#12.ゲーム完成と振り返り【地域ボードゲムをつくろう】
ついに完成した「地域ボードゲームをつくろう!」ガイダンス最終回です。このプロジェクトは、愛知県の名古屋大学博物館でボランティアをする大学生たちが地元に根差した「地域ボードゲーム」の開発に挑戦してきました。
これまでのガイダンスは、この下のタグリンクからどうぞ。ガイダンスの内容や使用したスライドの内容も公開しています。ぜひチェック&スキプッシュお願いします。
主催:愛知建築士会 名古屋名南支部
協力:MusaForum(名古屋大学博物館 学生スタッフ団体)
協力:いたばしの地域ボードゲーム会
今回は実際に開催されたボードゲーム会をふくめて、学生たちが完成させたゲームを紹介しつつ、ガイダンス全体を振り返っていきます。
なお、ゲームのお披露目会のようすは、名古屋大学WEBマガジン「広報名大」アカウントにnote記事があります。こちらの記事もぜひチェック&スキプッシュお願いします。
ガイダンスの振り返りをふくめた内容で、全体が超長いです。とりあえず大学生たちの地域ボードゲーム作品の紹介だけでも見ていってください。
「TTB(トーカイ・トラベル・バス)」
チーム「TTB」が制作した「TTB(東海トラベルバス)」は、東海3県の旅行をテーマとしたボードゲームです。
チームメンバーが愛知、岐阜、三重の三県で構成されていることから、「三県へ旅したくなるようなゲームにしたい」という思いで始まりました。
双六をベースとしたことで、当初は「各プレイヤーが別々に行動してるだけに感じる」という課題が発生。相互作用を生み出す仕掛けを設け、みんなで勝負を楽しめる内容にブラッシュアップしてきました。
ゲームのルール
目的地をまわりながら旅行バスの乗客を増やそう
プレイヤーはそれぞれが別の旅行代理店になって、自社のバスを操作。名古屋・岐阜・津のいずれかをスタート地点に、カードでランダムに決まる目的地に向かって、スゴロクの要領でバスを進めます。ここまでは「もも鉄」の近いイメージです。
目的地カードは、東海3県の各地から1枚ずつ、1人3枚。自分の目的地カードの場所をすべて踏破したら、そのプレイヤーはあがり。プレイヤーが残り1人になったらゲーム終了です。
ゲーム中はさまざまな理由でバスの乗客数が変化し、この乗客数がゲームのスコアとなります。基本的には、目的地を素早く踏破したほうが高得点ですが、勝敗のカギはそれだけじゃありません。
戦略のカギは、各地のおみやげ集め
マップの各地では1マス分の移動を消費し、その土地の名産品が描かれた「おみやげ」をゲットできます。イラストも魅力的な「おみやげ」は、組み合わせると「役」として追加スコアに。
なのでプレイヤーは移動経路とおみやげを意識して、スコア計画をあれこれ考えることになります。
自分の作戦を練るべく「おみやげ一覧」とマップに何度も目を運ぶうちに、自然と各地に対する理解も深まったり、ゲームとは別に行ってみたい・食べてみたいものが見つかるのは、現実の地域と接続している地域ボードゲームならではの楽しさ。
ゲーム中のプレイヤー相互作用
マップ上に点在する「指示カード」は良い効果と悪い効果をもたらします。良い効果の中には他プレイヤーの所有カードや乗客に干渉するものもあるので、ときに逆転ドラマを生み出すことも。
また、同じコマに複数のバスが停止すると、乗客をかけたプチ・バトルが始まってしまうところもユニークです。
こうしたプレイヤー同士の相互作用をうむ仕掛けが随所にあるので、スゴロク型のゲームでありながら、最後までライバルとの競り合いを楽しむことができるように作られています。
「名古屋で土産売っとるって聞いたがや!!おみゃあの店、みせてみゃあ〜」
チーム「め~いっぱい」の作品がこちら。「名古屋で土産売っとるって聞いたがや!!おみゃあの店、みせてみゃあ〜」は、お土産屋さんとなって東海地方の名産品を集めるカードゲーム。ゲーム名がすでにおもしろい。
こちらの作品は「名古屋発祥ではない名産品が、なんとなく名古屋のものだと思われている、その可笑しさをテーマに遊びたい」という考えから生まれました。最初はTTBのように、マップを移動しておみやげを集める方式にしていましたが、途中でその体験目的に照らしてルールを考え直し、名産品のおもしろさに集中できるようカードゲームに変更しました。
ゲームのルール
各地の名産品を集めてお金を稼ごう
このゲームでは、札から名産品カードを引き、その組み合わせで役をつくりコイン(売り上げ)を伸ばします。ただしポーカーのように1ゲームで1つの役をめざすのではなく、引いて役ができたらその場で公開し、別の役を目指して次の手づくりに入っていきます。この展開の速さも特徴です。
舞台となる東海「四」県の名産品がカードとして登場しますが、スート(カードの種類分け)はなぜか「5」種類。じつは愛知と名古屋が別扱いになっているのです。
名古屋に魂を売るか?売らないか?
