コロナ渦とABW( Activity Based Working )という概念
コロナ渦で働き方や行動様式が一変し、オフィスの存在そのものが見直されようとしています。ある大手メーカーでは、社員の大半をテレワークに切り替え、オフィスの賃料コストと通勤コストを軽減し、その余剰コストを社員のテレワーク助成(自宅の電光熱費など)といった形に振り分けているそうです。その反対に大手IT企業は、テレワークからシフトワークに切り替え、テレワークを推奨しながらもオフィスを維持し、将来的な増員分で発生するオフィス面積増加分をテレワークの併用によって現状面積で維持する方針を打ち出しています。感染を予防する観点で言えばどちらも大胆なシフトチェンジです。
その一方で、中小企業のテレワークは導入が中々進まず、その殆どは「仕組みが作れていない」「仕事の特性上テレワークができない」など、その会社のシステム上の理由で導入が進んでいないと言います。仕事の特性上テレワークが導入できないのは致し方ないとしても、仕組みが作れていない為に導入できないのは、日本的な働き方の弊害なのかもしれません。
コロナ渦で顕在化した、これまでの働き方
Designcafeも、首都圏で発令された緊急事態宣言(4/8)の10日前に当たる3/28から5/25まではテレワークを実施し、以降8/31まではシフトワーク(週3日出勤の交代制)で業務を行っていました。コロナ渦前からテレワークのスタッフが在職していたこともあり、コミュニケーションインフラやデーター共有用のストレージなどを使っていたことも幸いし、また空間デザインという仕事の特性もあり、業務的には比較的移行しやすかったかもしれません。
小さなデザイン事務所である私たちの場合、コロナという目に見えない「ウイルス」の危険性を排除していかないと、一人でも社内で罹患者を出してしまった場合、会社を一時的に閉鎖しないといけなくなります。その時に発生する世評や一時的でも公に業務を止めるリスクは中小企業でははかり知れなく、最悪の場合、キャッシュの有無にかかわらず倒産に追い込まれてしまいます。その為、会社から徒歩圏内に住まいがあり、通勤感染リスクの低い僕とバックオフィスマネージャー(総務)の二人を除いてテレワークとシフトワークを実施しました。海外ですと、規模の大小に関わらず、シフトワークやテレワークがある程度浸透しているケースが多く(実施の正否はともかく)ロックダウンなどの処置に移りやすかったのかもしれません。
良い面としては、リモート会議が浸透し、新規の問い合わせなどでもこれまでは先方へ出向いてお話を伺うスタイルだったのが、初顔合わせからリモートという形にシフトし、移動の時間的な制約から解放されたことです。遠隔地でも気軽に問い合わせをいただいたり、打合せも極力リモート会議を行うなど、風潮的に市民権を得た感じがあります。この利便性は、アフターコロナでも継続していくでしょう。
課題としては、新卒者のリアルな研修(得意先への同行や施工現場研修など)が一切行えない為、リモートでの研修が中心となり、モチベーションの維持が難しかったことです。今年入社の新卒者の方達はこの経験からから「リモートネイティブ」なる言葉も出てきていますが、積極的な研修が行えないのはマイナスの部分が大きく、様々な経験をして得られないストレスがあります。また、個々の評価をする場合、目に見える成果に目が向きがちで潜在的な成果を評価しづらい、属人的になりがちで横の連携がスムーズに行かないなど、課題も残りました。従来の働き方が全てマイナスだとは思えませんが、従前の様に全て戻る事は難しいと思われ、働き方も含めて、新しい行動形態に即した成果や評価の仕組み、マインドの仕組みを可視化していく必要性があります。
ABW( Activity Based Working )( 働く場所は活動から選ぶ )という選択
そんな中で、働き方の行動形態から分析し、オフィスや働く場所のあり方として近年注目されているのが、ABW( Activity Based Working )と呼ばれる、オランダで誕生したワークフォーマットです。時間や場所に制約されずに働けるABWには下記の様な特徴があります。
ABWの導入には社員が多種多様な活動を行なっていることを理解し、その活動を最大限サポートするための適切なテクノロジーと企業文化に基づく多様な作業環境が必要になります。この原則に基づいて働く環境をデザインすることで、ABWは、個人やチームの物理的環境および仮想的環境に対するあらゆるニーズを満たしてくれる快適なスペースを生み出します。さらに重要なことは、ABWの重点はメンバー同士のつながりや、インスピレーション、責任感、そして信頼といったカルチャーを創出することであり、これにより個人、チーム、および企業全体の潜在能力をさらに発揮できるようになります。言い換えれば、ABWは、仕事を「いなくてはならない場所」ではなく、「力を与えてくれること」へと変えてくれます。
