自分だけのカメラを手に入れて気づいた欠乏感
カメラを買った日。
何かを撮りたくて多摩川土手に行った。少し雨っぽい日だった。
フィルムは入っている。24枚撮りだったか、36枚撮りだったか。
今と違ってフィルムの時代だから、撮った写真を見るのには安くないお金がかかる。
DPEと言って、フィルムを現像に出さなければならない。
印象として、36枚撮りで2000円近くはかかった気がする。
高い。日常的に使うには高すぎる。
だから、ここぞという時しか撮影してはいけない、というブレーキが自然にかかる。
私は多摩川の土手に行った。
近づくとスズメが羽ばたくので、その羽ばたくスズメに向かってシャッターを切った。
おもしろくなかった。こんなものを撮りたくてカメラを買ったわけじゃない。
2000円かけて現像するだけの価値ある写真ではない。
私は急にむなしくなった。欠乏感におそわれた。
カメラは買ったが、撮るものがない。
唖然とした。
そうして、そのまま、どこかにぽっかりと穴が開いたまま、数年が過ぎていった。