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私達、地獄に落ちてもこよりで竹の根本つつきながら推しの話しよーね~静岡旅③~


人間には終わりがあり、死亡率は100%です。

人間は、現世で肉体と幽体(魂)を持ち、これらは「末魔」という目には見えない64本の糸で結ばれています。
亡くなる時、この末魔が断たれる。「断末魔の苦しみ」はここから来ている言葉です。
この世とお別れしたあとは3つのコースに分かれます。良い人、悪い人、そして普通の人。
思いやりをもった心優しい人は極楽浄土に直行。反対に悪いことをしても悪いと思わない人は地獄に直行、奈落の底へと落とされます。
いいことも悪いこともした大部分の人は来世に行く前に審査があります。
審査の期間は49日。この間を「冥途(めいど)=迷う道」と言います。来世が定まらずにずっと迷っているそうです。

そして生まれ変わる世界、それが【六道輪廻】。
人間界⇒また人間に生まれ変わる人が行く世界。
畜生界⇒ぐーたらな人が行く牛や豚、猫や犬、動物に生まれ変わる世界。
阿修羅界⇒喧嘩ばかりしてちょっとのことで怒りっぽい人は戦いばかりの阿修羅界に。
地獄界⇒悪いことをした人が落ちる。
餓鬼界⇒欲張りがめつい人は飢えに苦しむ餓鬼界。
天上界⇒人間界よりちょっといい世界。
これら六つの世界をグルグルと生まれ変わりの繰り返しをします。

一番いいのが仏になって成仏ができる極楽世界(涅槃)。永遠の命が与えられます。

伊豆地獄苑で説明していただいた内容を書き起こしています



私たちは、最初の広間で地獄にまつわる説明を受けて圧倒され、顔を見合わせることしかできなかった。
わちこさんは「なんだかすごいところに来ちまったぞ」という顔をしていた。しかし、その表情は興奮を抑えきれていない。
私も胸がどきどきと高鳴っていた。どう見てもこれは秘宝館とは様子が違う。


「どうぞ、この先にお進みください」

案内にしたがってほの暗い階段を進む。先ほどの地獄についての説明で興奮していたわちこさんだが、闇が深くなるにつれて「こわい」と怯えだした。
「ひらやさんが先に行って」
この細腕のどこにこんな力があったのか、わちこさんは私の後ろに素早く回り込みぐいぐいと背中を押してきた。
壁には『世界観を表現する上で小さなお子様が怖がられることがありますが、脅かす要素等はありません』というような張り紙があったので指さし「ほら、怖くないですよ」と嗜めたがキレ気味に「いいから先に進め」と叱られたので渋々進む。ここに来たいと言い出したのはこの人なんですよ。

はじめの部屋、そこにあるガラスケースには三途の川が広がっていた。
かの有名な三途の川は、犯した罪の重さに比例して渡る場所が深くなるらしい。6文銭で乗ることができる「渡し船」や、金銀七宝で造られ(なんで豪勢に仕上げた?)善人だけが通ることのできる「有橋渡」もジオラマで表現されている。

その次のガラスケースは「賽の河原」だ。親より先に死に、親を泣かせた罪と生前何の布施もしなかった罪で、寺を模して石をつまされるという理不尽な世界だった。
「供養により穢れのない子どもは地獄ではなく、人間界か極楽に行く」と言い訳するかのように看板が立てられているが今更不満の気持ちは消えない。


子どもが何したってんだよ…


裸の小さな子ども達が泣いたり座り込んで石を積み、それを見張る様にして立っている赤鬼の持つ長い棒を見ながら「あれで石を崩すんですかねえ」と軽蔑した目でわちこさんが言う。
「外道過ぎる。お前が地獄に落ちろ」
「私、子ども達にセメダインとかこっそり渡そうかな」
「じゃあ私は石を崩そうと身をかがめた隙を狙って鬼の頭を殴る係やります」
やはり好きで死んだわけでもないのに「親が泣いた」という大変身勝手な罪を背負わされた子どもたちのことを思うと賽の河原ディスが止まらない。

各々好き勝手に言いながら次の部屋に進む。そこには「奪衣婆」が居た。

ロックな奪衣婆

三途の川を渡ってきた人間の着物を枝にかけると、しなり具合で罪の重さがわかるのだという。

「これは別に……何とも思わんかな」
「うん、好きにしてって感じ」

関係ないが木のそばに座る奪衣婆は片膝を立てて座るワイルドスタイルを見せている。将来はこんなワイルド婆になりたいものである。対になる位置には懸衣翁なる爺もいたが、こいつが何者なのかは未だにわからない。


次の部屋は閻魔大王のおわします懺悔台が完備されていた。ガラスケースの外に座布団が敷かれ、「懺悔ノート」なるものまで置かれているではないか。
今までの展示はあくまでも高みの見物だったが、迫力のある閻魔大王に見下ろされ、突然私たちがあの世への道を辿っていたことを理解させられる。
「ここで懺悔しなければ問答無用で地獄行きですか?」の気持ちに強制的にさせられるのだ。

懺悔ノートを拝見した。中には罪人達の懺悔がつらつらと書かれている。
嘘を吐いちゃってごめんなさい、テストでいい点がとれなくてごめんなさい、宿題をしなくてごめんなさい、夜寝るのが遅くてごめんなさい、働きたくなくてごめんなさい、特に何もないけどとりあえずすみません──

基本的には「うん……いいよ、次から気をつけてね」レベルの懺悔が多い印象を受けた。
時折「SORRY!」とカジュアルに謝罪するパターンや、割とマジでダメな奴じゃない?と言いたくなる書き込みも見られた。
「幸せでごめんなさい☆」の書き込みに対しては「なんで煽った?」の気持ちがぬぐい切れず、私が閻魔大王だったらまずこいつを地獄に落とすけどなぁ、と思っているとわちこさんが「私達も懺悔しましょう」と座布団に腰掛けた。