ゲーム中には自らを「ナゴヤ人」「スーパーナゴヤ人」などに高めていくことで名古屋の名産品だけがメリットを得られる仕組みがあったり、かと思えば「ナゴヤ人」になる誘惑を最後まではねのけたプレイヤーにも特典があるなど、名古屋の誇り高さをネタ化したルールも笑いを誘います。
またカード集めが中心のゲームでありながら、コイン1枚のコストで他人のカードを奪い取る「強奪」のチャンスを得られるのも特徴的。この強奪行為は、強奪を受ける側が「なごやかチップ」という特殊コインを手で隠し、強奪者がその表裏を当てにいくという博打勝負です。
この「なごやかチップ」はもちろん「和やか」と「名古屋化」にかけているわけですが、まったく穏便とは言えない行為であったり、強奪者がナゴヤ人とは限らないのに名古屋化と言ってしまうあたりもふくめて、ニヤニヤがとまらない。
終始、みんな笑顔でなごやかに奪い合う
カードのイラストがとてもかわいく魅力的で、特殊な役に与えられるトロフィーは3Dプリンターで作られたもので、とてもおしゃれ。
ルールの説明中からもさっそく笑いがもれ、終始なごやかな雰囲気のなか、ガチンコの奪いあいを楽しめるという、名古屋愛にあふれた地域ボードゲームに仕上がっています。
参加者たちの感想
地域ボードゲームの体験会では、名古屋大学博物館が、参加者の感想もアンケートで拾っていますので、その一部を紹介します。
アンケートに答えてくれた参加者は全部で21名。未成年3人、20代4人、30代2人、40代4人、50代7人、70代1人です。
20代、30代からは、ゲームシステム面への改善案も書いてくれる方がいましたが、とても良かった点も書いてくれているので、皆さんに楽しんでもらえたようです。
また、地域ボードゲームのガイダンスしめくくりとして開催したこのゲーム体験会の後にも、地元のお店を舞台にゲーム会が開かれるなど、継続的な地域との交流が続いているのも本当に素晴らしいと思います。
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ガイダンス実施者としての振り返り
まずは、学生の皆さんに感謝。本当に賢い学生さんたちだったので、拙い自分のガイダンスでもここまで作りこむことができたと思います。ありがとうございます。
ガイダンスを実施する側としての反省点や次へのヒントをまとめたいと思います。
総合的なレビュー
まず全体の感想では、遠隔指導の難しさをとても感じました。
Zoomだけだと、人間同士のコミュニケーションの質が落ちるってのはまずあります。それに加えて、ボードゲーム制作をする上では、その制作過程で生まれる課題や悩みが、その制作物そのものに深くかかわっているはずなので、実物を一緒に見て話せないってのがとても難しかった。
ただ、学生らのそばには現地の大学博物館の先生が見守ってくれたので、そううした支援によって助けられました。
3Dプリンターのことも、いろいろ助言はしたけど、ゲーム会直前まで動きを見て取れなかったので「今回は使わないのかな」と思っていたら、いい感じのコマやトークンを作ってきてたのでびっくり。
自分側の「もっといろいろ教えられたら良かった」という思いに比べて、学生らはとても作り込んだものを仕上げてくれたので、彼らの底力と周囲の先生方がとにかく大きな力でした。ありがとうございます。
次回の機会への改善点
今回の2023年3月から12月までの経験と学生の声を踏まえて、今後、似たようなガイダンスを実施する場合の改善点を考えてみます。
ガイダンスに対する学生さんの感想
学生の皆さんに、「良くなかったところ」「もっとこうあったらよかったかもしれない」という部分を挙げてもらいました。
上の計画表にある通り、今回は最初の3か月は制作に着手せず、「どんな体験を届けるゲームにするか」というゴール設計に時間を割きました。
今回のガイダンスの方針として「地域の課題解決ゲーム」も作りたいという声も当初はあったのでそれを考慮して、テーマ設定を慎重に行うよう準備していたわけです。今後は似た状況であっても、トランプの遊びを変えてみるとかゲームデザインのミニ体験を入れると良いかもしません。
