リンゼイ・オルセン (Salami Rose Joe Louis) インタビュー 『FEECO』vol.1 掲載分(2018)
『FEECO』誌創刊号「6アーティストインタビュー」は諸般の事情で再刷が不可能なので、掲載分の記事を文字おこしにて公開することにした。今見るといろいろと稚拙な編集だったため、文章の構成や訳には若干手を加えてある。
Salami Rose Joe Louisことリンゼイ・オルセンへのメールインタビュー。フライング・ロータスのBrainfeederからリリースする前の時期に敢行したものであった。雑誌では日英併記だったが、ここでは日本語文のみを掲載した。
-今もお住まいはカリフォルニアですか。
ええ、住んでいるのはベイ・エリア。
-アーティストにとってはどんな環境ですか?
素晴らしいミュージシャンたちや、クリエイティブなアートをサポートしてくれる素敵な人たちにも会えるところ。とてもいい環境だと思う。
-あなたの音楽はよく「dreamy」、「lo-fi」と形容されますが、個人的にはサイケデリアを感じるのです。宇宙が重要なテーマの一つにもなっていますし。
ドリーミーなサウンドは大好き。ドビュッシー、Stereolab、モート・ガーソンの『Plantasia』とか。サイケデリックな音楽もたくさん聴いてた。
子供の頃から銀河というものに興味があった。運よくUCSC(カリフォルニア大学サンタクルーズ校)に進学して、惑星科学を学べた。
両親は昔から私が別の銀河からやってきたのかもしれないなんて言っていたの。確証はないけど、近いうちにその真偽が解明されたらいいな。
-歌詞にも惑星科学由来のものがありますか。
「rain jacket over puddle」では質量分析法と海洋についての詞を書いた。当時、ラボではある海洋をサンプルにした研究をしていたから。「Metronome」は別のラボで作業していた日の朝に書いたもの。そのせいでかなり遅刻しちゃったんだけど。
科学の世界に夢中なの。有機化学と音楽の間には多くの類似点があると思う。バランス(割合)とパターン(周期)という要素は特にね。
学生時代、好きな分子の形状に基づいたコードを作ってみたり、ピアノで対称的な構造の曲を書いたりした。「Overture (going ham)」という曲はその時に出来たもので、始まりがシンメトリカルな構造になってる。
-プログラムによって自動生成する作曲には関心がありますか。あなたのイメージとは正反対に思えるけど。
アルゴリズムで作られた音楽を聴いたことはある。面白いコンセプトで、数学者(作曲者)は心地よいパターンを生むソフトウェアを作れるとも思う。でも、アルゴリズムが作曲家にとって代わることはないとも思うけどね。
何が音楽を感動的にさせるかというと、そこには人間らしさがあると思ってて、それは機械では予測も再現できないものじゃないかなと。
ボーカルを例に出すと、歌ってる途中に声がかすれたり、笑ってしまったりするような失敗が、かえって歌を人間らしさ=不安定で繊細であることに導くと思うから。アントニオ・カルロス・ジョビンとエリス・レジーナの「3月の雨」のテイクであるようなね。コンピュータではまだこうした感情を捉えられるとは思えない。
-キャプテン・ビーフハートをテーマにした「captain b. heart escapes into the night」は個人的に大好きな曲なんですが、彼が出てくる理由のようなものがあるなら知りたいのです。
この曲はビーフハートがショーそのものや音楽業界での立ち位置にたまらなくなって、ひっそりと夜の郊外へと逃げ去っていくシーンをイメージしたものなの。彼の果敢さは本当に励みになる。作曲中もよく彼のことを考えるくらいだから。ワイルドで怖れを知らない、自発的であり寛容でもあり続けたところが大好き。
『The Spotlight Kid』は私にとって特別な一枚。「Kiss me (outtake)」のハーモニカのソロは最高。『Safe As Milk』や『Clear Spot』もアイデアに富んだ瞬間が多いね。
-西海岸でビーフハートときたら、The Residentsのことを思い出してしまって。あなたの『Son of a Sauce!』ジャケットもどことなく彼らのユーモア、特に『Eskimoに近いものを感じました。
知らないアーティストだから調べてみたけど、とっても面白そう。教えてくれてありがとう!
