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My Bookshelf (2) 本をつなぐこと

本を作る会社に入社したのは、震災直後の2011年4月のこと。計画停電の影響で会社の廊下が真っ暗だった光景が、あの時分の記憶として、今もはっきり残っています。

私が最初に配属されたのは制作部という部署でした。編集部が本の「中身」を作る場所なら、制作部は「外側」を作るところ。コストを計算し、用紙、印刷、製本、加工など、あらゆる資材と作業を手配し、取次に納品するまでを管理します。

当時の上司の口癖は「自分が担当する本のことを、世界中の誰よりも詳しくなろう」。担当本の用紙がどこでどう作られているのか、どの工場の何号機で刷られているのか、どんな製本工程を辿るかーー知るべく、あらゆる生産現場に足を運びました。機械を回している方々と話しそれぞれの思いにふれ、こんなにも多くの人に支えられて本作りが成り立っていると知るのは、自分自身のやりがいにもつながり、働いていてなにより楽しい時でした。(時に食堂でご馳走になったりも…!)

そして数年後、編集部に異動する際に上司から贈られた本が、佐々涼子さんの『紙つなげ!彼らが本の紙を造っている』です。

この本は、東日本大震災で被災した日本製紙石巻工場を描いたノンフィクション作品です。震災からわずか半年後、再び工場に明かりが灯ります。それは「奇跡」ではなく、働く人たちの途方もない努力によるものでした。

『紙つなげ!』の素晴らしいところは、綺麗事だけでない被災地の現実も織り交ぜつつ、今日を生きるのさえ精一杯だった人々が工場復旧に情熱を傾けた姿、言葉を超えた思いさえも、佐々さんが丁寧に紡いでいるところだと思います。

”必要か否か”という価値観で、物事が語られることの多い昨今ですが、本を届けるかけがえなさを教えてくれる、そんな一冊です。

去年はこの時勢下、迷いを感じ立ち止まることの多い一年でした。そんな時『紙つなげ!』のページを何度もめくりました。そして新入社員時代に製造現場で出会った人たちの顔を思い出し、自分を奮い立たせたものでした。

東日本大震災から10年。社会はもちろん、出版を取り巻く環境も大きく変化してきました。しかしこんな時だからこそ「紙をつなぐ」「本をつなぐ」大切さをひしと感じています。改めて、大事に誠実に編集作業に携わっていきたいと思います。


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