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僕が撮影の時に心掛けているふたつのこと(記憶に残っている撮影エピソード8 周防正行さん)

 僕が撮影の時に心掛けているのはふたつのことだけです。ひとつは本当に思ったことだけを言うこと。思ってもいない事を言っても被写体にバレてしまうと思います。お世辞やヨイショみたいな言葉が100パーセント悪いとは思いませんが、撮影の時にそれを使うと僕が撮りたい写真から何かが逃げてしまう気がします。大事なのはいま目の前にある世界で、そこで感じる事を大切にしたいのです。昔は事前にこんな事を話して盛り上げようとか作戦を立てていましたが、今はその瞬間に自分がポジティブに思う事を話せばいいやと思っています。無理に話す必要もありません。話すことよりもむしろ間とかを大事にするようになりました。そもそもシャッターを押すのが僕の仕事ですしね。

 修行時代にスタジオで少し働いていた時期があります。初めて赤文字系ファッション誌の撮影に入った時の事でした。モデルさんの撮影がはじまった途端に編集者さんやライターさんが口々に「可愛い〜。可愛い〜。」を連呼しはじめました。その風景にびっくりしました。もちろんモデルさんは可愛いかったです。それは間違いない事実です。でもこの「可愛い〜。」の連呼はお祭りで神輿を担いで「わっしょい!わっしょい!」って言うのに近い「可愛い〜!可愛い〜!」なんじゃないのかなと思いました。撮影が終わり、片付けの時にスタジオの先輩に「いつもああいう感じなんですか?」と聞いたら、「え?何が?」と言うので「みんな可愛い〜って連呼する感じにびっくりして。」って言ったら、それに慣れている先輩は「いつもそうだよ。すぐに慣れるよ。」とさらっと言いました。

 その後もそういう現場に何度か入らせてもらっていて気がついた事がありました。「可愛い〜。」を言う人の中に本当に可愛いと思っている心からの「可愛い〜。」とそんなに可愛いと思っていない人の「可愛い〜。」には違いがあるということを。前者の「可愛い〜。」は僕にもちゃんと伝わってきます。それが言葉の重みなのかもしれません。僕がカメラマンになったらちゃんと重みがある言葉を被写体に伝えるようにしようとその時に強く誓いました。

 そして、僕が撮影の時に心掛けているもうひとつの事は被写体の名前を覚えることです。撮影の時は被写体の名前を呼んで、ポーズの指示をするように心掛けています。人の名前を覚えるのは全然得意でありません。よく間違えちゃうし、覚えたつもりでもすぐに忘れてしまう事もあります。K-POPの多人数グループだと本当に覚える事が大変だったりします。でも出来る限り頑張って覚えるようにしています。

 スタジオマン時代は「スタジオさん」、アシスタント時代は「アシスタントさん」とよく呼ばれていました。それが当たり前のことで、ごく稀に「平岩さん」とか「平岩くん」とか呼ばれる事があって、僕はそれが本当に嬉しかったのです。名前を覚えてもらい、呼ばれることってこんなに嬉しいことなんだとその時に初めて気がつきました。だからやっぱり名前は大事なのです。僕がカメラマンになったらちゃんと名前で被写体の事を呼ぼうとその時に強く誓いました。

 話は変わりますが、去年映画監督の周防監督を撮影させていただいた事があります。周防監督の映画は何本も観た事がありますし、もちろん監督の事は以前から知っていました。撮影日当日の朝、ふと周防監督って本当に「すおう」って読むのかな?と思いました。スマホで調べたら「すお」でした!気がついてよかった〜!

 撮影現場で周防監督がいらっしゃった時に「すお監督!こちらにお願いします!」と出来るだけ滑舌良く言ったところ、「おっ、俺の名前を間違えなかったな。」と周防さんの目の動きでそう言っているような気がしました(あくまで個人の想像ですが)。

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