「夏の畳と短歌賞」一次予選通過作品

●「夏の畳と短歌賞」一次予選について
 選考委員全員が応募作229篇を全て読み各自5点満点で相対評価を付け(点数分布に規定は無し)、3人の合計点を元に、上位から22作品を一次予選通過作として選出しました。
 あくまで相対評価のための便宜的な数字であることから一次予選の点数は公開しない方針とします。

 選考会の模様はこちらからご覧ください。


●布野割歩「動けば」

動けば
布野割歩

めっちゃ雨降ってるんだけどバイト行かなくちゃのメートル毎秒毎秒

最近の現実はすごい 電車では広告とぼくが同じ速さで

ぼくたちのかたちを真似した布がありそれを羽織ってコンビニに行く

テンションがすごいなこういうひとたちが将来化石になるんだろうな

空の旅は快適すぎて着いたときいやな気持ちになるよね ならない

ドレッシングの瓶が並んだスーパーのこれが全部家族だったらいい

これからはぼくが泣いてるときぜんぶぼくが産まれたと思ってほしい

牙じゃない歯ってもうぜんぶ牙になれなかったんだと思ってた だよ

新幹線はやいはやいちょっと飛んでるんじゃないか飛んでいてほしくすらある

屋上で肺を乾かす たまになら長生きしてもいいかもしれない


●今井心「まず腕がカステラに行く」

まず腕がカステラに行く
今井心

いろいろなやることをノートに円で大きく書いてやれる気になる

まず腕がカステラに行くと同時に牛乳がバーンよろけただけで

一撫で、ぬぐわれたときの力を思い出しているとねむい……

ちょっと寝た 暑すぎる日の夕方のコンビニの真明るさ見に行きたい

硬そうな虫が電気を叩いてる うわーっ 中に入ったからほっとこう

サックスを練習するおじさんってさ橋のたもとはよく響くから?

17時59分金髪の女子もすずめばちも帰るよね

布の帽子でパピコをくるむ「あちあち」の反対語ってなんだと思う

そうめんのピンクと緑だけのやつ売ったら売れそう 逆に嫌かも

白い花ばかりが咲いていてここを切り取ればシーン、きっといいシーン


●福山ろか「花の下」

花の下
福山ろか

面として桜は花を中空に広げおり身を差し込むごとく

それぞれの領域持てる菜の花と桜の混ざるひとところあり

一枚のアルバムを聞きながらゆく桜並木のけぶれるなかを

やわき陽にやわらかに照る花びらの心象となりゆくこの春よ

花の下はなだるる花の裏にしてうつくしきなかを匿われたし

ゆたかなる花の密度をなす枝のおおきく午後の風に揺れおり

夕映えのさなかのカウンター席で食べている桜のドーナッツ

川の面に遅速のあるを見せながら花は流れる真鯉の上を

川沿いに続く桜のいったいのうすずみいろに昏れていたりき


●魚石ひかり「もも」

もも
魚石ひかり

この町にパイプオルガンなくたってはかどるはかどるスキップはかどる

吐いた息ぜったいもっかい吸ってるしわたしが永久機関・・・でした

よくみたらピンクの汗が流れててカバだってこと隠してるでしょ?

心地いい風と会話とラジオから更新された門松のこと

会いたくてメガネの三城をめざすのに途方がないね途方がないね

ぐるぐるまわる ぐるぐるまわる ぐるぐる君のまわりまわる 目が合う?