-使っている機材はローランドのmv8800(註・ビート・メイキングにおいて人気のあるサンプラー)がお気に入りのようですね。
親友からもらったmv8800が私の人生を変えた。作曲するにあたって完璧な機材だと思う。他の楽器の音をこれに録音して、ミックスしたりマスターを作るのが好きなの。作業してる時は『テトリス』を思い出しちゃったりして、ホントに素敵。
-サンプリングはいまやポピュラーなメソッドですが、他人のレコードから切り取って曲を作ったこともあるのですか。
まだない。時々、自分のものをサンプルすることはあるけどね。サンプリングは素晴らしいアート・フォームだと思ってる。自分の演奏や曲をチョップして、それで曲を作ってみたいし、誰かと共同作業して受け取った曲をいじくり回すのもやってみたいな。
-他にはどんな機材を使いますか。
カシオのキーボード。特に80年代製が大好き。小さくてへんてこなキーボードは何でも好きなの。ボールドウィンのアップライトピアノがあこがれで、いつか手に入れるのが夢なんだけど、友達からJuno 106を貸してもらった日はその夢が叶ってたのかも。とってもすごいシンセサイザーだったから。
-あなたのリズムはユニークなものが多いのですが、作る上でのこだわりは?作る上でも最初にリズムから手を付けるのですか。
まずは耳に残るメロディーからかな。ピアノはメロディーとしっかり結びつくから。でも、メロディー周りのドラムから作ることもある。
リズムは曲において最も重要なパートだと思ってる。でも自分のリズム感にはまだ自信がなくて。もっとドラムが上手くなりたいとは思ってる。次のアルバムではドラマーともコラボレーションしたいな。(註・2019年の『Zdenka 2080』ではChefleeが参加)
-理想のリズムやドラマーを挙げるなら?
エロール・ガーナー『Concert by the Sea』とハービー・ハンコックの『Head Hunters』。そしてCheflee。彼のリズムは創造性を広げてくれる。
エロール・ガーナーは大好きなピアニスト。演奏がとてもダイナミックで、リズミカルなの。リズム、ハーモニー、そしてメロディーを天才的な手法でブレンドしている。
Stereolabにもかなり影響を受けた。彼らのサウンドにあるレイヤー、宇宙的な感触はとても心に響くもの。幾何学に基づいて作曲しているように聞こえるし、そうすることで私に話しかけてきているような気さえする。
このバンドを知ったのは、友達がくれた最高のミックステープのおかげだった。それが新しい音楽の世界を切り開いてくれた。最初に耳にした時のことだって覚えてる。「Caleidoscopic Gaze」という曲で、ブランケットにくるまって星を見上げながら聴いていた…人生を変えた瞬間の一つだった!
-作曲を始めた頃から歌っていたのですか?
ハイスクール時代はパンク・バンドに入っていて、その時から歌い始めた。20代になってからジャズのナンバーを歌うようになったの。今26歳(2018年当時)だから、まだ始まったばかりね。
-ソロ活動前にいたバンドはどんな感じだったんですか。
いくつかのバンドにいて、歌やキーボードを担当してたの。大半がジャズバンドで、その一つがJoomanjiだった。最近はベイ・エリアでScience Bandというグループを立ち上げて、エキサイティングな曲がいくつか生まれたばかり。
-同世代で好きなアーティストを教えてください。
ChafleeとPacific Yew、マック・デ・マルコ、メラニー・チャールズ。(年上では)MadlibとR・スティーヴィー・ムーア。
-あなたも含めて、みなカセットテープでのリリースが多いですね。メディアとしてどう映っていますか。
とってもかわいい! それにテープの音が大好き。子供のころ、ドライブ中に車内で音楽がかかっていたことを思い出すから。
-最後にSalami Rose Joe Louisという名前の由来について教えてください。
私が生まれる前、両親は当時3歳だった姉にどんな名前にするか考えてもらっていたの。姉はサラミとバラの花が大好きだったから、サラミ・ローズとつけたがっていた。だから家族にはいつもこの名で呼ばれている。
ジョー・ルイスの部分は友達が付けてくれたニックネーム。やがてこの二つをくっつけてアーティスト名にしたってわけ!!