また、ガイダンス途中では僕の自作ゲームの制作の流れも説明に加えました。でも「学生たちが作るものと全然違うルールのものに長時間の説明をするのは無駄かも」って心配もあり、コンパクトにまとめました。
その点について聞いてみると、学生からは「全然別のルールでも、制作プロセスを細かく教えてもらった方がいいかもしれない」との回答。
次があればゲームデザインのミニ体験と、事例の細かい解説を加えることを検討してみたいと思います。
次は「地域ボードゲーム」へ注力を
今回は、最初の3か月をテーマ設定に使ったわけですが、その背景には「シリアスボードゲーム」と「地域ボードゲーム」のどちらかを選んで作ってもらうという前提がありました。
2つに関する着眼点の違いは#2でくわしく説明しています。
テーマ設定に時間をたくさん設けなければならなかった主要因は、シリアスボードゲームで地域の課題解決に取り組む場合のインプット期間です。
大学に通う学生たちは広範な地域から来ていて、必ずしも大学の所在地(名古屋)の地域住民ではありません。そんな彼らがもしも「ボードゲームを通じた地域の課題解決(シリアスボードゲーム)」に取り組むならば、ゲームデザインを考える前にまずやるべき大切なことがあります。
それは地域に深くふれて、自分の言葉で語れるような当事者目線の地域課題を見つけていくことです。そのうえで、課題に対する解決の仮説を考え、その仮説にそったゲームをデザインするって流れになるでしょう。うーん、文章に書いただけで難しそう。絶対に面白い体験でしょうけどね。
なにはともあれ、地域に飛び込まなくては始まりません。4月には課題としても地域活動の情報リストを作ったり、実際に参加してみてもらいました。
ところが、最初から地域ネタをエンタメに表現するボードゲーム(地域ボードゲーム)ならば、そこまでの準備はいりません。地域住民で楽しく交流してもらうこと自体に価値あるよねって話なので、地域に飛び込む経験はしてもらうけど、課題と解決を探るプロセスがまるごとふっとびます。
依頼を受けた当初は、関係者も「ボードゲームによる地域課題の解決」に期待を寄せている雰囲気があり、今回のガイダンスでは、学生の選択で課題解決型と地域エンタメ型どちらにも行けるよう計画してきました。
前半のインプット期間を終え、学生2チームに「シリアス寄りか地域エンタメ寄りか」を選んでもらうと、両チームが地域エンタメ寄りに。こうした複数の路線をふくもうとした流れが、ゲームデザインの話題密度を薄くしてしまったかもしれません。
今思えば、自分自身の責任ではじめから地域エンタメに限定してしまったほうが、前半からゲームデザインの本論に進むことができて制作がスムーズだったかもしれませんね。
ただ、僕個人としては、課題について一生懸命考えてつくる「シリアスボードゲーム」も違った楽しさがあると思っています。どちらも今後、再びガイダンスに取り組む機会がもらえたら嬉しいなと感じました。
良かったところも聞きました
最後に、ガイダンスで良かったこと、印象に残ったことも聞きました。
ガイダンスの内容、経験について良かったところを聞くと、いろんな感想がもらえました。上(1)~(8)まですべて違う方の感想です。
ボードゲーム作りは、まずゲームデザインに目が行きますが、実際は情報の編集、グラフィックデザイン、イラストレーション、広報の工夫、地域ボードゲームなら地域とのつながりなど、数多くの要素が関わってきます。
そこで、自分のガイダンスでもゲームデザインだけでなく、著作権、デザイン、PR、地域性などさまざまな話題を入れてきましたが、それが皆さんのどこかしらに届いたというのが、本当に嬉しい感想でした。
また「地域好きな人好き」の僕としては、この制作をきっかけに、地域との関係を深めてくれた学生がたくさんいたことも大きな喜びです。
もともと入れたいと思っていたけど制作状況と残り時間の都合で、入れられなかった話題も少しありますが(ゲームの説明書とインストの関係を考えるなど)、それは次回の挑戦とします。
みなさん、本当にありがとうございました。