あなたには届かないけど手のひらの女の子たちずっと踊ってて

夏だからみどりちゃんって呼ばれたい気がしてひかるわたしの犬歯

さつまいもも味噌汁に合うんだよね、もも、なんでもできる気がするよ

遅刻しそうだけどたぶん2時間前には犬が散歩してた道、走る


●~1000「限定された遊びの中で」

限定された遊びの中で
~1000

犬っぽい猫の画像を学ばせて壊れてしまう犬の性癖

性欲がネパールになる条件を、俺があなたにあなたが俺に

マラソンを完走したら5分後の会議に遅刻して怒られる

港区の高級なスーツの下で射精しながらお寿司を奢る

月光がすべての明かりのこの部屋で俺と知らない人が並んだ

レインボーロードを歩く もしここでこけたら死ぬって信じられない

テトリスの埋め立て地から歩き出す俺の言葉は戦力外だ

健康に深刻な影響のある酒もタバコもあなたが悪い

尿道を太らせてから人生は限定された遊びの中で

俺だけがこれは映画と知っているたけし映画に一人のたけし


●城下シロソウスキー「ジャンボあらき」

ジャンボあらき
城下シロソウスキー

帰省した地元のホームセンターに地元じゃないあなたを連れていく

店先のこども縁日 店先のビニールプールにスーパーボール

バーベキュー用具特設コーナーの内容に地域性を見いだす

適当な紙皿にする 紙皿の柄が良くないこと気にしつつ

手花火がセール価格になっていて終わりをいつも意識している

ピーマンと甘長とうがらしの違いググる産直野菜売り場で

夕立がエクステリアを濡らしてく 今夜は花火大会がある

駐輪場あたりのフードトラックがたこ焼きを売るのも盆らしさ

涼しくはあまりならない暮れ方に晴雨兼用傘差すふたり

今晩の花火大会決行がエコーしている盆地をゆくよ


●あかみ「夏の片隅」

夏の片隅
あかみ

イヤホンを外して雨が降っていることに気付いてイヤホンをした

ガラス戸にぶつかってくる羽虫たち見ているTVショーの代わりに

花火大会のせいで遅れている電車に乗っている人を待っている

水道水飲めないでしょう と言われても飲もうと思ったことがなかった

一瞬で伸びるなら髪伸ばすのにって夏の間に何度か思う

ほんとうのことのすべてを言えるときわたしじゃなくてあなたのせいだ

運転をすればどこまでいけるだろうETCで減速をして

砂テトリスがなにか知らない 川沿いの道をひたすら歩いて帰る

桃を剥く あなたのことを考える 桃の手触りの頬だった


●瀬斗みゆき「スピニング」

スピニング
瀬斗みゆき

登山家のおんなじような服装がいくつも並ぶ行きの電車は

売り上げは一部寄付され素晴らしいバーガーひとつ手元に残る

平日の歩き慣れない悪路にはちゃんと定休日の町中華

恋愛をゲームみたいに語りつつ砂糖を順調に溶かしている

陸橋の輪郭は冴え渡りつつその下にいくつかの往来

茜さす市役所にただ辿り着く地下の通路を使いこなして

遅咲きの才能だろう 飛び石の用途のなさを目で追っている

バス停で降りても少し歩くから長い両手をうまくたたんだ

ジャムだとは明記されないデザインにBLUE BERRYは凛としている

遠吠えがほんとに響いている夜に自転車は無灯火で過ぎ去って


●森屋たもん「Drop in」

Drop in
森屋たもん

スウェードの靴がデッキと摩擦してその加減から生まれるぜんぶ

つま先で弾いた板が回転しまた戻ってくる命のように

ウィールのノイズが消えてまた現れる一瞬に決まるトリック

学校に来てない奴からサブロクをメイクしている動画が届く

左足だけボロボロのスケシューを体育教師に心配された

公園の""NO SKATE""の看板に青いスケーター棒人間の

どこまでも行けるタイプの乗り物じゃ無いからこの板は空を翔ぶ

飛び降りるのに最適な階段を飛ぶ前セキュリティと目が合った

キックアウトされてるあいだキングピンが折れたかどうか気になっていた

遭うはずじゃ無かった人とするはずじゃなかったSKATEゲームが始まる


●ポメラニスト駿「毒猫」

毒猫
ポメラニスト駿

猫は人をデカい猫だと思ってる という嘘から順に話した

電車の中に踊る男児がいたことを一週間は覚えているだろう

いつまでも映画の中のセックスに慣れない タイで買ったポテトチップス

アヘンを吸う男。猫も中毒になっている。撮影者はイギリスから来ていた。

炭を使って歯を白くしようなんて、人間は不思議な生き物ね

鹿威しをよく見ているとかわいくてよく見ていないと菖蒲の蒼よ

水として生まれたわたし水よりも早く干上がる〈展示室A〉

スカートめくりに振り上げた手が月面に届くまでその歪むささくれ

流れ変わったな実家に帰るたびにアクリルスタンドが増えている

飼い猫のどんな悪さもすばらしい宇多田ヒカルのシャッフル再生


●神乃「パラレルお盆」

