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謙虚な人(記憶に残っている撮影エピソード 14 鈴木亮平さん)

 鈴木亮平さんに初めて会ったのは2010年に公開された映画「シュアリーサムデイ」のウェブメディア媒体用の撮影現場だった。小栗旬監督、小出恵介さん、勝地涼さん、ムロツヨシさん、綾野剛さんと一緒の撮影でした。その日の撮影場所は元学校の教室、おそらく理科室とか図工室だったんであろう部屋での撮影でした。窓から入る光が綺麗で、僕はここで6人のポートレートを撮ろうと思いました。そのまま並んで撮ってもいいのですが、イメージとしては元同級生が集まってそれぞれのキャラが出る感じの写真がいいなと思ったので、立ったり、もたれたり、座ったりと僕がバランスを決めて後はみなさんが好きなところに行ってもらえればいいなって思いました。

 一人、床に直接座ってもらいたいポジションがありました。これは誰にお願いすればいいんだろう?と思いました。みんなそれぞれ違う事務所に所属している役者さんだし、本音を言えば一番目立つ場所で撮りたいと思うはずです。撮影の時間になり、役者のみなさんが教室に入ってきました。僕はとりあえず立ち位置、座り位置を指示しました。だいたいこういう時って周りに遠慮してみんな「どうする?どこ行く?」ってなるんです。むしろ役者さん側からすると、事前にこちら側で決めちゃったほうが色んな意味で楽なんです。すると、その一瞬の間を埋めるように「じゃあ、僕はここだな!」って大きな声を出して、背の高い役者さんが床にドカッと座ってくれました。そのあとは皆さんそれぞれの場所に移動してくれました。意外に出来そうでできない行動をサラリとする男。彼のそのちょっとした男気ある行動が僕の心に深く刻まれました。それが初めて鈴木亮平さんを認識した瞬間でした。

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 それから4年の歳月が経ち、なんと鈴木亮平さんの写真集を撮影するという仕事の依頼がありました。その頃の亮平さんはまだ知る人ぞ知るぐらいの存在。世間では映画「HK 変態仮面」の人だね!という認識だったと思います。ある日、写真集の打ち合わせがあり、そこで久しぶりに亮平さんに会いました。彼は僕の目を真っ直ぐ見て、「僕、写真を撮られることが苦手なんです。平岩さんが言うことは何でもやりますのでよろしくお願いします!」と言いました。僕自身、写真を撮られることが苦手なので、そういう被写体はむしろ得意だったりします。僕は自信を持って「はい、お任せ下さい!ビシビシ指示出しますね!」と答えました。

 写真集の撮影がはじまりました。彼はあの時の約束を完璧に守ってくれました。僕が指示を出すとしっかり動いてくれます。少しの迷いも戸惑いも表情に出しません。写真を撮られる事が苦手だからこそ彼は強い覚悟を持って撮影に臨んでくれているのがわかりました。写真集ではヌード撮影もあったのですが、彼の鍛えられた完璧な肉体を見て、この撮影のために3ヶ月お酒を断ち、食事コントロールをしてきたストイックさに驚かされました。3日間に渡る撮影中、ずっと撮影されているのに疲れも見せず最後までやり切ってくれました。おそらく亮平さんにとってはこんなに写真を撮られた経験もあの時が初めてだったと思います。やっぱり大した男です。

 それからまた1年ほど経ち、雑誌で亮平さんを撮影する機会がやってきました。もうその頃の彼は映画にドラマに舞台にCMと大活躍する人気俳優の一人になっていました。僕は写真集以来の撮影だったので、彼がどんな雰囲気になったのかどんな面構えになったのか楽しみにしていました。短い挨拶をして撮影がはじまりました。あの時と同じように彼からだいぶ離れてカメラを構え、シャッターを押しました。すると次のポーズや顔の向きを指示する前に彼はポーズを変え、目線を変え、自由に動いてくれました。僕は一人で感動してしまいました。1年前は写真を撮られるのが苦手なので全て指示して下さいって言っていた人がたった1年でそれを見事に克服していたのです。だからこの1年間で彼がたくさんの経験をして被写体として成長したのを10分程度の撮影で理解しました。

 終わった後、亮平さんに「久しぶりに撮らせていただきましたが、もうこちらが言わなくても察して動いてくれることに驚きました。被写体としての器がより大きくなりましたね。それが今日の亮平さんを撮影してわかりました。」と伝えたら、彼はこう言ったんです。

「平岩さんに教えてもらったことをそのまま続けているだけなんですが、相変わらず写真は苦手です(笑)」

 なんて謙虚な人なんだと思いました。そして、その3年後にはNHK大河ドラマの主役をやるようになるなんて、誰が思ったでしょうか。10年前の亮平さんも今の亮平さんも10年後の亮平さんも目標を決めたら努力を惜しまず全てを芝居に注ぎ込む覚悟はきっと変わらないし、それをやり遂げる事が出来る鋼のような強い意志を持っている。やっぱり大した男です。きっと彼の役者人生はこれからが本番だと思う。

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