#3.ゲーム開発の流れ具体例【地域ボードゲームをつくろう!】
第3回目の「地域ボードゲームをつくろう!」ガイダンスです。このプロジェクトは、愛知県の名古屋大学博物館でボランティアをする大学生たちが地元に根差した「地域ボードゲーム」の開発に挑戦していきます。
各回の内容はこちらのマガジンにまとめています。
主催:愛知建築士会 名古屋名南支部
協力:MusaForum(名古屋大学博物館 学生スタッフ団体)
協力:いたばしの地域ボードゲーム会
前回から次回にかけて学生の皆さんには地域についてリサーチをしてもらっています。学生内ではTrello(トレロ)でチーム内の情報共有を始めていて、先々がとても楽しみです!
今回の前半は、ゲームデザインの際に知っておきたいゲームの権利と倫理について。後半では、ぼくらがこれまでに制作してきたゲームについて、複数の異なる観点から役立つかもしれないポイントを紹介します。
以下にスライドの一部を抜粋しつつ、実施したガイダンス内容をまとめていきます。
1. 知っておきたい権利と倫理って?
ボードゲームを作る際の権利と倫理という話題について。この話は、深掘りすると議論が絶えない感じがしますが、ここでは最低限に持っているといいんじゃないかなーという観点を出したいと思います。
まずは前提として、海賊版(コピー商品)の話はしません。ボードゲームに限らず、海賊版は文句なしに違法だと結論できるからです。
ボードゲーム制作で悩むとしたら、ゲームルールに関する真似の話。さらに言うと「既製品とまったく同じルールで絵とタイトルを変えただけ」といった極端な事例ではなく「同じではないけど、あのゲームにだいぶ似ている」みたいなケースについて指針を探ります。
つまり今回のプロジェクトで皆さんが作っていくゲームが、既存作品に大きく影響を受けてしまった場合にどうするか、という検討を進めます。
結論をバン!と出すと、そもそもゲームのルールは著作権によって保護される対象ではありません。なので、さっきの極端な例「ゲームルールをまるごと真似して絵とタイトルだけ変えた」場合ですらも、著作権を理由とした罰は受けないというのが一般的な解釈です。(悪質な点があれば、別の理由で裁かれる可能性はあります)
しかしだからといって、「法律にふれなければ何でもアリ」ではないのが、ぼくらの社会の普通のすがた。そこにあるのは、社会の常識や倫理といった、法律の余白を流動的に埋めながら秩序を守っている概念です。(ときには常識や倫理を疑う必要があるとしても、基本的には大事な存在です)
法律が守ろうとしている秩序や人権って、実際にかなり複雑なもの。法律だけで守りきろうとすれば、利害の異なる人を整理するだけでも、めちゃくちゃに細かくなるのは想像できます。時代に合わせたアップデートも大変。
そこでぼくらは、倫理や道徳、マナーといった曖昧ながら流動的に対応できる規範で余白をうめて、秩序を保つ工夫を身につけているわけですよね。だから倫理の話が曖昧な結論になるのは仕方ない。
ボドゲ制作の話に戻りましょう。法律が許しているとはいえ、ルールコピーで絵だけ刷新みたいな行為が横行すれば、産業全体が後退するのは予想できます。だからボドゲ制作をする人たちが積み上げてきた、法が届かない秩序を守るための規範(倫理)があるわけです。
ルールを真似しても違法ではない、という認識だけでは片手落ち。ボードゲームを盛り上げることに貢献してきた人たちの考え方、その業界へのリスペクトがやはり大切ですよね。
過去には、地域振興のために制作したボードゲームがネットで炎上してしまった例があります。せっかく作るゲームが、配慮不足で台無しにならないよう、こうした事例にも学んでいきましょう。
炎上の理由はいろいろ。ここに挙げた以外にもあるかもしれません。
この中で、権利処理(3番)については無意識や配慮不足でうっかり発生することはありません。今回は1番と2番を少し掘り下げてみました。
