそ、商品の魅力や内容が直感的に伝わることが望ましい。

昨今、個人的に”アツい”と感じているのがネット広告だ。中でも漫画広告はすごい。とにかく読者の興味を引くように作中の印象的なシーンを引用するか、ストーリーがわかりやすく要約されている。
つまり、広告を読めばその漫画の”核”をつかむことが可能なのである。

『偽装カレシに愛されてしまいました』は去年秋頃からネット広告で見られるようになった漫画だった。
恐らくは、偽装した彼氏に愛されてしまう話だ。線がきれいで、特に髪と指の描写が美しかった。私はこの漫画を広告で追うことにした。
人気漫画だけあって広告にも力を入れているのか、実に様々な広告を見た。漫画のコマを絶妙にコラージュしたそれは、それ単独で現れることはない。必ずアオリがついているのだ。
それは主人公からクソ男(元彼)、彼氏(偽装)、寝取り女まで様々な人物の視点で書かれており、なるほど、同じ話でもターゲットを絶妙に変えて関心を引いているわけなのである。

また視点を変えることで多面的に物事を見られるようになるのもよかった。その結果私はピンときてしまった。この話は、長年付き合っていた彼氏にプロポーズされると思い、覚悟を決めていったら実は浮気をされており、その女と結婚したいから別れてほしいと言われた挙句、その寝取り女に当てつけのように婚約パーティーに招かれ、「彼氏つれてきていいですよ♡」と言われた手前ひとりでいくのも悔しく、飲みに行った冴えない後輩に愚痴ったらその男が偽装彼氏になってくれたが、実は男はやればできるタイプの男で、無事婚約パーティーに水をさすことができたが、なんやかんやあって愛されてしまうというストーリーに違いない、と。

他にもいろいろなことがわかった。元カレは眼科医、偽装彼氏は外科医という、うっすらと見えてしまうカーストのことや、寝取り女はまだ22歳だということ。名前は「胡桃」でくるみではなくこもも、と読むこと。元カレは早くも振られ、いわゆるロミオとなって復縁を迫るも水野に返り討ちにされたこと。何より水野が実は秋穂という人物であったことが一番の驚きだった。同じ職場であることがばれたらまずいのだろうか。広告を見る限りすでに胡桃にはバレているようだが……。初期は「水野」と彼を呼び親しんでいたので、急に「秋穂です」と言われても困惑してしまう。何とかして水野になってもらえないだろうか…。

さて、言ってしまえばかなりキャッチーな設定の話であるように感じる『偽装カレシに愛されてしまいました』であるが、この漫画の真髄は「仮の恋人関係のつもりが、、、」という点ではない、と私は踏んでいる。キーマンとなるのは寝取り女である胡桃だ。正直にいうと、私は胡桃をかなり贔屓している。当て馬という表現があってるのかわからないが、よくいる主人公に意地悪な言動をする女キャラとは一線を画す存在だと思う。胡桃が結婚を急ぐ理由が自身の家庭環境や過去にあることも広告で判明している。さらに本人も言っている。「可愛さに胡坐はかかない。料理だって美容だって仕事だって頑張ってる」と。(余談だが胡桃と胡坐って似てるな)
だからこそクソ男ことタクヤに「家庭に入ってほしい(意訳)」と言われたとき、「こいつ、舐めてんのか?」という感情に襲われ、結果ふたりは破局した。当然である。胡桃は22年間の時を費やし、今の自分をつくってきたのだ。そこには強く、確かなプライドがある。クソ男のゴミのようなプライドとはまったくものが違う。胡桃のは矜持、タクヤのものはただの見栄なのだ。そんなものに壊されていいものではない。
めぐみはこんな男とよく7年も付き合ってたな、心配だよ。いや、待てよ。言ってみれば、胡桃はめぐみを救ったのではないだろうか。もちろん、さすがの私も「すべて胡桃の計画通り」などと思っているわけではない。結果、救ったというだけの話だ。でも、この件によって胡桃とめぐみには”縁”ができた。いや、めぐみが気にしていなかっただけで、実際胡桃は強くめぐみを意識している描写がある。それは嫉妬であり、羨望であり、胡桃をがんじがらめにしている美しい執着だ。なぜそんな視線を向けるのか。それを語るにはまだ早いのかもしれない。でも、と思う。でも、めぐみを救えるのは水野……もとい秋穂ではなく、胡桃なのではないか。めぐみは今、「水野秋穂に救われた」と安堵しているかもしれない。今一度よく考えてほしいと思う。嵐で転覆した船から放り出された王子が、浜辺まで運んでくれたのは誰なのか。たまたま通りかかった隣の国の姫ではない。人魚姫だ。

本当にめぐみを想ってくれるのはいったい誰なのか。仕事に熱中している32歳のめぐみを献身的に支えることができるのは、サポートが得意そうな胡桃ではないのか。私は最近現れた広告でその気持ちを確信しつつある。「引き立てるため」といって合コンへ連れ出すならば、めぐみにリップを塗ってやる必要などなかった。胡桃に「君、性格悪いでしょう」とまるで本性を見抜いたと言わんばかりに切れ者ぶっている合コン男は結局何もわかってないのだ。そしてきっと、胡桃自身も──。

いつか、胡桃がめぐみの唇に、めぐみに一番似合うリップを乗せる日を待ち続けている。もしかすると、もうそうなっているかもしれない。さすがに物語の結末を広告にすることはタブーなのだから。
私にできることは、8月12日に発売が決定している『偽装カレシに愛されてしまいました』のコミックスを読んで、自分の目で確認することだけなのかもしれない。

ちなみに「なんだその男!南米だったら撃たれてるよ!」というアグレッシブな励ましをしてくれた女性があのコマ以来まったく登場しないので、もしかすると友人ではなく飲み屋の店員さんなのかもしれない、と最近は思い始めている。
それをコミックスで確認するのも、今楽しみのひとつなのである。


※作品を読まずに感想を送るのは基本的に失礼にあたる行為です。今回は作者の方に許可をいただいてこういったものを書いています。
『偽装カレシに愛されてしまいました』をよろしくお願いいたします!

↓こちらのめちゃコミックから読むことができます

https://mechacomic.jp/books/147791

私は単行本で読みます(8月販売予定だそうです)(楽しみ)



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