「夏の畳と短歌賞」各賞受賞作品
2024年7月25日から同年8月18日までの募集期間を設け開催した「夏の畳と短歌賞」について、阿波野巧也、長谷川麟、平出奔の三名による厳正な選考の結果、同年8月27日に受賞作品を以下のように決定いたしました。
●大賞:井口可奈 「エジソンがわかる」
●次席:遠野瑞希 「夏の手」
選考委員個人賞
●阿波野巧也賞:~1000 「限定された遊びの中で」
●長谷川麟賞:西藤定「ゴースト」
● 平出奔賞:神乃「パラレルお盆」
本ページにて各賞受賞作品を公開いたします。
選考会の文字起こしも近日中に公開予定です。また、その際に一次予選を通過した全22作品(各賞受賞作品含む)を改めて公開いたします。
●大賞受賞作
![](https://assets.st-note.com/img/1724927298590-efqcH2tBxX.jpg?width=1200)
エジソンがわかる
井口可奈
ながれない川にみえるよこの川は ビートルズの半被がうすすぎる
背の高いひとが好きだとおもってた 衛星予備校やめちゃった 薔薇
ちいさくて転がっていくわたしから聞いたことない名詞おそわる
クロックス履いたこどもの腸捻転すべてあなたが悪いと思う
柔道をわたしはしないめくれてる服がめくれおわるまで待ってる
先日はありがとうございました。飴が落ちてる。She was beautiful.
シンガーソングライター とうとい季節 しゃがんで我慢していたころの
ちょっと待っててって言われてちょっと待つ エジソンが来て、わたし、エジソンがわかる
ハーフタイムにやすんでる選手たちスポーツのジュース飲んでていいな
夏の海まで誘拐をされている マクドナルドのMがあかるい
●次席
![](https://assets.st-note.com/img/1724928421333-EUb0MDb7Ym.jpg?width=1200)
夏の手
遠野瑞希
電波塔が暮らしの眺めにあることのさびしくなりきれないわたしたち
千年の約束 じゃないね 夏はこの褪せたサンダルでいくと決めたって
ダサい柄シャツ だけどこれは去年の夏のわたしがぐっときていたはずの
ベランダに並んで黙って吸うたばこそれぞれべつのことを考えて
なにひとつ持たずいるだけなにをかは知らんけれども記念公園
アルバムのジャケットみたく撮れたってはしゃぐきみを放って帰りたい
居酒屋の向かいの居酒屋の開店の花が視界でずっとうるさい
きみにある教祖の才能 でかい月だったから月の言語で喋った
いつか手にふれる口実にした夏に生まれたのに手が冷たいことを
真顔でも表情でもない横顔のきみが立つ曇天の交差点
窓辺には下着が揺れてる 方言をうつしあうたび天国が近づく
●阿波野巧也賞受賞作
![](https://assets.st-note.com/img/1724928712666-d18BRyPDwK.jpg?width=1200)
限定された遊びの中で
~1000
犬っぽい猫の画像を学ばせて壊れてしまう犬の性癖
性欲がネパールになる条件を、俺があなたにあなたが俺に
マラソンを完走したら5分後の会議に遅刻して怒られる
港区の高級なスーツの下で射精しながらお寿司を奢る
月光がすべての明かりのこの部屋で俺と知らない人が並んだ
レインボーロードを歩く もしここでこけたら死ぬって信じられない
テトリスの埋め立て地から歩き出す俺の言葉は戦力外だ
健康に深刻な影響のある酒もタバコもあなたが悪い
尿道を太らせてから人生は限定された遊びの中で
俺だけがこれは映画と知っているたけし映画に一人のたけし
●長谷川麟賞受賞作
![](https://assets.st-note.com/img/1724929008755-sk25OBtZMO.jpg?width=1200)
ゴースト
西藤定
美容師が椅子の高さを調節しそのうえ足首を曲げ伸ばす
海沿いの白壁が白く保たれる風土が写真からわかること
ここにいる皆の名前を並び替え文を作れる人 余ったみ
「打鍵音うるさかったらごめんって文字で言う人は初めて見た」
サッカーに似てサッカーでない球技地上に幾万とあったころ
意図しないきのこが敷地の西の角まだ十日ほど栄えていそう
包装にsince自分の生年があって嬉しい 地下街の泥
母が昔アコギを弾いていたわけを母が半分話してくれる
日光を浴びる時間が長いほどわたしの迷信は歓んだ
浴びている正気のようなそよ風だ冷蔵庫の扉に手をかけたまま
●平出奔賞受賞作
![](https://assets.st-note.com/img/1724929159994-wOhJLW5lD4.jpg?width=1200)
パラレルお盆
神乃
茹でてから多いと気づくそうめんを冷やして一人の夏が始まる
僕は僕の髪の長さに驚いた。小説だったら床屋へ行った。
百円のトマト食べ食べ楽園は〝もう戻れない〟の部分が光る
積乱雲 僕が洗うまでキッチンに積み重なってく僕の痕跡
夏風邪を馬鹿だからひく ばあちゃんのできない大学進学をして
幼少期の記憶をなぞると体液が溢れて海になりたがってる
枇杷のこと静かに聞けばばぁちゃんのいない実家に天使が通る
親戚の冗談まみれの仏間からパラレルお盆の僕が睨んだ
あの家を実家と呼べば交通費分の遠さにデフォルメされる
大学の誰も知らない記憶からポカリは神輿のおわりの匂い
贖罪のようにお皿を洗ったら明日の僕をシャワーで洗う
フィクションの雨にしかない光り方寝ても覚めても冷めかけの熱