人間性心理学からトランスパーソナル心理学へ
トランスパーソナル心理学とは、1960年代に創始され、精神分析、行動主義、人間性心理学に次ぐ第四の心理学と言われるこがあります。
まず心理学の流れを簡単にまとめると、第1となる精神分析とはフロイトが創始した精神分析の理論とそれに基づく精神分析療法に関するものであり、1900年代初頭にスタートしたものです。その後、第2となる行動主義が勃興しはじめます。1930年代に勢いを増してきた行動主義は、それまでの精神分析のアプローチに関する疑問と実社会・現場での応用への限界から生まれ、行動療法が行動主義の考え方に基づくものとなります。そして、第3となるのが人間性心理学の分野です。人間性心理学とは、マズローやアドラー、ロジャーズが主な専門家であり、来談者中心療法が依拠した心理療法となります。人間性心理学が隆盛してきたのは、行動主義のデータ主義や観察可能な行動を重視するアプローチが科学的根拠に基づいたものではあるものの、人間をその観点のみから判断・評価することの科学的手法に限界があるということを反映したものです。
そして、人間のより健康な側面を追求する人間性心理学と東洋思想・神秘主義・シャーマニズムの普遍的な意味を統合することを意図した領域として、トランスパーソナル心理学が誕生したのです。ロジャーズやマズローらの人間性心理学の自己超越の概念を発展させて、個を超える領域への精神的統合を重んじる心理学です。
特に人間性心理学における至高体験という概念がトランスパーソナル心理学の確立に大きく関与しています。至高体験とは、マズローが提唱した心理学における中心概念の1つで、人生における深い悟りや自然との出会い、あるいは、出産時の感動といった恍惚感を味わった人たちを対象とした調査に基づくものです。このような体験を至高体験と位置づけ、これを経験している時に、人間は時空の超越感、自我の超越、様々な葛藤の解消、宗教的な啓示といった体験をするとされています。
宗教、神秘主義であるという批判も根強いのですが、トランスパーソナル心理学は、哲学であり、思想であり、学問であり、幸福論であり、自分学であり、医療であり、物理学や量子力学をも含むすべての科学の理論と実証されたことを結集して、より高度な心理状態を達成しようという試みです。
いろいろと限界を迎えている現代社会の、孤立、不安、悩み、いらだち、身勝手さ、憎しみ、争い、奪いあい、殺しあい、とめどもない精神破壊、環境破壊から、個人や人類が生き延びるためにはどうしたらいいのか。アメリカ頼りの個人主義は、すでに限界を超えており、個人や国家が健やかに生きるには資本主義も、社会主義も行き詰まってしまったかにみえる現代において、現代思想の流れということだけでなく、政治・経済の体勢、自然破壊や人間の”心”をどうするかについての、普遍的で妥当な未来に向けた提案を含んでいるようにも思えてくる。
パクリの実