無菌病棟のクリスマスに響け歌声
※なんで写真横向きになるのか分からないのですが公開したいのでこのまま行きます
2019年12月25日、骨髄移植でお世話になった無菌病棟(BCR)でクリスマス会があるとのことで、患者会の会長さんに誘われてお手伝いに行ってきました。今日はそのことについて書きます。
無菌病棟(BCR)に戻る意味
この病院のBCRは造血幹細胞移植専門病棟なので、入院している患者さんは全員移植をされる(された)方です。
私が入院していたのは夏の終わりから初冬にかけてだったので、入院中にクリスマス会を経験することはありませんでした。ただそういうイベントがあると聞いたことはあります。
先日の秋の患者会で、毎年クリスマス会で患者会からもささやかなプレゼントをお渡ししていると聞き、カードを書くお手伝いと当日もし体調諸々が良ければ同行してもらえないかとお誘いを受けました。
今まさに移植と向き合っている人にとって、移植を乗り越えて活動している人の姿を実際に見るのは、何より励みになることだからと。
入院中、不安でつぶされそうな時間はたくさんありました。いつになったらトンネルを抜けられるのだろう……そう思う時期は、個室だったこともあってとても長かった気がします。
いつになったら1時間おきにトイレに駆け込む日は終わるのだろう
いつになったら思いっきり水が飲めるのだろう
いつになったら点滴がいらなくなるくらい食欲が出てくるのだろう
数えると、きりがありません。
自分が卒業したBCRへ戻ることは、あの頃の自分と向き合う時間でもありました。
当日
実は前日、日帰りで往復500kmほどの移動をしていたので、参加できるかどうか不安がありました。でもなぜか「今日は行くしかないな」という気持ちしかなくて、それも起きてすぐ着物を着る気になって、長着まではサクサク着られたもののお太鼓と小一時間格闘する羽目に。いえ自業自得なんですけれども。
※着付けは白血病になる前に一人で練習してそれなりに着られるようになってました。フリーランスだったので仕事先や家で着物を着ていたこともあります。おおむね好評でした。
帯で守られる感はすごいと思いつつ仕事もし、そろそろ出発という時間になって、何だか体が重いのです(体重的な意味ではなく)。
これはまずい、もし発熱だったら外出どころじゃないし、その発熱が風邪等の感染症だったらそんな体でBCRへ入るわけにはいかない、、と心配しつつ何度も検温していると、最初は微熱でしたが最終的に平熱になりました。良かった。
一人で行く選択肢もあったのですが、体調を心配してくれたことと、図書館から「次の予約があるので」の催促メールが来ていたこともあり、娘が同行してくれることになりました。
あわてすぎるナビ
入院病棟の入り口は外来時の入り口と全く別の場所にあります。行くのは救急外来以来なので久しぶり。しかも夫がいない状態で行くのは初めてです。運転を娘に任せて助手席から道案内や加速のタイミング等をナビしつつ、さあそろそろ着くわ~と油断したんかどうかは知りませんが、
一つ手前の曲がり角で「はいここ右折」
\救急車両専用入り口へ/
これは責任取ってリカバリーせねばなるまい…と運転を交代しようとしていたら、後ろから業者さんのトラックが!
いかん、まずは一言ゴメンナサイだということで「すみません、道を間違えてしまって…すぐ移動しますから」と駆け寄る頼りないナビ。
そしたら運転手さんが「30分以内は無料だから、無理にUターンしなくても入ってすぐ出たら大丈夫ですよ」と教えてくれたんですよ。神対応ってこのことねー!!ベーコン状態じゃなくて!!