パラレルお盆
神乃

茹でてから多いと気づくそうめんを冷やして一人の夏が始まる

僕は僕の髪の長さに驚いた。小説だったら床屋へ行った。

百円のトマト食べ食べ楽園は〝もう戻れない〟の部分が光る

積乱雲 僕が洗うまでキッチンに積み重なってく僕の痕跡

夏風邪を馬鹿だからひく ばあちゃんのできない大学進学をして

幼少期の記憶をなぞると体液が溢れて海になりたがってる

枇杷のこと静かに聞けばばぁちゃんのいない実家に天使が通る

親戚の冗談まみれの仏間からパラレルお盆の僕が睨んだ

あの家を実家と呼べば交通費分の遠さにデフォルメされる

大学の誰も知らない記憶からポカリは神輿のおわりの匂い

贖罪のようにお皿を洗ったら明日の僕をシャワーで洗う

フィクションの雨にしかない光り方寝ても覚めても冷めかけの熱


●大月陽「パレード」

パレード
大月陽

ふつうの同級生とふつうの同級生がふつうに結婚までしていました

蝉が鳴いてる いい歳になって格好がいいなんてなんだかみっともないな

バーバーポールがとまるのが朝まわるのが昼とまるのが夜 でっかい月

今日はもう何もできませんでしたけど成長しすぎたオクラを食べます

スウェーデンで見つけたホーロー 追うべきはデンマーク製という可能性

運動場の間伐されない木とともに幼稚園の屋根が高くなってます

ぼうしのツバとメガネのフレーム重ならず歩くわたしもめまいしてたい

濡れた熊、階段から突き落とすと言ってる女の子がいて好きです

ルバーブ風ドレスの揺れる店の隣りに新しい喫茶店できました

となり車線もとなりの家のひとたちも気にならなくなって来ました夏には


●山川築「倫理」

倫理
山川築

人形に瓦斯の眠りを与へにし管錆び果ててさびしき自賛

抽象絵画銃もて描かれ羽根のなき鳩に擾乱主義者騙さる

衰微せし菊を兵器となさむ力なまなまと満ち社張り詰む

記憶違ひ増ゆ 資料室卓上に雑種鼈擬串刺し

溜池にずたずたの作業着しづみらうたし漆しづかに熟し

永世中立国旧市街燦燦と大雪降りしのち霾れり

咎なくて野鼠怯ゆ刃のごとき陽光に呵呵大笑の山

核をはぐらかす妙技を刻まれて脳を失ふまで墓太る

倫理の鐘は鳴りてやさしき蜩と和す(抵抗せよ)狂ふ夕星

泥濘に薪を拾ふ果報あれ天地の耳の重なれるころ


●景川神威「暗唱」

暗唱
景川神威

またはがきを裏に返した ピーナツを一粒なくしあきらめている

料理してもらってるときも横にいてお酒飲んだり暑がられたり

ほろよいを半分ついで渡される花見で余った紙のコップに

友達の引用してくるココ・シャネル聞きたいな皿洗いを買ってでる

すこしだけ喧嘩になった 引越してから歯医者には行ってない話で

麻雀は二人でできて思ったより電車がうるさい 途中でやめる

夜も夜 円周率の暗唱が裏声になるまでつきあった

番組の名前変わったんだ、と言うと一瞬囲碁とかうつって消える

ゴミぶくろ渡されながら踵まで履く 駅までは一人でいける

あ、遠くなると思えばだんだんと「銀の龍の背に乗って」の音漏れ


●小林淳平「夏の11首」

夏の11首
小林淳平

コーヒーが好きな友達が挽きたてのコーヒー豆で淹れるコーヒー

エアコンの温度を24度から25度に上げたら暑くなる

飲料の引換券がついている 期限が切れたレシート捨てる

コンビニでこの前買ったコーヒーが自販機にも置いてあって買った

手紙ではないと言い張る 真夜中の階段多い 手紙ではない

おくだけでいいのにおくのがだるくっておかないブルーレットおくだけ

ワイヤレスイヤホンを落としてからはワイヤーイヤホンを使っている

なんでまたコーヒーフロート飲んだあとホットコーヒー飲んでるのやろ

銭湯のサウナのテレビで流れてる古畑任三郎 サウナ出る

コンビニで買ったおでんが空を舞う 空を見ながらおでんを食べる

満席の批評会で色とりどりのペットボトルが机に並ぶ


●劣勢スカイベリー「故郷で」

故郷で
劣勢スカイベリー

思い出がきゅるきゅるしだす風格が出る前のMISIA好きだったなあ

エアコンを使わない日が尊くて四季は収束していく気配

馴れ合いも盆地のぬるい風すらも懐かしくなるから不思議だわ

あごの肉シュッとさせたい暑いなら暑いでその分もとは取りたい

久々に会った友達スピっていて敬語交じりで喋っちゃったな

バレーボール蹴ればバレー部が怒る大事なものはそれぞれ違う

近況を聞かれたときに歯切れ良く答える用の近況がある

走っても間に合わないと決めつけた昔だったら走る場面で

夏雲の「大義は我にあり」感が嫌いで好きでしばらく見ていた

日の入りを待ち焦がれている交差点バキ童チャンネル聞きつつ渡る


●髙良真実「家督」

家督
髙良真実

弟のみどりごのころ寝返りをうち得ず首を横にふるばかり

吊橋の効果は架橋するにありおまけにクワガタムシのつがひは