この話題を続けると「完成後に炎上したらイヤだなー」という不安ばかりわいてしまいそうですね……でも大丈夫。地域活動のすごい人たちも、ボードゲーム制作のすごい人たちも、基本的にはいい人ばかり。どちらかというと「連絡してよかったー」となることの方が多いはずですよ。
今後、どうしても参考にしたい、影響をまぬがれないと感じるゲームがあったら、敬意をもち、素直にそれを表明していきましょう。
ということで、まとめ。まず安易にルールを真似るのは避けよう。ぼくらはゲーム体験をじっくり設計してそこに向かって制作するので、必然、既存のゲームからルール全体を真似して適用できる例はほぼ存在しないはず。
他のゲームからダイナミクスとメカニクスの関わり方を部分的に抽出して採用する分には、パクり問題とは縁遠くなるだろうと思っています。その意味ではまず心配していません。
しかしそれでも何かに似ている。影響が色濃く出てしまったときに、著作権をググって「違法じゃないのでヨシ!」で終わらせるのやめようという話。
特に最近の作品であれば、連絡も選択肢に入れましょう。許可がとれてしまえば、外野が文句をつける余地がなくなるので、その効果は最強。「未知の相手にいきなり連絡取るのは怖い!」という気持ちはよくわかります。が、たいていはマイナスよりプラスに働きます。
そのときは、たとえばこんなふうに尋ねるのはどうでしょう。
今は深く考える必要はありませんが、ゲーム開発が終盤となったときには、ふたたびこの話を思い出してみてください。
2. 改造で作った「いたばしケイサツ」
安易な真似はやめようぜ、という話から、舌の根もかわかぬうちに「いたばしの地域ボードゲーム会」の初作品は「スコットランドヤード」の改造ゲームだったという話です。人は不完全なのです。
このエピソードで伝えたいのは、ゲームデザインを学ぶ第一歩としては模倣も決して悪い方法ではないよねということ。
もちろん今回のプロジェクトでは、既存作品のルールを真似することは避けていただきます。学生の皆さんもまずは目標体験を設定し、それに向かって悩むというプロセスを踏んでもらいます。
しかしプロジェクト進行と別に、趣味としてゲームデザインを学びたいのであれば、模倣によってバランスの変化を体験するのはゼロから組み立てるより気軽だし、学びの効果もあるかなーと感じます。
3. ゼロから開発「いたばし防衛隊」
さて、この話では、ガイダンスで強調している「体験から発想してゲームをつくる」とはどういうことなのか、その事例を端的にまとめます。
この「いたばし防衛隊」はぼくらが初めてゼロから開発したゲームです。と、書いてますが実はその前に、ボードゲームと呼ぶにはシンプルすぎるかもしれない簡素なアナログゲームを1つ作っています。とてもしょーもない作品なので、確認したい方はぜひリンクをチェック。
では「いたばし防衛隊」制作過程へ。
前提としてガイドの松本はプロのゲームデザイナーではありません。もちろん、有名でも天才でもありません。仕事は「説明のプロ」だから、その部分でガイド役をやっています。
なので、あくまでも一例としての紹介。これから皆さんが取り組むボードゲーム開発のイメージと、「目標体験」を軸に設計するとそういう苦労があるんだなーという点が伝われば幸いです。
前述の「いたばしケイサツ」をゲーム会で使うと、このルールは参加者が途中で増減しても対応できることに気づきました。イベント実施にはとても便利。この良さを残して、地域ボードゲームを増やしたい!
しかし課題も少しあって。地域好きが集まるゲーム会では、非対称性やガチ推理をハードルに感じる方も少なくありませんでした。
バカバカしくて全員協力できる地域ボードゲームを作りたいという思いを「目標のゲーム体験」に設定。この時点でルールはともかく、表現のノリとしては宇宙人がまちに攻めてくるようなのがいいなーと考えていました。
制作を始めて、さっそくゲームデザインの「壁」が立ちはだかります。
侵略者たちは、だれも操作しないのにどうやってまちを移動する?
