データスペースって具体的になに?
データスペース概要
欧州委員会は、2020年の欧州データ戦略でCommon Data Spaceを重要な柱に位置付けている。データスペースは、データを集積し、利用しやすいエコシステムを構築しようとしている。目的によって各分野の詳細は異なるが、共通のガバナンスコンセプトとモデルを使うことで、異なる業界に適用できるようにしている。
欧州委員会は制度的な整備をするとともに、様々な支援プログラムで共通的基盤の整備を進めている。例えばConnecting European Facilitiesで各種技術的部品の提供をしてきている。また、Digital Europe Programmeの一環でデータスペース関連プロジェクトに資金の提供をしている。また、欧州委員会はデータスペース推進に当たり関連団体と連携しており、GAIA-X、DSBA(Data space Business Alliance)、Open DEI、DTLF(Digital Transport and Logistics Forum)とも連携して取り組みを進めている。
そして、欧州データ戦略でCommon Data Spaceで9つの領域を定義し、2021年のDigital Europe ProgrammeでSmart Communities、Language 、Cultural Heritage、Media、Tourismの4領域を追加している。
データスペース支援のために2021-2022年の初めの二年間に、データスペース、地域センター、オープンデータ、エッジまでのインフラ含め4憶1000万ユーロ(145円/ユーロ換算で約600億円)の資金を用意している。
2023年5月現在、39のデータスペースと61のユースケースがDATA SPACE RADERに登録済み。
1. Industrial (Manufacturing) Data Space
欧州データ戦略で定義されたCommon Data Space。産業分野全般を対象とし、競争力とパフォーマンス向上を推進するフレームを定義。地理空間プロジェクトとも緊密に連携している。
そして、この推進をするため、Atosを中心としたManufacturing Data Spaces (ManuDataSpa)が2021-2022で行われ、さらにDigital Factory Allianceを中心にData Space 4.0(https://manufacturingdataspace-csa.eu/)が推進されている。
Data Space 4.0は、ガバナンスモデル、Data Space 4.0 Canvas、ディレクトリ、Smart Data 4.0 Model、Minimum Viable Framework(MVF)、マルチステップロードマップで構成される。EUのファンドが入り、IDSAとFIWAREがパートナーに加わっている。
1)CATENA―X
自動車業界のサプライチェーン全体の情報の流れを可能にする仕組みを目指している。取引ルールも含み検討している。
IDSAの部品としてIDP(CA,DAPS,Parts)、メタデータブローカー、appストア、クリアリングハウス、ボキャブラリプロバイダー、コネクターを使用。GAIA-XのLightHouseプロジェクト。
2)SCSN(Smart Connected Supplier Network )
サプライチェーン内の情報流通を効率的に行うプロジェクト。IDSAの部品としてIDP(CA,DAPS,Parts)、メタデータブローカー、クリアリングハウス、ボキャブラリプロバイダー、コネクター、データAPPSを使用。GAIA-XのLightHouseプロジェクト。
製造業の製造機器やサービスプロバイダをつなぐマーケットプレイスであるMARKET4.0の中で行う、3Dプリンティングのデータを交換する仕組みである。ERPのデータをコネクタを介して製造機械へ転送する。
IDSAの部品としてIDP(CA,DAPS)、クリアリングハウス、ボキャブラリプロバイダー、コネクター、データAPPSを使用。EUのファンドで推進している。MARKET4.0のコンソシアムにはIDSAが参加。
4)FA3ST ecosystem for I4.0-compliant, and data-sovereign digital twins
AAS(Asset Administration Shell)の仕様を統一するプロジェクト。各機器などのアセットにシェルをかぶせることでデータ等を統一し、それをコネクタを通じて外部の機械に接続する。
IDSAのコネクタを使用してもしなくても接続することができる。
5)Boost4.0
Industry4.0のためのビッグデータ活用に関するデータスペース。RAMIを参照してアーキテクチャを考えており、IDSA、FIWARE等のオープンソースミドルウエアでセキュアなデジタルインフラを作ろうとしている。
IDSA,、FIWARE等の様々な団体が協力し、11のLighthouse工場で実証している。20mユーロの公的資金と100mユーロの民間資金で運営。
