ずっとあなたがいてくれた 第十四話
ドリンクを飲み終え、母の食器もさげてもらうと、することがなくなっ
た。支払いは母が済ませてくれたし、まだ早いけど帰ろうか、帰る前に何か
食べようか、と考えていたら、突然スマホが鳴った。タカシからの着信。周
囲の視線に耐えられず、スマホだけ持って店の外に出る。
「もしもし」そのとたん、タカシの叫び声がこだました。「なに考えてるん
だよ、ダメだって」「ダメって、なにが?」「如月に会っちゃダメだ。あの
家に行くのもダメだ」なんで、と言い返そうとして気づいた。あの家のこ
と、どうして知ってるんだろう。どこだか教えてくれって言ってなかったっ
け?
「ねえもしかして、如月先生に会った?」タカシが口ごもる。「会ったの
ね?」ふう、とため息をつく音がして、「会った」とタカシ。「お兄さんの
ことも知ってたの?」少し間があって、「いや」とタカシが言う。「如月に
会って聞いた。それまでは知らなかった」そうなんだ……。「ねえ、今から
会えない? ファミレスにいるの。迎えにきて」店名を告げる。
「どのくらいで来られる?」「ちょっと待って……」しばらくしてタカシが
言った。「二十分くらいかな。店が混んでるなら、駅で拾ってもいいよ」そ
のほうがいいかもしれない。「じゃあ駅で待ってる。ロータリーがあるほう
ね」「了解」
急いで席へ戻り、カバンをつかんで外へ出た。そのまま駅へ向かって走
る。ドキドキして、ゆっくり歩くなんてできなかった。店に戻ったときに浴
びた、責めるような視線が突き刺さっている。スマホだけじゃなく、カバン
も持って出たらよかった。そうしたら、こんな思いをしなくてすんだのに。
駅のロータリーが見えるとホッとして、速度をゆるめた。ロータリーのそ
ばのベンチに行こうとしたら、背後から「かすみちゃん」と声がする。「道
がすいてて、今着いたところ」「タカシ……」笑顔を見たら、涙が出てき
た。「ちょっ、えっ、どうしたの、大丈夫?」あわてるタカシがおかしくて
笑ってしまう。泣きながら笑ってるの、すごく変な感じ。。
彼と会うのを母に反対されたとか、さっきの突き刺さる視線とか、いろん
なことがありすぎて、きっと緊張していたんだ。緊張が解けて、ホッとした
んだと思う。洟をすすりながら説明して、どれだけ伝わったかわからないけ
ど、「まあ、とにかく乗ってよ」と言われてうなずいた。
「どこに行きたい?」「あー、うん……」何か食べようかと考えていたのを
思い出す。でもまだ空腹ではないし、帰りに何か買って家で食べてもいいか
も。タカシが緊張した表情で言う。「とくに無いなら、アトリエに行ってみ
ないか」「アトリエって先生の?」タカシがうなずく。「いいよ、わかっ
た」車内の空気が和らいだ。
第15話へ続く
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