ただ移動すればいいのではなく、皆で予測できる要素を入れたい!
地図はグリッド状でなくリアルな境界線の地図を使いたい!
自動的に動く敵キャラ(2番)が難しい。地図の制約(3番)がなければマス目状の地図を動かす方法はいろいろありそうだけど……
地図がリアルだと、1つのエリアに隣接する他エリアが7つだったり2つだったり。上(北側)に隣接地がないのに南(下側)には4つも隣接していたりとか。数も向きもバラバラ。
地図はリアルなほど地元民は盛り上がりやすいって感覚もあり、ここは譲りたくない。どうしたものか……しばらく悩みます。
思いつくルールは紙切れに書いてどんどん試しました。またいろんな検索ワードを使って、参考になるゲームがないか探してみました。
ここでの主張は、ボードゲームのルールは、ほとんどが紙切れで検証できるよってことです。たとえばゲーム内で「ボールを標的に投げ当てるアクション」や「みんなで議論する場面」があったとしても、いったん確率を使ってアクションの成否や議論結果をサイコロで決めてしまうことができます。
これは、ルールの面白さや適切なバランスを探しているわけじゃなく、目標体験につながるメカニクスを探しているため、そうしたラフさを持つことができるのかもしれません。
結局、初期から持っていた案の1つを採用しました。
目標体験からメカニクスを探るというプロセスは、たぶん、設定した目標体験によってさまざまだと思います。今は一般化できる解法がわからないので、「どんどん試せ」的なパワー系の結論です。しかしそれでも、目標体験をしっかり持つことは有益だと思っています。
なぜなら、この最初の壁を超えて中心となるルールを見つけたら、その後の肉付け段階は、発散するより収斂していく形で進むからです。
目標体験のために不可欠であった中心ルールが見えたならば、残りはゲームに必要な調整が本格化します。
難易度の時間変化、プレイヤー選択肢の時間変化、作業的な選択肢(ジレンマ構造をもたず論理的に絶対採用or棄却される選択肢)の排除など、できることは多数あります。
ゲームそのものの難易度や面白さは、さっき決めた中心ルールだけでは決まりません。破壊されるまちの耐久力のような値、侵略者の破壊力やライフの値などこれらパラメータによる調整が大きく働きます。
地図上で全員協力するなど目標体験の根幹をなす「中心ルール」
ゲームを楽しみやすいかなど体験の品質を決める「調整ルール」
目標体験との関連深さでこの2つを区別しています。別のゲームの作り方、ルールのアイデアからゲームを作る人も、そのアイデアを「コンセプト」として周辺の調整事項と区別すると思いますが、一緒です。中心ルールは一度決まってしまえばほぼ動かしません。
調整段階では、ルールや要素を追加するばかりでなく、泣く泣く削除することもあります。いつも「目標体験にベターなのは?」という判断軸を持つため、検討を進めるほど前進している感覚は得やすいはずです。
4. 持続性への挑戦「カジークジー」
次はシリアス寄りに作られた「カジークジー」のケースです。
開発プロセスというよりも、課題解決を目的とした場合に意識できたらいいかもしれない点として、前回登場した「関心向上の機会の維持」における取り組み、現在のぼくらの工夫を紹介します。
「カジークジー」は、男性の育児参画促進を出発点として、パートナー同士の対話促進を目指したシリアスゲームです。
発案者である東京青年会議所板橋区委員会では、毎年、なにかしらの新規プロジェクトを動かしているそうで、今回の話題もその1つ。プロジェクトの成果物について、彼ら自身が継続的に取り組むことは難しいため「完成したら地域ボードゲーム会で使って」と当初から説明を受けていました。
