「JG Thirlwell (Foetus)に捧げるアニメサントラ・ディスクガイド」 from 『FEECO』vol.2
『FEECO』VOl.2 SOUNDTRACK issueに収録した「JG Thirlwellに捧げるアニメサントラ・ディスクガイド」を転載したものである。半端に直すくらいならすべて書き直すところだが、それはすでに雑誌を買ってくださった人に少々悪い気がした。よってテキストは若干の加筆修正こそあれど、概ね原典通りである。アルバムは1テーマに2~4枚という構成。2019年のニューヨークにてJGサールウェル氏本人への取材時、『Venture Bros』や『Archer』などアニメ~映画のサウンドトラック仕事について伺った流れで、日本の作品について話したことが当企画の発端であった。掲載内容は以下の通り。雑誌自体の詳細はこちらから。
[Bring Back my 60s] 佐橋俊彦『THEビッグオー』関連作品
[Destination Still So Far] 田中公平『ハーメルンのバイオリン弾き』関連作品
[Here Comes Bullet Rain] 今堀恒雄『TRIGUN』『はじめの一歩』『GUNGRAVE』
[Nan Nan Dayo Mou…] 服部克久 & M.I.D.『無限のリヴァイアス』関連作品
[Someone Says Tank You] 菅野よう子『カウボーイビバップ』『∀ GUNDAM(ターンエーガンダム)』『地球少女アルジュナ』
[Cinematic Space] 三枝成彰『逆襲のシャア』、千住明『機動戦士Vガンダム』関連作品、菊地成孔『機動戦士ガンダム サンダーボルト』
[Illusionary School Life] 渡辺俊幸『昭和アホ草紙あかぬけ一番!』、鷺巣詩郎『彼氏彼女の事情』関連作品、川井憲次『モブサイコ100』
[Mantra of Mystique] 菅野由弘『天使のたまご音楽集 水に棲む』、山本精一と不思議ロボット『マインドゲーム』『きまぐれロボット』、マイケル・ナイマン『アンネの日記』
THA musician EBBYほか『EAT-MAN』関連作品、ヒカシュー『超時空世紀オーガス02』、田中貴&細野しんいち『ラーメン大好き小泉さん』
[Rock It On] WASEI&竹本晃『serial experiments lain Cyberia Mix』、VA『ブギーポップは笑わない』、『テクノライズ』、中村弘二『エレカセヴンAO』
[From here to Cybanetics] 仲井戸麗市『serial experiments lain』、ムッシュかまやつ『ダウンロード 南無阿弥陀仏は恋の詩』(未音源化)
[Bring Back my 60s]
佐橋俊彦『THEビッグオー THE ORIGINAL SOUND SCORE』(1999)
『THE ビッグオー ORIGINAL SOUND SCORE II for Second Season』(2002)『Respect』(2002)
『THE ビッグオー~ORIGINAL DORAMA THEATER』(2000)
カートウーン・ネットワーク内のToonamiとAdult Swimで放映され、米国での人気をきっかけにセカンド・ シーズンが作られた『THEビッグオー』は、60年代中心のオマージュに満ちている点で『Venture Bros』(VB)の兄弟だ。 『VB』がハンナ・バーベラを下敷きにしていることに対して、『ビッグオー』は『バットマン:ジ・アニメイテッド・シリーズ』と『ウルトラマン』にはじまる60年代特撮をベースにしており、題材の選択の時点で作り手のオタク性がいかなるものかの紹介となっている。『serial experiments lain』の小中千昭がシリーズ構成を担当しており、なかでも小中単独で脚本が書かれたセカンド・シーズンからは、ピンチョンの小説のような難解さと速度を伴うSFオタクの意地も見えた。
