ずっとあなたがいてくれた第二十九話

　諦めかけたとき、タカシが呻いた。「うぐっ……」そして私を突き放す。不審に思ってタカシを見ると、右肩に矢が刺さっていた。うそ、なんで……。「抜こうとしても左腕じゃ無理だろ」はっとして振り向く。「如月先生！」
タカシは矢を抜こうとしながら言った。「ボウガンは所持することも禁止されているはずだ」「そうだな。だが、誰も知らない」彼がちらっと私を見る。「君たち二人がここから出なければ、警察に捕まることもない」
　その眼はとても冷たくて、タカシに抱きしめられたときとはまったく別の恐怖がわきあがる。「かすみちゃんに手を出すな！」額に大量の脂汗をかきながら叫ぶタカシ。放っておけない。そばに寄り添った。「すごい汗だよ。それに血も……」
通報しなくちゃ。このままじゃ死んじゃう。
　スマホを取り出したとたん、彼が私のところへ来た。「通報するのか？」「だってこのままにできないよ。本当に死んじゃう」「そうだよ？」「えっ？」
スマホを取り上げ、私を見下ろしながら彼は言った。
「そのつもりで矢を放った。次はかすみちゃんも狙うから」
　まさか、そんな……。高校時代と違って今はもう仲良くできないんだと思う、さっきはそう言ったし、実際そうなんだろう。でも……。
「……なんで私たちを傷つけるの？　どうして？」「邪魔だからに決まってるだろう。そんなことも分からないのか」涙があふれてきた。
「なんでそんな……高校時代は仲良かったのに、それにこの前だって、私のこと助けてくれたでしょう。それなのにどうして――」
「言ったよね、放っておいてくれって。それなのにまた首を突っ込んできて」心から面倒くさそうに、彼はため息をつく。「二人の問題だって言ったのに。それでも関わってこようとするの、はっきり言って迷惑なんだよ」
　涙が止まらなかった。大好きで憧れていて、少しでも一緒にいられることが嬉しくて。この人がいたから高校生活はすごく楽しかったのに、今、目の前にいる人は、まるで別人みたいに冷たくて、人を傷つけることをなんとも思っていない。なんで……そう考えたとき、兄さんの復讐という言葉がよみがえる。
　私がお兄さんを死なせてしまったから？　だからこうなったの？　それが本当なら……。袖で涙を拭き、私は立ち上がった。彼の目を正面からじっと見る。「な、なんだよ」彼は一歩、二歩と後ずさる。「復讐なら私を狙って」「ダメだ！」タカシが叫ぶ。「きみが犠牲になっちゃいけない。俺以外の誰も、犠牲になっちゃいけないんだ」「先生のお兄さんを死なせたのは私だから、復讐なら私を――」「違うんだかすみちゃん！」
　タカシが立ち上がる。「如月が問題にしているのは、兄さんのことじゃない。事故のことだよ」「事故？」事故といえば、彼が記憶喪失になったあの事故しかない。でも、なぜそれが問題なのか。「どういうこと？」私はタカシと彼のあいだで、二人に問いかけた。どちらかが説明してくれるかと期待したけど、二人とも黙っている。「私から説明しましょう」そう言ったのは楢本さんだった。

☆第30話へ続く☆