6)EuProGigant(European Production Giganet)
製造業における機械間のコネクションやエッジからのデータを扱う分散生産システムのデータスペース。様々な時間軸のデータを統合したり、自己記入データをGAIA-Xに準拠したサービスで転送することをしている。オーストリアとドイツ政府から5mユーロ(7億円)の資金を投入している。
2. Green Data Space
2020年の欧州データ戦略で定義。気候変動、サーキュラーエコノミー、ゼロ・ポリューション、生物多様性、森林破壊などを対象。サプライチェーンやプロダクトパスポート、リソースマッピング、廃棄物トラッキングも含む。
EUの推進するGreenData4AllやDestination earthイニシアチブの中で具体化していく。
1)Green Data Space
危機管理やリスク管理に力を入れている。データマーケットプレイスとOpen AI workbench、Secure Data Sharing Rooms、Trusted Data Hub、Connection moduleで構成。IDSAがパートナーに入っている。
2)GREAT
気候変動に対処するためのデータをオープンに共有するネットワークであり、リファレンスアーキテクチャを作るとともにデータセットやガバナンスフレームワークを提供しようとしている。2030生物多様性戦略、ゼロポリューションアクションプラン、気候変動適応戦略等に貢献する仕組みである。欧州委員会がファンドしている。
3. Mobility Data Space
欧州データ戦略で定義。自動車分野、航空や河川、海洋での移動分野、移動全般や物流を対象とする。
1)Mobility Data Space
モビリティに関して情報共有するためのデータスペース。車の移動、駐車場、自律移動ロボット、ガソリン価格、旅行情報など、情報提供から個別のデータ提供までを扱い、新しいサービスを開発できる。モビリティ機器の提供者、行政、保険等様々な関係者が参加する。
IDSAの部品としてIDP(CA,DAPS,Parts)、メタデータブローカー、appストア、クリアリングハウス、ボキャブラリプロバイダー、コネクタを使用。ドイツ政府がファンドするGAIA-XのLighthouseプロジェクト。
2)Bauhaus Mobility Lab
AIを使ってモビリティとエネルギーと物流のデータを分析し、都市の環境まで含めた状況を改善することを目指す。IDSAのコネクタを使うとともにGAIA-XとIDSAの原則を設計で活用。ドイツ政府が支援している。
3)Mobility Data Marketplace
ドイツのモビリティデータのマーケットプレイスであり、トラフィックデータ等を入手できる。車や街のセンサーデータ、駐車場、工事、警報、ガソリン価格等が入手でき、XMLデータがコンテナ化されてセキュアに転送される。ドイツ政府がファンドしている。2023年末にサービス提供を終了し、オープンデータポータルのmCloudと融合し、政府が提供するmobilithekというサービスに移行する。また同じくドイツ政府が推進する。Mobility Data Spaceから参照される。
ポータル機能
ブローカ機能
4)DASLOGIS
オランダのiSHAREの拡張版である物流データスペースであり、IDSAのアーキテクチャに基づき構築されている。業務最適化のためのトランザクションデータ、分析のためのデータ、リアルタイムに可視化されたサプライチェーンデータで構成される。2020年に開始し、2022年12月に評価を終了している。
5)GAIA-X4future mobility
人工知能(KI)、先進モビリティサービス(AMS)、自動化されたコネクテッドモビリティサービス(ROMS)、分散型デジタル車両IDのmoveID、製品ライフサイクルを通じた自動運転管理(PLC-AAD)、エッジデバイスの管理(AGEDA)の6プロジェクトからなる。ドイツ政府が20mユーロ(30億)をファンドしている。GAIA-Xのライトハウスプロジェクト。
4. Health Data Space
個人や医療機関や研究機関、産業界が扱う集積された健康データを対象とする。予防、検知、治癒への先進技術の適用を目指すとともに、エビデンスベースで持続性のある環境を作っていく。
EU4Healhプログラムの資金によりMyHealth@EUと連携し個人健康情報の扱いを研究する取り組みを進めている。また、genomesデータの研究も始めている。
1)European Health Data Space (EHDS)
個人の健康情報へのアクセスの活用を促進したり、健康情報に関するデータエコノミーを作ったり、その活用ルールを検討するプロジェクト。
5. Financial Data Space
金融に関するデータ、トランザクション、結果を扱い、シミュレーションなども可能で透明性が確保された環境を目指す。ESAP(European single access point)のアーキテクチャやオープンファイナンスのフレームワークの検討を進めている。