Veldhoen + Company より引用
従来のように階層や組織、チームといったフレームに基づき作られたワークプレイスで働くのではなく、個々のワーカーのアクティビティ(活動)にふさわしい場を用意し、活動に応じてワーカー自らが自立的にワークプレイスを使い分けるワークフォーマット。ヴェルデホーエンの知見に基づき、10の活動に分類している。ITOKI TOKYO XORKより引用
具体的には、固定された個人のスペースは設けず、物理的に専門的な作業や一人で集中して作業ができるスペースやスタンディングデスク、ソファなど様々なワークスペースが用意されている事。また、オフィス内という場所に限定せずに、自宅やカフェでのリモートワークやテレワークも認めるなど、個人が自分の最大パフォーマンスを発揮できる環境を選ぶことができます。一人での仕事(集中&専門的な作業)、コワーク(他のメンバーが同居している場所で行う一人仕事やウェブMTGや電話)、二人でのMTGやコワークや対話、3人以上のMTGやアイデアだし、知識共有、情報整理、そして息抜きのためのリフレッシュまで、仕事を行う上での行動形態に即した形でワークプレイスを計画、構築していきます。
個人的に2拠点での暮らしを実践していく中で感じているのは、MacやWiFiなどがベースにあり、必要なインフラ(WebMTGやセキュアなクラウドストレージ)があれば比較的簡単に導入できる事です。デザインの場合、大きなモニターがある事で作業効率が飛躍的に上がりますが、自宅にモニターを常備すれば集中してデザインワークに取り掛かれます。またアイデアやコンセプトワークの様な漠然としたイメージを集約させたい場合は、スタジオや自宅ではなく、例えば街のカフェや地方のB&Bの様な所で籠もって仕事をすることも選べます。
ABWを導入する上での課題
会社やスタジオ単位でABWを実践していくには、まず成果の設定と評価の機軸がしっかりしていないと難しく再設計が必要な事です。また、労働基準法や労災との整合性など日本ならではのハードル、情報漏洩などのセキュアの仕組みなどが必要で、一つ一つクリアにしていく必要があります。これは、会社としての目的や目標から掘り下げながら、一人ひとりが有意義に参加している実感が備わっている必要があり、その中で安心して働けるという基本的な部分を兼ね備えていないといけません。
オフィスという空間でのメリットは、個席を用意しない形になるためオフィス面積の軽減が可能になり、その分多様な働く形態に即したファシリティを用意することになります。オフィス面積の軽減は家賃の低減に繋がり、テレワークの併用は通勤手当の低減にも繋がります。職場の仲間たちがチームとして時間を共にする必要性は、今後も仕事における極めて重要な要素であることに変わりありません。しかし、オフィスへの依存度が低減するチームもあれば、定期的な在宅勤務の継続を希望する従業員も出てくるでしょう。
また、ABWありきで進めるのではなく、自社のマインドや働き方にマッチしているかどうかを見極めることも重要です。例えば個席での在籍率が高い(集中した作業が中心)であれば、従来のワークプレイスの方が都合がよいケースも想定できます。プログラマーや共同作業の多い建築設計などは、ハードウェアのスペックの高いシステムとチームでの共有作業が多い、もしくは持ち出すことが難しいなどの制約があるため見極めが必要です。
ABWの前に段階的な検討を
日本の働く環境は、テレワークも然りですが商慣習に左右されている部分も大きく、部門や部署によっては導入できても書類や捺印などの業務の伴う部署は、結局社内で仕事をしないといけないなど、業務によって差別が生まれてしまう可能性もあります。その為、段階的な実施もしくは、社内のマインドの醸成などが不可欠だと言えます。
Designcafeでも、スタッフの拡充は今後継続する予定があり、将来的にはABWの様な仕組みで(段階的であっても)働ける様にしていきたいと考えています。その前には、解決すべき事象が色々ありますが、今回のコロナ渦で顕在化した「人が密接に関わっていなくても適度な距離感で仕事ができる」ABWの別な側面にも着目しており、今後も勉強しながら検討していきたいと考えています。
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