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歌舞伎町に女性トップレスのホームレスがいた1993年

正確に言えば、歌舞伎町ではない。
新宿三丁目のあたりか。
靖国通りではなく、新宿通りだったか。
そのあたりだ。

私が彼女の姿を目にしたのはほんの1度きりである。
女性のトップレスといっても決して好ましいものではない。
決して美しいものでも、バランスの取れたものではない。
動揺はあっても、高揚はない。

私はその年、2年間の浪人を経て明治大学法学部に入学していた。

季節は6月だったか7月だったか。暑い季節だった記憶がある。

私はその年、9月以降は再びの東大受験に向けて勉強を再開していたから
9月以降ではありえない。

その日は独りで、新宿に撮影に来ていた。カメラはNikon FE2だったか。

新宿には三人で撮影に来ることもあった。
あとの二人は都立西高校出身の男女だ。
「男」のほうは今でも東京の大手新聞社でカメラマンをしている。

真昼間だ。

私は何か被写体はないか、と新宿を彷徨していた。
その時に目にしたのが、彼女の姿だ。
暑かったせいか、彼女は上半身に何も身に着けてなかった。
精神に異常をきたしていたのかもしれない。
いや、そうでもしなければ、そんな恰好で街中にはいないだろう。
見るからにホームレスという印象だった。清潔感からは程遠い。

シャッターを切りたかった。
でもその勇気はなかった。勇気なのか度胸なのか、わからない。
誰かに非難されるんじゃないか。そんな気持ちもあった。
彼女は大通りの反対側に座っていた。
私は反対側に渡ってみる度胸もなかった。
大通り越しに私は彼女を見た。その記憶からすると、靖国通りほど、幅は広くなかった印象がある。
いま思えば、シャッターを切っておけばよかったと悔やまれる。
29年前のこと。
昭和ではなく、平成にはなっていたが、21世紀にはありえないと思われる風景だ。



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