6. Energy Data Space
エネルギーの生産、輸送、消費を扱う。脱酸素を扱う。分野横断や消費者主導でのイノベーティブな環境を目指している。地域消費やスマートビルでの消費、再生エネルギーも対象とする。BridgeイニシアチブやOpenDEIの一般デザイン原則が提供され、Action plan on the digitalization of the energy sectorでデータスペースへの具体的なステップを固めるとともに、Digital Europe Programmeの資金でオープンソースのCloud-to-Edge middleware infrastructureの整備を行うなど、具体的な取り組みが進められている。
1) Data Intelligence Offensive(DIO)
各消費者のエネルギー消費のデータをコネクタを通じて収集しエネルギー会社に送り、エネルギーの流れを改善をすることを狙っている。既存の発電産業ではなくグリーンなどのサステイナブルな電力への誘導を考えている。
IDSAの部品はコネクタを使い、GAIA-XやIDSAのアーキテクチャを参照している。オーストリア政府が支援している。
2)PLATOON:Wind energy Data Space
様々なメーカーによる風車のデータをコネクタを使って収集・分析し予防保守を行うプロジェクト。
IDSAの部品としてIDP(DAPS)、クリアリングハウス、ボキャブラリプロバイダー、ブローカー、appストアを使用。欧州委員会が財政支援。
3)Omega-x
各種エネルギーセクターのシングルデータプラットフォームを目指している。IDSAとGAIA-Xやfiwareのアーキテクチャを参照している。4つのユースケースで10のパイロットサイトで検証中。
3/4の資金がEUから出ている(8mユーロ(11億円))。GAIA-Xのライトハウスプロジェクト。
4) DEAKIN
風力発電の効率性をあげるプロジェクト。様々なメーカーによる風車のデータをコネクタを使って収集・分析するプロジェクト。IDSのアーキテクチャやコネクタを使用している。
7. Agricultural Data Space
地球観測や気象データも含む、農業に関するサプライチェーンを対象とし、持続可能で競争力の高い環境を目指している。GAIA-Xでも農業データスペースで終日イベント(https://gaia-x.eu/event/agriculture-data-space-event/)を実施しており注目されるエリアである。
1)ag datahub
農家、企業、研究者等でセキュアにデータを構築する農業関連活動のデータ基盤。認証を行うagritrustとデータ交換を行うapi-agroからなる。フランス主導で公的資金も3.2mユーロ(4.6億円)入っている。GAIA-Xのライトハウスプロジェクト。
2)FISH-X
特に小規模漁業者を対象にした海洋多様性やエコシステムを意識したデータスペースで、漁業データを収集・活用している。EUがファンドしていて、GAIA-Xのアーキテクチャや技術を使っている。
8. Data Space for Administration
行政が扱う膨大なデータが対象であり、特に、予算、法や調達データ、法執行に関するデータに注目している。
また、欧州横断で各種証明書を取得できるOOTS(Once-Only Technical System)が行政分野初のデータスペースとして強力に推進されており、Digital building blockにも指定されている。ビルディングブロックのeIDとeDeliveryを使用している。
9.Skills Data Space
教育、訓練と労働市場が対象で、スキルのミスマッチを防ぐことを目指している。そのため質、教育機会、スキルセットを検討に含んでいる。またデジタルクレデンシャルに注目している。ビッグデータとしてデータを扱うとともにEuropean digital credential for learning platformなどとの連携も検討されている。
1)PROMETHEUS-X
フランスが推進する教育のGAIA-Xプロジェクト。スキル情報の収集人工知能アルゴリズムに関するトレーニングの集積、学習者のトレース等をユースケースとして検証している
2)MERLOT (MarkEtplace foR LifelOng educaTional dataspaces and smart service provisioning)
ドイツ政府がファンドする生涯学習のデータスペース。AIによる教育やスキル相談の対応を行う。マーケットプレイスを作ることでデータの配信を行う。GAIA-Xのアーキテクチャを使用。
3)DS4Skills
スキルに関する様々な取り組みのインベントリーを整備・公開しており、各プロジェクト情報を確認することができる。欧州委員会がファンディングしている。
10.Open Science Cloud
欧州データ戦略が推進する9つのデータスペースに関する基盤として研究データを提供する.