佐橋俊彦による劇判はブラス、ピアノ、パット・メセニー風ギター、SFX風電子音、伊福部昭、『Uボート』、『トワイライト・ゾーン』その他「レトロ」の詰め合わせだ。リズムが『スパイ大作戦』な「THE WORDS」は、『VB』との痛快な共通項でもある。住人たちが過去の記憶を失った街という舞台設定でこうした曲を流すことからは、スタッフたちが自らの幼少期に目にしていた作品を追体験するメタ的な意図さえ感じられる。 本編を完走してみれば、それも言い過ぎではないとわかるだろう。 永井ルイによる主題歌はそのまんまクイーン『フラッシュ・ゴードン』のテーマ(フル・バージョンを聴 いてみれば「ボヘミアン・ラプソディ」であるともわかる)で、セカンド・シーズンは佐橋による『謎の円盤UFO』リスペクト(その名も「RESPECT」)。これが災いしたのかは明らかにされていないが、2007年 の再放送時及びDVDBOX収録時には両者まとめての差し替えが行なわれた。島健による作曲で「星に願いを」っぽく作ってあるエンディングテーマがシリーズ通して変更されなかったのは、作品のテーマに最もふ さわしいという采配ゆえか。
監督の片山一良は「70年代ネタはすべて『新世紀ェヴァンゲリオン』にやられた」と話していたが、『エヴァ』が手を出さなかった分野、音楽に関しては達成できたと言ってもよいだろう。ドラマアルバム含めてどれも プレミア化しているのだけが残念。
[Destination Still So Far]
田中公平『ハーメルンのバイオリン弾き 魔曲全集Ⅰ~Ⅲ』 (1996-1997)
VA『ハーメルンのバイオリン弾き ヴォーカル全集』(1997)
JGサールウェルいわく「音楽においてストラヴィンスキーは20世紀に起きた革命のーつ」とのこと。確かに氏のこだわりのーつである複雑な拍子変化に注目してみても、ズール系プログレッシヴ・ロックを経由してストラヴィ ンスキーのような東欧クラシックにまで辿り着ける。ダイナミクスを起点にした構成と転換という観点からも、JGの音楽とクラシック(交響楽)は切っても切れない関係であり、それらが主題になっている『ハーメルンのバイオリン弾き』 をここで取り上げないわけにはいかないということである。 作曲を担当した田中公平の仕事はアニメに限っても『サクラ大戦』、『ワンピース』、『トップをねらえ!』 と多岐にわたるが、ことクラシックの名曲が物語のキーにもなっている『ハーメルンのバイオリン弾き』は、氏が学生時代から学んできたことが情熱的に反映されている。それは既存のクラシックから書き下ろしのものに至るすべてが生演奏によることからも伺えるのだが、とりわけ浜口史郎と共に編曲したクラシック名曲の数々は、アニメ本編の尺に合わせた努力のアレンジによって独自の完成を見せる(ここもJGの『VB』と共通する点だ)。 唯一の不満は「皇帝」が劇中のオーケストラ・バージョンではなくピアノソロで収録されていることだ。
原作漫画は今読み返すと時代錯誤なギャグだらけで目も当てられないのだが、アニメは本筋からそれを99%取り除き、ギャグによって緩和されていた物語の主題の残酷さをむきだしにしたダーク・フアンタジーである。止め絵(予算的な都合もあるとのことだけど)を多用して描かれる物語と音楽の調和が、古の紙芝居または吟遊詩人の口伝のような風格を生む。登場人物たちの感情と曲がシンクロすることで、レガートは「流麗」に、ペザンテは「失意」といった言葉で表現されていく。このサウンドトラックは物語を引き立てるための音楽としての意義を果たし切っている。 まずは物語の世界観と音楽性を集約した「未完成協奏曲」を聴いてみて欲しい。
主題歌は同曲を除けばタイアップで、クラシック調ではない。唯一気になるのは山口由子によるエンディングテーマの題名が、ランボーとポール・ヴェルレーヌの悲恋を描いた映画『太陽と月に背いて』(95 年公開)から引用されていることだ。
『ヴォーカル全集』はいわゆるキャラクターソング集で田中公平があの手この手を駆使してポップスを書いている。個人的に「マリオネット」と本編劇伴の一つである曲をリアレンジした「それが絆の強さ」が◎。
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