ずっとあなたがいてくれた第二十八話
「どうしたの、かすみちゃん」
タカシに言われ、自分が泣いていることに気づいた。「悲しくなっちゃった。前からそういうやつだったなんて言われて、如月先生かわいそうだなって」「優しいな、かすみちゃんは」
タカシはとても穏やかで、復讐を考えている人には見えなかった。でも騙されてはいけない。真実を見極めなくては。「そういえばさ、先生がお見舞いに来てくれたんだけど、もう僕たちのことには構わないでくれって言ってたの。なんでだか分かる?」「うーん。かすみちゃんはどう思うの?」「私? 私は......」ここは、本当に思ったことを話そう。
「もう立ち入ってほしくないのかなって思った。仲が良かったのは高校時代だけで、それからみんないろいろあって、もうあの頃みたいに仲良くはできないのかなって、そう思ったの」
「そうか」タカシがつぶやいた。続けて何か言うのかと思ったけど、ずっと黙っている。もう何も言わないのかと思ったとき、タカシが言った。「かすみちゃんの思ったとおりだと俺も思うよ。結局、あのときだけだったんだ。俺たちがかりそめでも仲良くいられたのは」「かりそめ......?」「ああ。かすみちゃんだって分かってるだろう。如月があの高校に来たのは復讐のためだ。兄さんの復讐さ」
「そんな! じゃあタカシはなんで美術部に来たの? 私に復讐したかったからでしょう? 今だって、復讐の機会をうかがっているんじゃないの?」言ってからしまったと思ったけど、タカシは大声で笑い出した。
「バカバカしい。如月がそう言ったんだな。まったくあいつらしい」
えっ?あいつらしいって?
「たしかに、父さんが失業したのは如月の兄さんが亡くなったことと無関係じゃない。だからってかすみちゃんを恨むようなことはしない。悪いのは如月の親父さんだ。そうだろう?」「う、うん......」「美術部に入ったのは、絵を描くのが好きだったからだ。如月の指導を受けるのは癪だったが、やつが美大に入ったのは間違いないからな。せいぜい利用してやれと思っていたよ」
「じゃあ――」思い切って聞いてみた。「高校時代、楽しいと思ってたのは私だけじゃなかったの? あれはまがい物じゃなかったの......?」「如月がどう思っていたかは分からないが、少なくとも俺は楽しかったよ。かすみちゃんと一緒にいられて嬉しかった。俺の絵も如月の絵も、素直に見て感想を言ってくれて、すごく参考になった」「本当に?」「ああ」
熱いものがこみあげる。私だけじゃなかった。タカシも、楽しいと思ってくれていた。「私も――」勇気を出して伝えよう。「私も、あのときタカシがいてくれてよかったと思ってる。美術部が楽しい居場所だったのは、タカシのおかげだから」「かすみちゃん......」タカシが優しく私を見ている。次の瞬間、強く抱きしめられた。「えっ、何?」「好きだよ、かすみちゃん......」
背筋が凍るほどゾッとした。あのとき――初めて彼のアトリエに行くとき、好きだと耳元でささやかれた。まるで彼が言ってくれているみたいでうっとりしたけど、まさか――!
「いや、離して!」「俺のこと好きなんだろう? 今そう言ったよな?」「そんなこと言ってない!」「俺がいてよかった、そのおかげで楽しかった、そう言ったじゃないか」「それは――」言ったけどそういう意味じゃない。でもタカシには通じない。どうしたらいいの? どうしたら――。
第29話へ続く
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