ただ、ぼくらもボードゲームを遊ぶ活動は続けていますが、普段は育児に関するテーマで人を集めたりはしないため、使うことはできるけど「その効果は大きくないだろう」と回答していました。
ゲームが完成し、最初のゲーム体験会が終わると、その後にゲームの広報活動にいちばん熱意を持ってくれたのは、主夫ラボの高木さんでした。
それまで「制作ではなく監修に過ぎないから」と控えめな立場で見守ってくれていた高木さんですが、あらためて関係者で話し合いを設け、高木さん中心のゲーム活用にシフトチェンジ。
高木さんが自身の講演やワークショップに組み込みやすくなるよう、コンポーネントの規格と増産費用などを見直し、内容をリニューアルしました。
課題解決への寄与するゲームであれば、その体験機会を維持する努力も大切ですよね。地域ボードゲームの制作においても、地域コミュニティに参加し、テーマに深く関与する人たちに制作協力や監修として早期から関わってもらえると、長期的な効果につなぎやすくなるでしょう。
自分たちがゲームを作るときに「どんな工夫があると、その課題を解決したい当事者が活用しやすくなるか」という目線を加えてみるのもいいかもしれません。
5. 今年の挑戦「ヒューマンタッチ(仮)」
最後に、いま取り組み始めたシリアスボードゲームについて報告します。
ボードゲームとしての内容は、現在、大いに議論中なので決定事項として書けることが何も無いのですが、その方向性やスタンスについては過去に以下の記事でまとめた通りです。
今回は、そうした経緯に軽くふれた上で、ゲームを体験してほしい人に届けるためのアプローチを考えるヒントを紹介しました。
実際、たいしたことじゃないのですが。ずばり、「ゲームが全然できていないのに、とりあえずプレスリリースを書いちゃう」という方法です。
前回の話と関連させれば、ゲーム体験前の人に対して「遊んでみたい」という動機づけをできるか、という話題にあたる工夫ですね。
プレスリリースを書いてみることの地味に優れたメリットは「プレスリリースの書き方」といった記事がネット上にいっぱいあること。どのように魅力を訴求したらいいのか、といった説明を通じて、多角的に考える練習にもなるはずです。
6. 今日の話題で大切なことは?
本日のまとめです。
今回はゲーム制作事例を紹介しながら、いろんな側面を紹介しましたが、これから地域にふれて、そこからゲームをつくろうという人には、やっぱりリスペクトを持ち、表明していくことが大切そうです。
地域活動にも、ゲーム制作にも。ともに活動する仲間にも。
地域活動をされている方には、直接会う機会ができていくことで、自然と肌感のあるリスペクトを抱きやすいと思います。一方、いろんなゲームを体験してもその制作者に直接会う機会はあまりありません。ゲームを作ってみると「ゲーム作りって奥深いな、すごいな」という気持ちは素直に持てると思いますが、肌感が弱いとうっかりその表明を忘れがち。ちょっと意識的になるくらいのバランス感覚でいいかも。
個人的にはスライドで紹介した動画をふくめ、ゲームデザイナーのインタビューや動画を探してみるのがオススメ。「そこまで考えてたんだ、スゲーな!」という感情レベルからリスペクトを抱きやすくなる気がします。
具体的に尊敬できる人が1人見つかるといいですね。それがロールモデルになって、ゲームデザイナーさん全般に想像力が働くようになりますから。
次回は、学生の皆さんによる地域リサーチの結果共有をメインに進める予定です。
(参考)使用したスライドなど
ガイダンス当日に使用したスライド全体です。
▼前半パート
▼後半パート
▼音声リハーサル
ガイダンスを実施する1週間くらい前に、スライド未完成の状態で、仲間内での音声リハーサルを実施&収録しています。ガイダンス当日とは話した内容がちょいちょい変わっていたりしますが、ご興味があれば、こちらも合わせてどうぞ。