呼び出しボタンで呼び出されたる側となり呼び出されたり北の果てまで

ろくでなしの染色体が我が肉のすきまを巡る血をつくりゐる

家鳴りす さういふ将軍もありにけり 十一代徳川家斉よ

君が代を歌ひはじめて四代目くらゐの島にしばし帰るも

海ゆかば ことに沖縄の海ゆかば日焼け止めを塗り忘れずにゆけ

コロンブス以後の世界に田舎まで唐辛子来てシシトウ辛し

どらごんのうろこのごとき霧雨を傘に受けつつ肉買ひにゆく

おもひのほかお金はちから ちから欲し 県外資本を見分けて買はず


●遠野瑞希「夏の手」

夏の手
遠野瑞希

電波塔が暮らしの眺めにあることのさびしくなりきれないわたしたち

千年の約束 じゃないね 夏はこの褪せたサンダルでいくと決めたって

ダサい柄シャツ だけどこれは去年の夏のわたしがぐっときていたはずの

ベランダに並んで黙って吸うたばこそれぞれべつのことを考えて

なにひとつ持たずいるだけなにをかは知らんけれども記念公園

アルバムのジャケットみたく撮れたってはしゃぐきみを放って帰りたい

居酒屋の向かいの居酒屋の開店の花が視界でずっとうるさい

きみにある教祖の才能 でかい月だったから月の言語で喋った

いつか手にふれる口実にした夏に生まれたのに手が冷たいことを

真顔でも表情でもない横顔のきみが立つ曇天の交差点

窓辺には下着が揺れてる 方言をうつしあうたび天国が近づく


●井口可奈「エジソンがわかる」

エジソンがわかる
井口可奈

ながれない川にみえるよこの川は ビートルズの半被がうすすぎる

背の高いひとが好きだとおもってた 衛星予備校やめちゃった 薔薇

ちいさくて転がっていくわたしから聞いたことない名詞おそわる

クロックス履いたこどもの腸捻転すべてあなたが悪いと思う

柔道をわたしはしないめくれてる服がめくれおわるまで待ってる

先日はありがとうございました。飴が落ちてる。She was beautiful.

シンガーソングライター とうとい季節 しゃがんで我慢していたころの

ちょっと待っててって言われてちょっと待つ エジソンが来て、わたし、エジソンがわかる

ハーフタイムにやすんでる選手たちスポーツのジュース飲んでていいな

夏の海まで誘拐をされている マクドナルドのMがあかるい


●柊木快維「サマー・テクスチャ」

サマー・テクスチャ
柊木快維

はつなつの否定神学さようなら 僕らハシビロコウを見ていた

おとうとが産まれるまでの[DSでアダルトビデオ観るような]ラグ

霊感がある友達の財布からきれいに折りたたまれた新札

一歩先をつねに歩いている僕に追いつくような散歩がつづく

玄関の覗き穴から犯される世界をずっと見ていたはずだ

トランプが安倍晋三を思い出すほどの頻度でパフェを食べてる

しりとりにクリアはないね 雪国の生まれとわかるあなたの名前

少々の金を返して人類の最大の発明はなんだろう

ふたりの歩幅と使う言葉の規模感が噛みあってきている汽水域

あかるい午後にブロッコリーを茹でている 抒情を終えてからというもの

一人称と三人称の裂け目には畳で昼寝する女の子

あらかじめ夏の終わりに立っている扉、あなたの比喩ではなくて

ぼてぼての自転車漕いで堤防沿い朝焼けに追いつかれるまでを


●西藤定「ゴースト」

ゴースト
西藤定

美容師が椅子の高さを調節しそのうえ足首を曲げ伸ばす

海沿いの白壁が白く保たれる風土が写真からわかること

ここにいる皆の名前を並び替え文を作れる人 余ったみ

「打鍵音うるさかったらごめんって文字で言う人は初めて見た」

サッカーに似てサッカーでない球技地上に幾万とあったころ

意図しないきのこが敷地の西の角まだ十日ほど栄えていそう

包装にsince自分の生年があって嬉しい 地下街の泥

母が昔アコギを弾いていたわけを母が半分話してくれる

日光を浴びる時間が長いほどわたしの迷信は歓んだ

浴びている正気のようなそよ風だ冷蔵庫の扉に手をかけたまま


●齋藤真琴「オープンスペース」

オープンスペース
齋藤真琴

適当に羽織る感じがかっこいいジャケットの感じを真似てみる

公園ではしゃぐ子供のおそらくは近場にある家の暮らし向き

配管が露出している天井のスーパーマーケットで水も買う

奥行きのある空間にインテリアを配置する想像が行き渡る

空想の都市を発展させたのち満足して更地に戻した

鳥の声 吹き抜けをふと見上げると視線は天窓にぶち当たる

見晴らしのいい場所にある病院に入院する想像はしてしまう

ピロティでどうしていいかわからない 空間と風 騙されている

規則正しく影を落とした建物の涼しさに心は傾いて

サイダーの甘ったるさも炭酸の刺激も初めから知っていた


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