アマチュア絵描きがイラスト生成AIについて考えてみた

この記事は私の考えを整理するために書いたもので、インターネット空間でさんざん行われてきた議論の影を踏んでいるに過ぎず、新規視点は提供しない。
前提として、この記事で言うイラスト生成AIとその生成物とは、基礎学習によるものを指し、追加学習によって既存の作品等に意図的に寄せていったものは含まない。

まずはじめに筆者の立場、イラスト生成AIとその生成物に対してのスタンスを書いておく。
私は趣味で絵を描いており、Xのフォロワー数、Pixivのフォロワー数はともに5桁前半。
コミッションサイトやパトロンサイト、同人誌の売り上げで年間数十万円程度のお小遣いを得ている程度のいわゆるアマチュア絵描きだ。

次にイラスト生成AIとその生成物への印象だが、基本的には下記の通りネガティブだ。
・典型的なAIイラストの画風はあまり興味がない
・良いと思ったイラストでも、AIイラストと知った時点で興味を失う(イラストの評価において、作者やモチベーションといった背景情報を排除できない)
・Pixiv検索で大量のAIイラストがヒットして邪魔
・google画像検索でも大量のAIイラストがヒットして邪魔

ただし、イラスト生成AIという技術や基礎学習に対し、何らかの法的な制限をかける形での規制は反対という立場だ。
これは私の本業が技術者(ソフトウェア分野ではない)であるため、技術に対するスタンスが一般的な生成AI規制派とは異なっている可能性がある。
インターネットで観察する限り、絵描きは基本的にはイラスト生成AI規制派だ。
一応趣味で絵を描いている私がなぜイラスト生成AI規制に反対なのか、整理してみたいと思う。

まずはじめに、イラスト生成AIとその規制に対して指摘されている問題は下記の3つに大別されると思う。
①イラスト生成AIは現行法下で違法なのか?合法なのか?
②イラスト生成AIによる基礎学習とその生成物で学習元とその著作者への「損害」は発生するのか?(つまり、現行法で合法であっても新たに規制をかける合理性があるのか)
③イラスト生成AI規制は現実的に可能なのか?

①イラスト生成AIは現行法下で違法なのか?合法なのか?

これは明確に合法であると認識している。だって著作権法において、支分権の中に学習権というものは無いし、文化庁の資料内でわざわざ著作権法第30条の4として書いてあるから。
著作権法第30条の4について、生成AI規制派はよく「当該著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない場合のみ著作権が制限される。AIイラストも享受目的だからNG」と言っているが、これは勘違いじゃないかと思っている。
この場合の「当該著作物」とは学習元を指し、イラスト生成AIによる生成物のことではないはず。間違っていたら指摘してください。

・生成物Dは学習元データA,B,Cの思想または感情を享受させないためOK
A
B → [イラスト生成AI] →D
C

・生成物A'がAに類似している場合、学習元データAの思想または感情を享受させるため類似性の観点でNGの可能性がある
A
B → [イラスト生成AI] →A'
C

依拠性に加え、結局はA'がAにどれだけ類似しているかという、人間が著作権侵害を行ったかどうかと同じような判断がなされるのでは?
現行法はイラスト生成AIを制限するような建付けにはなっていないと理解するのが妥当と思われる。

②イラスト生成AIによる基礎学習とその生成物で学習元とその著作者への「損害」は発生するのか?(つまり、現行法で合法であっても新たに規制をかける合理性があるのか)

①と内容的にかなり被る部分もあるが、こちらも考えてみる。

まずは法律上の権利的な話。
私はイラスト生成AIを専門にしていないし使ったこともないので、理解に怪しい面があるが、生成AIというのは画像とそれに対応する言葉の組み合わせを特徴量として学習し、逆に生成する際は白紙やノイズ画像と言葉を与え、学習した特徴量から「それっぽい」画像を生成する、ということらしい。
この特徴量という「データ」は画像そのものではなく、あくまでも画像と言葉の紐付きというところが重要で、1つの特徴量データを持ってきたところで元画像の復元は不可能であろうと思われる。

この場合、学習元を享受させることも出来ないし、コラージュ等においても元の形が判別できない場合は著作権の対象外であることから、生成AI規制派が訴えるような「損害」も「権利」も無いように思われる。
仮にあなたや私の絵柄にそっくりなイラストを生成されたとしても、絵柄は著作権で保護されないので、不快に思いはすれど、ただそれだけ、ここにも他者に訴えるような「損害」や「権利」は存在しないだろう。

