【感想】『ピーマンダンス』ー生きている限り暴力からは逃れられないのか?ー

当記事には第14回 有鄰館演劇祭 蔵芝居 2023にて上演されました隆善舞台さんの『ピーマンダンス』に関するネタバレを含みますのでご注意ください。




どうも、ひらきたです。
今回は有鄰館演劇祭にて上演されました『ピーマンダンス』の感想を述べていきます。

【解説を踏まえない感想】


人間は暴力から逃れられないんだなぁ〜と思ったのが、一番の感想です。第八場(違ったらすみません)で映画館のポップコーンとコーラがなくなり、音が小さくなってしまうシーンからは特に、日常のありとあらゆることが解釈によっては暴力性を孕むことになるということを痛感させられました。劇中では物理的な暴力(殴る、蹴る)というものが印象的でしたが、第二場(違ったらすみません、初めてベニとカリンが一緒に出ている部分)でベニがカリンに浴びせる言葉って割りと暴力的だと思うんですよ。物理でも言葉でも殴ってて。そういうことを考えたら、たぶん人間は暴力性から逃れることは無理だろうなぁと思いました。
「普通」という言葉は人によって違うということが劇中で何度か触れられていたと思いますが、痛みの感じ方が人によって違うだけで、どんなことにでも暴力性はつきまとうし、その塩梅を気にしながら生きていかなきゃいけないなぁということを実感させられました。
あと、全然話変わるんですけど、黒い服が薄汚れていく感じも含めて蔵の雰囲気が大変良かったですね。

【解説を踏まえての感想】

・キャラクター性の崩壊


キャラクター性の崩壊という部分では、徐々にズラすというよりはかなり一気に崩壊が起こったなぁという印象でした。後半になるとあまりにも崩壊しすぎて、相対的に前半の崩壊が少しずつズレているように見えてしまう部分もあります。しかし、個人的には年齢の齟齬の部分や、ベニとカリンの会話から想像させられたダイスケと、実際に登場したダイスケに大きく乖離があった部分等を考えると、かなり序盤から思い切ってキャラクター性を崩してきたなぁという印象でした。

・起承転結の崩壊


人間はどんなにちんぷんかんぷんなものに対しても理屈をつけないと理解ができないのか、今回の劇のような不条理劇のようなものにも、何かしらこじつけであったとしても理由付けを行おうとする生き物であると思います。
私はそうで、なんとなく「時間軸をバラバラにして見せてきてるのかな?」というように作品全体を論理的に捉えようとしていました。では、私のロジックがどこで崩れたかというと、最後に首を吊った後のカリンをベニが殴り始めるシーン。そして、解説を読んだときの「あくまで同じ登場人物である」という記述です。特に最後の首吊り後のカリンをベニが殴るシーンでは、今まで作品を見る中で築き上げてきたロジックが完全に崩壊したので、頭をぶったたかれたような感覚に陥りました。暴力的ですね♪
この暴力的な部分を持ってして第四の壁の突破を図り、見事私の頭へ暴力を命中させることに成功されたのではないかと勝手に思ってます。

・暴力への依存


先述したように、不条理劇をなんとか論理的に観ようとした私は、最後の首を吊ったカリンをベニが殴るシーンを見てそれまでの論理が全て崩れ去ってしまいました。というか、それまでの論理だけではなく死人(もしくは幽霊)を殴ることはできないという物理法則を無視した暴力が最後のシーンであったと思います。正直言って私はあのシーンが一番怖かったです。
私は初手の暴力シーン時、あまりのシュールさにゲラゲラ笑ってしまいました。そして、暴力の時間が段々短くなるにつれ、笑いはなくなりました。これは、暴力という行為に慣れてしまったからであると観終わった直後は思いました。いわば、原因は暴力の回数にあると考えていました。しかし、今思うと時間の減少というものも一因であったなぁと思います。
そもそも、なぜ私が最初の暴力シーン時に笑ってしまったかといえば、「急に人を殴り始める」これが私の中である種の緊張の緩和になってしまったからだと思うんですよね。私の中の「普通」だったらやらないこと(暴力)を急にセリフの無い緊張感のある場面で行うという、素っ頓狂なことが行われたことによって笑ってしまったと。しかしその後セリフの時間が増えることにより、私が最初に感じていた「セリフの無い緊張感」というものがなくなり、セリフ(安心感もしくは緊張感の緩和)の時間が多くなったことにより、暴力が緊張感を出す役割に私の中で変化したのではないかと思います。その結果、最後のシーンの暴力に一番恐怖を感じるという結果になったのではないかと思います。

おわりに

そんなわけで、私としては生きていく上でつきまとう暴力性について考えさせられる作品でした。
暴力というものをどのようにとらえているのか。または、舞台を通してどう変化させられるのかという部分が人によって違うというところが楽しい作品であったと思います。
少し上から目線の表現になり恐縮ですが、この舞台に携わったすべての関係者の方々へ格別の賛辞をおくらせていただきたいと思います。

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