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純愛ラプソディ(仮) 七

「ちょっといいかしら」はい、とうなずいて、彩花と二人席を立つ。「今、室長から話があったのだけど、毎年作っている会社案内と、就職説明会で配布する資料、その企画段階からうちが関わることになったの」「本当ですか!」彩花が喜びの声を上げる。「本当よ、これまでは最終段階でしか見られなくて、しかもただそういう意見があった、でとどめられていたのが、やっと今年から参画できるようになったの」「やったあ、嬉しい!」「彩花ごめん、どういうこと?」「会社案内、去年チェックしたでしょ、あれの製作に最初から携われるのよ」「えっ、あの膨大な資料? 最初からってどういう意味?」

「森崎さん、去年初めてチェックして、量がありすぎて大変って言ってたじゃない。私たちが参画するということは、量について意見も言えるの」「しかもその意見が採用されるかもしれないのよ、これが喜ばずにいられる?」と、いうことは……。「資料が少なくなるかもしれないの?」彩花はちょっと苦笑して、「必ずとはいえないけど」と言う。でもすごく嬉しそう。

話を聞くうち、私にもわかってきた。これまでは与えられた資料を読み、意見があっても顧みられず、形だけ、コンプライアンス室にお伺いを立てたことにされていたのが、今年からは製作にかかわることができる。それがどんなに画期的で素晴らしいことか、今なら私にも理解できる。でも作業量が心配。

「あの、私たち二人でやるんでしょうか」「内容が決まるまではそうね、二人で会議に出てくれるかしら」「がんばろうね、はる香!」「う、うん」「具体的な作業が決まったら、第三事業部に応援を頼むことになってるの。室長が話を通してくれたんですって。帰ったらダンナに確認してみるわ」

どくん、と大きな音がした。そうか、あの人は家に帰ったのだ。私のことなど、もう思い出さないでほしい。あの人は、課長と一緒に人生を歩んでいくべきなのだ。

「いいなあ課長、旦那様が同じ会社で、しかも課長の仕事をサポートしてくれるなんて、カッコいいし羨ましい!」課長の前で何を言うかと思ったら、課長はもう席に戻っている。なんだ、じゃあ私も、と振り返ったとき、彩花がつぶやいた。「課長、旦那様とやり直したんだ。よかった」「えっ?」彩花は驚いた様子で、ごめん、ひとりごと、と言うと、自分の席に戻った。私も戻ったけど、仕事が手につかない。

彩花は課長夫妻の不仲を知っていた。旦那様の浮気も知っているのかな。相手が私だということも……? さり気なく隣をうかがう。彩花はいつも通り、仕事に集中してる。視線を戻し、こんどは課長がどこまで知っているのかと考えた。彩花は課長から直接聞いたのだろうか。だとしたらーー、考えたくないことだけど、課長がすべて知っているなら、彩花もすべて知っている。そう思うしかない。深いため息が出て、自分でも驚いた。「なあに、ため息なんかついて。大丈夫よ、はる香ならできるって。私もサポートするし、ね」

彩花の言葉に苦笑した。私のほうがサポートしなきゃいけない立場なのに、こんなんじゃお給料もらってる意味がない。はる香がんばれ! 両手でぱん、と頬を叩く。

「そうそう、その調子」彩花に言われ、もう一度ぱん、と叩いた。よし、仕事するぞ。今日からの私はひと味もふた味も違う。「やってやる!」彩花と課長の笑顔が見えた。やるぞ、コンプライアンス室を認めさせてやる。そのためにはなんだってやってやる!


おわり

※ひと区切りついたのでここでひとまず終わります。いずれ別の形で続きを書くつもりです。

※マガジンの説明に書ききれなかったことをこちらの記事に書きました。よろしければご覧ください。


どうぞよろしくお願いいたします。


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