2人してノートに懺悔したい内容を記し、懺悔台に手をかけて懺悔する。


懺悔をしながらも「いや、でも違うんスよ」と言い訳を試みる私

私の懺悔ノートを覗き込んだわちこさんは「ひらやさんってこういうところで臆せず自分のやばさを曝け出しますよね、そこがいいところだと思いますけど」と呟いた。
それはあんまりいいと思ってない人間のニュアンスだったが、これで地獄直通便も運休になったかと思えば安いものである。

ちなみに閻魔大王の前では、己の人生に嘘をついてもビデオテープを流され、すぐ悪行がばれるらしい。

ビデオテープで…!?人間の文化に寄り添いすぎ


「人がいる前で己の黒歴史を目の当たりにさせられるってこと!?……きつすぎる、特に意味のない言葉を口から吐き連ねてしまう……」
「てかビデオテープて!なんか特別な力とかでもなくビデオテープ?」
「役所ばりに導入が遅いじゃん。これは死者のデータをまとめるのについ最近ワープロが導入された可能性まであるな。たぶんフロッピーディスク使ってる」
「貞子も地獄ならまだ通用するってことかぁ。私たちが行く頃にはDVDくらいにはなってるといいですね」

高画質で己の黒歴史を見るのはつらいので、私の時には絶対に経費削減でガタガタのビデオテープが使われていて、私の人生を映す瞬間にタイミングよくテープが絡んでほしいと切に願っている。


哀愁漂う餓鬼界 嫌なキャンプ場のよう

閻魔様の審判を受けた後は、先ほど説明をうけた六道輪廻の世界がことこまかに表現された部屋を通された。けっこう生々しく、ああ、やっぱり賽の河原って平和だったんだなぁと思われる文字通り地獄絵図が展開されている。

もうどうなってんのかわかんないよ

それぞれの世界を見回ったあと、わちこさんが唐突に「ひらやさんは絶対修羅界行きだろうなぁ」と言った。
「すぐ情緒狂っちゃうし欲望抑えることできないから修羅界がお似合いですよ。さっきも鬼の頭殴る話してたし、ビデオテープで今日の発言全部流されるだろうな」
「いやいや、私は畜生界に落ちてうまいこと推しの4匹目の愛猫になるつもりなんで」
「図々しすぎるでしょ、ひらやさんは絶対に修羅界」
「え?何?なんでそんなに修羅界に行かせようとするわけ?大体自分はどこにいくつもりなんですか」
「第一志望は天界だけどダメなら第二志望の人間界でもいいかな」
「就活じゃねーぞ!」
「ほら、今また修羅界に近づいたな」

何を言っても修羅界への道が開かれるので分が悪い。
修羅界におちるならせめて天下を獲りたいが、たぶんそういうシステムはないんだろうな。



出口付近には満面の笑顔を浮かべた鬼が待ち受けており「地獄破り完了」の認定(?)を受ける。

濃度の高い世界観に感銘を受け、わちこさんはお土産売り場で地獄にまつわる解説書を購入していた。その本にはさらに細分化された地獄について書かれていた。

「まず基本嘘をつくと極楽浄土は無理っぽいですね。地獄行きを検討されます。もちろん人を殺してたら基本地獄行き」
「嘘つかない人生、無理では」
「ちなみに創作物をした者も、地獄行きです。創作はウソを述べているので。普通に2次創作もダメですね、嘘なので」
「え!?!?急にジャッジ厳しくない!?っていうか推しカプの存在は嘘じゃねーし…」
「あと子ども生まなかった女も地獄行きです。生まなかった人も、産めなかった人も」
「はー……?地獄って男尊女卑強めですねぇ。不貞を働いた男には股間に猫が噛みつくのに対して女は蛇が噛みついてくるんでしょ?ずるい、私も猫がいい……」
「その件に関しては不貞を働かなければいいんじゃないですか?でも世が世なら炎上案件ですよこれは。時代と共に地獄も改革があるべき」
「やっぱワープロとフロッピー使ってるだけあるな※。ちなみにどんな地獄なんですか?」
※使ってない

”石女地獄(うまずめじごく)”では、柔らかい灯心で固い竹の根を掘る責め苦にあうという。

灯心というのは、灯油に浸して火をともす紐のようなものを指す。そんなもので竹の根を掘ることなど不可能だ。賽の河原に近い理不尽さが、そこにはあった。

「私たち、創作もしてるし、このままだと子どももいないからどっちにしても地獄行きですね」
「でも竹の根本を掘ってればいいってことでしょ?同じ境遇の友達多いし、オタク友達みんなで集まってダラダラ話しながら適当に掘るんでよくない?」
「確かに、場所の違いってだけでやってること今と変わんないな」
「そのうち竹を加工してスコップつくったら早いって思いつくんだけど、『え?堀り終わったら解散?じゃもっとのんびりやるかあ』ってダラダラ土いじりしながら”俺が考えた最強の閻魔大王受け”の話をすんの」
「いいですね、何なら生きてるうちに本でもつくっておくか。ビデオテープ流されるんだけど、pixivとか映されて閻魔大王は自分のあられもない姿をみんなの前で晒すことになるってわけ」
「双方にとって最悪すぎる、いい意趣返しになりますね」
「それならやっぱりビデオテープじゃなくて4Kテレビ導入させておきたいな」
「高画質で閻魔大王を辱めようとするな」

こんな話をしている間も地獄への業はどんどん深くなっているのだが、とりあえず地獄へおちるみなさん、竹林で集合しましょう。


続く


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