もちろん、学習元を意図的に偏らせたり、基礎学習だけでなく追加学習をしたり、プロンプトで指示したり、それらの行為によって既存の著作物に寄せたもの(版権キャラやロゴが生成されたりは多分こっち)は扱いが異なってくるだろうが、今回はあくまでも基礎学習による「新しい」生成物について考えているので、そちらには触れずにおく。
どのみち、既存の著作物に類似した画像が生成された場合、その類似性によって著作権を侵害しているかが判断されるだろうから、人間の場合と変わらないようにも思えるが。

・映画泥棒や書店での誌面盗撮と何が違うのか?
イラスト生成AI規制派の中には、映画館や書店での盗撮を禁止するのと同じようにイラスト生成AIを規制するべき、と主張する人がいる。
それらの盗撮は当該著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としているため、禁止されているのだと思う。
特徴量そのものは当該著作物に表現された思想又は感情の享受が出来ないので、多分違うと思う。ここは詳しい人に教えてほしい。

次に経済的な被害の話。
こちらの方が相対的に筋は通っているかなとは思う。あくまでも相対的には。

当然、イラスト生成AIの登場によって経済的な不利益を被る絵描きというのは出てくるだろうと思われる。それらの人の保護のため、イラスト生成AIを規制するべきと(暗に)主張する人も多くいる。
おそらくこちらは社会の中でのメリットとデメリットで方向性が決まってくるのだろうが、(イラスト)生成AIは社会的なメリットが非常に大きいと思われるし、先に述べたように「損害」が定かではないので、その社会的メリットと絵描きの財布を天秤にかけて後者を選ぶということには多分ならないんじゃないだろうか。

誰かが絵でご飯を食べていきたいと思って行動することを社会が止めることはないけど、絵でご飯を食べていきたいという誰かの願望を必ず満たす責務を社会が持っているわけではないので、イラスト生成AIに経済的競争で負けた絵描きは他の仕事をするなりして、趣味で絵を描いてくださいという着地点が妥当なところだと思う。

③イラスト生成AI規制は現実的に可能なのか?

まず、イラスト(画像)生成と自動翻訳を技術的(法的)に区別するのは難しいらしい。その時点で絵描き保護と自動翻訳を比較した場合、社会の中で前者が優先される姿が想像できない。

仮にイラスト生成AIに限って規制する道筋を立てられた場合でも、画像検索であったり、医療用途であったり、バッティングするメリットが大きすぎてちょっと厳しいんじゃないだろうかという気がする。

また、ディープフェイクや記録写真の汚染、なりすまし等の問題はあるが、いくらハードルが下がるとはいえ、行為主体が増殖するわけではないので、大元の技術を規制するのではなく、行為に対する取り締まりや訴訟ハードルを緩和する方向性が妥当ではなかろうかと思われる。

以上から、現時点では、イラスト生成AIの法規制に反対する立場をとっている。

以下横道

・技能と技術について
技能とは、一般的にはその人が努力等によって身に着けた主観的、個人の腕前を指す。
技術とは、何かを作ったり処理をする方法のことで、こちらは論文や図面、仕様書等によって再現可能ということになっている。
我々技術者の中には、基本的には技能を技術で読み替え可能とし、その技術を広めたいと考えている人が多くいる。
絵というのはデジタルであっても技能の世界だったのだが、イラスト生成AIの登場によって技術によっても語れるようになるかもしれない。
今までは絵描きという技能者によって「独占」されていた絵の出力が、技術の進歩によって技能を持たない人の場所まで降りてくる。
これは素晴らしいことであり、人類として目指す方向はこっちであると思う。

・よく言われる泥棒という言葉について
イラスト生成AI規制派が推進派やイラスト生成AI使用者に対して「泥棒」と言うのをよく見かける。
これが自分にはよくわからない。②で述べたようにそもそも損害は発生していないようだし、AIに学習されたからと言って著作物そのものや絵を描く手段が失われるわけではない。
AIに学習された結果、絵を描く意欲を無くす云々言う人もいるが、そうした人はどうぞ絵を描くのをやめてください、としかならないのではないだろうか。
AIに学習された結果、絵を描く意欲を無くす云々言う人もいるが、そうした人はどうぞ絵を描くのをやめてください、としかならないのではないだろうか。
自分が絵を描きたくて描くことと、AI(や第三者)に学習されることプラスその結果似た画風の絵が出力されること、前者と後者の間には何の関係もないので。
あ、学習元の著作物の思想または感情を享受させるだとか、自分が権利を持つキャラクターそのものなAIイラストについては損害が発生している可能性があるので何か行動を起こしたらよいと思います。

様々な意見を聞いてみたいのでコメントやXへの転載歓迎です。

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