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金子玲介さんのこと

金子さんはとても真摯に誠実に、文章が好き、表現することが好き、と作品で伝えてくれました。金子さんの書くものが好きです。金子さんの、表現と向き合う姿勢が好きです。できればこれからもブレずに、その姿勢を貫いてほしいです。

金子さんを知ったきっかけはブンゲイファイトクラブというイベントでした。2019年はいろいろな出来事があったのですが、中でも重要だったと思うのがこのブンゲイファイトクラブです。プロアマ混合の、文章による戦いの場です。作品応募はせず、脇から見ているだけになりましたが、十分に刺激的でした。公式による大会説明がこちらからご覧いただけます。


ブンゲイファイトクラブで、ファイターとよばれる参加者たちが戦っていたのは、文芸とはこういうものだという、世間一般の考えだったのではないかと思います。これは文章による表現の可能性をとことん追求しようという戦いだったのではないか、と。

その意味で私がいちばん好感を持ったファイターは、金子玲介さんでした。表現することと向き合う姿勢が好きで、真摯に文芸の可能性を追求していると感じました。金子さんは一回戦を勝ち抜き、二回戦も突破して準決勝へ駒を進めました。残念ながら準決勝で北野勇作さんに敗れたものの、北野さんは金子さんの文芸への思いをしっかりと受け継ぎ、見事優勝を勝ち取りました。少なくとも私にとって、ブンゲイファイトクラブとはそのような「イベント」だったのです。以下、金子さんの戦いを振り返ってみましょう。

一回戦、グループリーグ。金子さんは「アボカド」で参戦。とてもリズムがよくて面白い作品です。


二回戦「あなたと犬と」は、会話と二人称による文章の組み合わせでファンタジックな世界を描き出しています。

準決勝と決勝はメインページからご覧いただけます。決勝の結果がいちばん上にありますので、下へスクロールしてください。準決勝は「小説教室」。文字どおり小説教室で、ただし戯曲です。小説とはなにか、なにを書いたら小説といえるのか、それを追求した作品だと思いました。

他の作品も読みたくて検索したところ、『林冴花は宗教が苦手』を知りました。2016年の文藝賞で最終候補となりましたが、受賞を逃しています。私はとても面白く読みました。

アイドルの女の子が将来に悩み、どう生きていくべきかを模索する話です。生きる拠り所となる可能性を持つものが、宗教でありスポーツでありアイドル活動であり勉学であり…要するに、アイドルだって人間なのよ、な物語。でも身体性は排除されています。アイドルですから。彼女たちが悩み模索する戦いを、彼女たちの人生の一時期において繰り広げられたものと明確に位置づけ、誰の人生にも悩み苦しみ藻掻き戦う時期はあるのだと、金子さんは書いてくれました。私はこの作品を、mankindに人類の訳語を充ててきたのをwomankindで取って代わらせようとする、つまりwomankindで人類をあらわすことにしたっていいじゃんねという主張を内包するものとして読んだのです。

『朔月2019』に収録されていますので、興味のある方は読んでみてください。Kindleで読めます(Kindle Unlimited対象作品)

朔月2019 https://www.amazon.co.jp/dp/B07VDZVWB7/ref=cm_sw_r_cp_apa_i_S8VcEbS0YYM93


ブンゲイファイトクラブで読ませていただいた作品はどれも魂のこもった渾身の作で、言及したい作品はたくさんあります。それでも金子さんだけ言及するのには理由があります。Twitterで観測した範囲に過ぎませんが、金子さんの作品には「実験的」という評価がついてまわったからです。

ブンゲイファイトクラブにおいてだけではなく、これまでもずっと、金子さんはそうした評価と戦っていたのかもしれません。だからこそ、表現することと真摯に向き合い、文芸とよばれるものの可能性を広げようと飽くなき追求を続けていたのではないか、そう思えたのです。

金子さんが準決勝で敗れ、表現の可能性と向き合う人はもういないかもしれないと思いました。でもそうではなかった。北野さんが金子さんの思いを受け継いで、金子さんと一緒に戦っていると思いました。いえ、金子さんだけではありません。北野さんはすべてのファイターたちとともに、最後の戦いに望んでいました。北野さんが決勝に出した作品を読んで、その向こうに一回戦の32人だけでなく、本戦出場が叶わなかった数多のファイターたちの姿を見たように思いました。

ブンゲイファイトクラブは第二回が開催予定だそうです。ファイターの皆さんの戦いを、次回も楽しみにしています。そして、金子さんにはぜひとも優勝してほしい!! 

金子さんを応援するためには、やはりイベントの中ではなく外にいなくてはなりません。もし自分が金子さんと当たって負けたら、応援できなくなりますから。

金子さんのことしか書いてないけど、タイトルも「金子さんのこと」なのでまあいいか(笑)

最後まで読んでくださってありがとうございました。2020年が皆さんにとって素晴らしい年になりますよう、心よりお祈り申し上げます。

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