ジャック・ザ・リッパー感想②‐背中で哀愁を語る男

背中で感情を表す役者が好きなんですよね。
客席に背中を向けていても、その時の感情がありありと伝わってくるシーンに出くわすと、ものすごくテンションが上がります。

いま、私が好きな俳優さんでこれがダントツに上手いと思っているのが加藤和樹さん。
あのとても綺麗な背筋を持つ背中から、ありとあらゆる感情を醸し出せる男。

私が和樹くんにドップリハマったのが1789からなんですけど、ロナンが恋に落ちて喜びに満ち溢れる思いを、あえて背中を向けて表現し、しかもその喜び具合が表情を見なくても伝わってくるあの演技にスコーン!とやられまして、今に至っております。
レディベスでベスとの別れのシーンも客席に背中を向けて泣く背中に、こちらも号泣でした。
演出家さんたちも和樹くんの背中には並々ならぬ魅力を感じているのであろうと推測する。

さて、本題のジャック・ザ・リッパーの話。

和樹くんがアンダーソンとジャックの二役をするってことで、ファンはまたお財布の痛いことになるわけですが、この両極端とも言える姿を1日で味わえるという、なんとも贅沢な日を過ごしてきました。
あんまり内容がわからずにいたときは、ジャックのほうが面白いかなぁと思っていたのですが、徐々に内容が漏れ聞こえ始めたときに、これはアンダーソンのほうが私の好みじゃないか?と思い、売り止め直前にアンダーソン増やしました。

結果、和樹アンダーソンめちゃくちゃ好き!!!
好きの塊。

ヤク中の警部というぶっとんだ設定ではあるけど、和樹アンダーソンを観てると、彼の過去とか書かれていない性格とか、ものすごく想像できるんですよね。
コカインに手を出すのも、ただのジャンキーではなく、アンダーソンの繊細さとか弱さが感じられて、胸がきゅんです。
いつも眉間にシワを寄せて世の中を愁い、退廃的な雰囲気を醸し出しつつも、ロンドンという街(というか、そこに住む人なのかなと個人的解釈)を見棄てられない、熱いハートが気だるげな中に見え隠れする。

個人的解釈ですけど、モンローとの取引に応じるのも、堕ちるとこまで堕ちてやろうとわざと自分を下衆なものにしようとする拗れ具合を感じとり、めんどくさい男だなぁと思うけど、そのめんどくささこそが私の好みのど真ん中に突き刺さる。

彼の歌う「灰色の都市」は悲痛な叫びに聞こえ、こちらも辛くなる。

はぁ、愁いをまとう加藤和樹の渋味と美しさは絶品だな。

背中が和樹くんの1つの武器だと思うのだけど、今回はわざと姿勢を悪くしているように見える。
その背中には、世の中のものに対しての拒絶感が見えるのだ。誰も踏みこめない孤独。
ポリーの歌のなかに「パパの背中を思い出す」という一節があるので、昔のアンダーソンの背中は逞しく力強いものだったのだろう。
いったい何があったのよ、アンダーソン!想像力を掻き立てられる。

そして、和樹くんの演技は"物語のその後"を予兆させるのだ。
私たちに見える物語は幕が下りる数時間で終わってしまうけど、その人物にもその後はあるだろうと、これまた想像力が掻き立てられるのだ。

私にはアンダーソンが灰色の空の下でずっともがき続ける未来しか見えなくて、ますます薬に溺れて、そのうち現実と幻想の世界の境目もなくなってしまう姿を想像してしまう。
なんなら雨に打たれながら、ゴミとともに横たわってる姿まで思い浮かべてしまう。
最後のタバコに火をつけようとしても、湿ったタバコは燻るばかりで、その無意味さにフッと笑って死んでいくんじゃないか、くらいまで想像してしまう。
彼が最後に見るのは、変わらない暗い空なんだろうなぁ。
もう、アンダーソンには絶望しか見いだせないんですけど。
珍しく和樹くん舞台上で死なないけど、死ぬ未来しか見えないよ(苦笑)

いや、もう、助けてあげたいよ、アンダーソン!

まだアンダーソンな和樹くんは一回しか観ていないのに、きゅん死寸前です。

私が悶絶死しそうになったのが、ダニエルの話を聞きながらタイプライター打つ時に腕まくりしてる、その腕の美しさ。
しばらく腕ばかり見ちゃって話が入ってこなかったわw
なんとも形容しがたいのですが、腕がエロいってどうなのよ。下手に裸見せられるよりエロかったわ。

踊る殺人鬼を眺めながらウイスキーを飲む姿とか、ダニエルとグロリアの再会話を机に腰かけて興味無さそうにしてる姿とか、とにかく美しい。

もう、さっきから美しいばっかり言ってるけど、それ以外に言える言葉がない。

これほどに哀愁が美しい男性は他にいるだろうか。

次に観に行く日が待ち遠しい。

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