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考える葦|IV-12|手術から修理へ
平野啓一郎の論考集『考える葦』(2018年9月発売 / キノブックス)より、エッセイ「手術から修理へ」を公開しています。
主に、2014年〜2018年(それより古いものも)、第4期にあたる『透明な迷宮」『マチネの終わりに』『ある男』が書かれた時期の批評・エッセイを集めた論考集。平野啓一郎の思考の軌跡が読める一冊です。
(2018年9月発売 / キノブックス)
Ⅰ : 文学・思想
Ⅱ: 自作及び文壇・出版業界への言及
Ⅲ:美術、音楽、デザイン、映画その他
Ⅳ:時事問題とエッセイ
手術から修理へ
フランスのストラスブール大学にある消化器がん研究所 IRCAD のジャック・マレスコー氏は、 自然孔(口や肛門など)を利用した、非侵襲手術のパイオニアで、手術に最新のテクノロジーを導 入する必然的な発展として、ネットを介した遠隔手術も成功させている。
最初の手術は2001年9月7日にニューヨーク(医師)・ストラスブール(患者)間で行われ ているが、この日付はちょっと、特別である。というのも、あの同時多発テロの僅か4日前で、も し重なっていたならどうなっていたのだろうか。
時代はまだ、ADSLがやっと一般に普及しつつあったくらいだったが、手術に必要な膨大なデ ータのやりとりは滞りなく可能だったのだろうか?
いずれにせよ、テロリスト達がネットを活用して連絡を取り合っていたまさにその時に、他方で は遠隔手術などという人類初の試みが行われていたわけで、これもまた 世紀の幕開けを象徴する 出来事として記憶されるべきだろう。
在日フランス大使館のウェブサイトには、マレスコー氏についての詳しい記事が出ているが、そ の内容は驚くべきもので、2009年のインタヴューでは、「手術は今後5年をめどに半自動化され、その後も少しずつ完全自動化に近づく」と語っている。患者をスキャンすることによって、 「ヴァーチャルクローン」を作製し、事前に外科手術のプランニングとシミュレーションを行う。 あとは機械が、その通りに実際の人体を手術するというわけで、イメージとしては、手術というより、修理のような感じである。
私はこの記事を読みながら、ロボット先進国だったはずの日本は、どうしてこういう分野で世界 をリード出来ないのだろうと首を傾げた。日本で注目されるのは、相変わらず、「神の手」を持つ 天才医師といった、経験に裏打ちされた職人的な技術ばかりである。
(「Nextcom」Vol. 15 2013 Autumn)