というわけでさっさとゲートをくぐってすぐまた出口から出て、無事に本来の交差点を右折することができたのでした。
娘は県立図書館へ向かい、後でまた病院で落ち合う約束です。
入院棟へ
ところで私は荷物の多い女でして
一人で遠出する時はスワニーのキャリーカートが基本です。そんなのゴロゴロ押して院内を移動してたら十中八九「入院かよ」って思われてるんだろうなと思います。でも体力ないし荷物は重いしなので、そこはもう割り切っています。
BCRのあるフロアで患者会の会長さん、もう1人の会員さんと待ち合わせだったのでまっすぐ向かいました。お会いするのは上旬の患者会以来です。BCR内の準備が整うまで少し時間があったので、ほっこりトークタイム。
移植の大先輩のお話は、いつお聞きしても「ああ、そうだよな」と思うことばかりで、これまで自分の中でモヤモヤしていたことにヒントをもらったり、学ぶことだらけです。何しろ会長さんは自家移植、骨髄移植、臍帯血移植と移植を3回経験されているんですね。つまり2回再発したということですよね。
1度で十分だ、二度とここには戻りたくない…そう思っていたから、3度の移植を乗り越えて活動されている会長さんには尊敬しかありません。口癖が「これはボランティアじゃないの。恩返しなの」。神ですか。
BCRへ
いろいろ話を伺っているうちに時間になって、コーディネーターさんと看護師さんが呼びに来てくれました。着物を見て「あら、今日はどこかからのお帰りですか?」この問いは定番か?定番なのか?いえいえ家から着てそのまま来たんですよーとマジレスして移動開始しました。
病棟入り口の二重ドア。
外側と内側のどちらかが開いていると、もう一方は開かないシステム。その間の洗面台で、しっかり手洗いして消毒液をスプレーします。ああ、BCRだ。
中に入ってチラリと病室の名札を見ると、Twitterの知り合いらしきAちゃんの名前発見!もしかしたら会えるかもしれないと思っていたので期待がますます膨らみます。
よく見ると、患者さんで部屋を出る体力のある人たちは皆さん椅子に座って始まるのを待っておられました。
私たちは一応荷物を奥に置かせてもらって、なんと最前列に座席を用意していただいて座ったのでした。一番遅く来たのになんかスイマセン。
でも、すぐ後ろにAちゃんとおぼしき患者さんがいたので、思い切って声をかけたらビンゴでした!「ひららんです」って言ったらすぐ分かってくれて。
開始前に騒いでスイマセンスイマセン
着席すると、ドクターから歌詞カードを頂きました。
・賛美歌312番「いつくしみ深き」
・世界に一つだけの花
がプリントされていました。
賛美歌312番。分かる人には分かると思いますが、ブライダルの仕事で歌っていたとき必ず歌う定番の曲なんです。ソプラノ、アルト、テノール全パートすぐに歌えます。
しかもドクターが「皆さんも一緒に歌ってください」とおっしゃるので。
内心「バランスを聴いてハモりに回ったら盛り上がるかな?それともメロディーの援護射撃した方がいいかな?」と大はしゃぎ。いわゆる血が騒ぐってやつです。
クリスマス会スタート!
そして、まずはコーディネーターさんの素敵なオカリナ演奏、看護師さんの魅惑のハンドベル演奏と続き、いよいよ歌の時間。
あーもう楽しみすぎるどうしようと1人浮き足立っていたら、会長さんが一言
「ひららんさん、これ、歌えるんじゃない?」
「全パート行けます!」
即答でした。
そしたらあれよあれよという間に前に出され、「リードボーカル(ソプラノ)を歌います」とおっしゃるドクターの隣に立つことに。その先生とはおそらく初対面だったのですが、そんなことを思いもせず「パート、どこ行きましょうか?」と打ち合わせをして、テノールパートをボーカリーズ的に行くことにしました。
どこからどこまでがイントロか分からなくて2人そろって入りを間違えたのはご愛敬です。てかぶっつけ本番だったしイイヨネ
なじみのある懐かしい歌。
先生の声量とバランスを調整しつつ3番まで無事に歌い切り、席に戻りました。
めちゃくちゃ拍手いただきました。
その後、会長さんのご挨拶と先生サンタのお話を聴いて、プレゼントを配るお手伝いをさせていただきました。
会長さんが「渡すときにね、何も言わなくていいから手を握るかハグするか、してあげてね」とおっしゃったので、その気満々だったのですが、なんか勢い余っていろいろしゃべってしまって本当におしゃべり好きなBBAでゴメンナサイゴメンナサイ
解散後も少し居座って、久しぶりにお会いした医療チームの皆さんといろいろお話ししたり、初対面で一緒に歌ったドクターからお声掛けいただいたり、何より闘病仲間であるAちゃんとそのお母さまとじっくりお話しできたのがとても嬉しかったです。
私が歌う理由(by谷川俊太郎)
Aちゃんのお母さまからは「今まで聴いた賛美歌の中で一番感動しました。泣けました」、Aちゃんからは「(母が)隣でずっと泣いてたんですよ~😉」という身に余るお言葉をいただきました。
そのときはこちらも嬉しいばかりで「いえいえそんな、たまたま知ってる歌だったから」とかいろいろ浮き足だった返事しかできなかったのですが、
あらためて振り返ると
移植で患者さんの命を助けるドクターと、実際に助けられたもと患者の私が一緒に歌うというのは、なんて意義深い機会だったのだろうと思います。その時間、医者と患者という壁は取り払われ、先生と私は同じひとつの歌を演奏するただの歌い手同士でした。
初めて会うのに、こうして合わせることができる。
それを聴いて涙を流してくれる人がいる。
それはこれまでの人生にない大きな喜びでした。
決して私の歌がうまいからという理由ではなく(下手ではないと思ってますがもっとうまい人がたくさんいるので)
移植病棟で、移植を乗り越えて歌えたことにとてつもない意味があったのだと思います。
初めての恩返しの第一歩でした。
自分にできることを、少しずつ、お返ししていきたいと思います。
先生、今度はぜひネタ合わせいたしましょうね。ひららん、どこへでも飛んで行ってどのパートでも歌います!
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