シュガーバニーズの“何も起こらない”美学
※アニメ『シュガーバニーズ』シリーズのネタバレあります。
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サンリオキャラクターの『シュガーバニーズ』をご存知だろうか。
2004年に生まれたキャラクターで、存在するもの全て(月とか虹とかも)が双子である“バニーズフィールド”に住むパティシエの「しろうさ」と「くろうさ」を主役とした作品である。
僕が勝手に思っているサンリオキャラクターの3大よくある設定、「双子」「フランスが舞台」「いたずら好き」のうち「双子」設定に最も大きく貢献しているキャラクターでもある(しかもフランスが舞台)。
バニーズは他にもももうさとはなうさとあおうさとあおみみうさとぶちうさとミントうさとこむぎうさとぱんだうさとラテうさとカプチーノうさとストロベリーうさとブルーベリーうさがいてすこしだけとうじょうするたびうさとかぜうさもいてあとふたごのじょおうさまもいる。
そんなシュガーバニーズだが、過去にテレビアニメも放送していて、第3シリーズまで続くほどの人気シリーズであった。
僕も当然サンリオファンとして観させていただいたのだが、これがまあ面白い。いや、「面白い」とストレートに表現してしまうのはもしかしたらちょっと違うかも知れない。
というのもこの作品、観る人によってはおそろしく退屈に感じてしまう可能性があるからだ。
つまりどういうことか。
結論から言ってしまうとこのアニメ、
ビックリするくらい何も起こらないのである。
例えば登場人物のうちバニーズとは別で人間のキャラクターも登場するのだが、その中の一人、フランソワーズ・デュポーンというお金持ちのお嬢様キャラクターがいる。
この設定と彼女の口調、容姿などから普通であれば性格も高飛車で上から目線、そしてその性格のせいで様々なトラブルを引き起こすトラブルメイカー的な役回りを期待すると思う。
ところがどっこい、
デュポーンちゃんは全くもって普通にいい子なのである。
彼女のせいで何か大きなトラブルが起こることは作中ほとんどない(多少はあるが)。
さらに第3シリーズ『シュガーバニーズ フルール』にて、人間キャラクターの主役である少女ソフィア・シェルブールの親友で、パリに引っ越していたミレーユ・ダリエと久しぶりに再会するシーン。
髪型や服装が派手な都会っ子風になったミレーユに性格まで変わってしまったんじゃないかと不安になるソフィア。しかし話しているうちにその不安はほどけ「やっぱりミレーユはミレーユだ」と安心するのだが、普通ならこの流れであればどこかのタイミングでふと都会に染まってしまったような言動が出てしまい、それによって行き違いが起こり、いろいろありながらもなんだかんだあって最終的にはまた分かり合う、といった展開になるのを想像すると思う。つまり大人になって様々な映画や小説などで起承転結のはっきりした緻密で深みのある物語を見てきた人からすれば、ここから物語が面白くなるための“事件”が起こるものだと期待するはずだ。
だがそんなものはない。
やっぱりミレーユはミレーユだったのである。都会に染まったような言動は一切出てこないし、それによる事件も当然起きない。本当に見た目が変わっただけなのだ。
つまりシュガーバニーズには起承転結の「承」と「転」が存在しないのである。
いや、厳密に言えば存在はする。するのだがそれは限りなく薄い。
基本ターゲット層が子供なので当然といえば当然なのだが、物語に刺激的な展開を求めたがる子供以上大人未満あたりの若者層などからすればこの“何も起きてない感”はひどく退屈に感じてしまうのではないか。
しかし僕にとってはこれこそが求めていたものであり、これこそがサンリオであると思うのだ。
勿論刺激的な物語を見るのも好きだし(重過ぎなければ)、おじさんとはいえまだまだそういうものを見る体力はあるのだが、サンリオそのものにハマった理由と同じく、日常の中での様々な“重い”ものを心に抱え込むことが多い年齢になってくると、シュガーバニーズのように色彩といいストーリーといい薄味で淡々と進んでいく作品の方が、まるで休日にゆったりといただくコーヒーや紅茶のようにじんわりと体の芯の部分を暖めてくれるので、それが僕にとってはこの上なくかけがえのない癒しの時間となるのである。
登場人物全員いい子、全員カワイイ。治安最高。これでいいのである。ここは現実じゃないんだから。人の理想を映し出すエンターテインメントの世界ではせめて汚れのないものを見たい。でなければ心のバランスが取れぬ。
だからこそシュガーバニーズは、サンリオは素晴らしいのだ。
食べ物でも納豆やとろろや豆腐が大好きで、日本画や落語も大好きな僕にとって薄味の美学を感じるシュガーバニーズはこの上なく肌に合う作品だったのである。
ちなみにサンリオ作品で僕が観た中では他にも『ウサハナ』あたりは特にシュガーバニーズと同じ“何も起こらない”美学を強く感じる作品であった。あれも素晴らしい。
要するにシンプルイズベストイズベストってやつ。