11. Data Space for Cultural Heritage
2021年に追加されたCommon Data Space。
Europeanaをベースとした文化遺産に関するデータスペースであり、3Dデータも含む博物館などのデータを集積している。教育はもちろんのことツーリストに対する訴求力がある点や大きな雇用があることに注目している。
12. Legal Data Space
法律データにアクセスしやすくするために法律のデータスペースが進められている。既に提供していたEURO-LexだけでなくLegTech関連の取り組みを強化している。
13.Procurement Data Space
調達情報は透明性が確保される必要がある。すでにTED(Tenders Electronic Daily)で公開されているが、検索性を向上させるためオントロジの活用が検討されている。また、EIRAを拡張したe-Procurement Core Solution Architecture Template (SAT)(chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://joinup.ec.europa.eu/sites/default/files/distribution/access_url/2018-03/c8092c09-7126-4d2f-8e1c-b2043b3d358d/SAT_e-Procurement_v1.0.0_beta.pdf)が提供されている。
14.Security Data Space
行政機関のAI導入のためのデータセキュリティのデータスペースを考えており、トレーニングデータやデータのクオリティコントロール、文書化、テストと評価手順、クラウドストレージ、計算機パワーについて検討している。
15.Data Space for Media
開始したばかりのデータスペースである。信頼できるデータを提供するため、European Democracy Action Planの中であつかっていく。メディアデータ共有などのツール開発から始めていく。
16. Data Space for Tourism
開始したばかりのデータスペースである。GAIA-X,EC DIGITがイベントを行うなど注目されているプロジェクトである。
1)DATES
文化遺産、モビリティスキル、メディア、スマートコミュニティなどのデータスペースと連携し、旅行者の行動履歴、満足度などと合わせて分析できるようになっている。
2) EONA-X
モビリティと移動とツーリズムのユースケースで、航空や鉄道などの移動手段を組み合わせたゼロエミッションに寄与する旅行の実現を目指す。GAIA-Xのライトハウスプロジェクト。
17. Smart Communities
1) Data Space for Smart and Sustainable Cities and Communities(DS4SSCC)
スマートシティのデータスペースを作る準備活動として、戦略、ガバナンススキーム、サービスカタログ(BB)アーキテクチャ、ロードマップなどを整備。LivingLabプロジェクトとも協力している。EUがファンドしている.
2)ELINOR-X
スイスのLucerne市が推進するスマートシティプロジェクトであり、市民がデータに基づく意思決定できるようにする。他の分野にも使えるTrustRelayサービスを開発して試行。GAIA-Xのライトハウスプロジェクト。
18. その他
1)iSHARE
データスペース共通のトラストフレームワーク。Identification、Authentication、Authorisationの3要素からなり、M2M,H2M等の認証を行う。
2) Structure-X
GAIA-Xに準拠したクラウドインフラを提供。セルフディスクリプションデータの保証方法、IDや認証、分散台帳技術等を提供する。GAIA-Xのライトハウスプロジェクト。
3)Copernics
衛星収集データに関する一元的なデータベース。