2024夏一首評20

いつまでも甘い埃の降ってくる二段ベッドは燃やさなくては
/丸山るい「顔」

「文學界」2024年9月

 いっかいものすごく素直になってみる、というところに立ち返る、から始めるんですけど、この歌を「やりすぎでしょ(笑)」的に読むことはできるんですよね。埃が積もっててそれが降ってくる二段ベッドを「燃やさなくては」って言ってるっていう。「掃除すればよくないスか?(笑)」とかね、そういう態度になることは可能と言えば可能だと思う。

 まあ、でもそうは読まないですよねこの歌、っていう話になります。なんででしょうね。
 まず「甘い埃」というのが不思議ですね。味じゃなくて雰囲気とかそういうものの形容だろうと思うんですが、ちょっと景としての想像をつけにくい、むずかしい表現ですよね。さっき掃除とか言いましたけど、掃除で除去できる僕らのよく知る埃というものと少し別次元のものであるような感じがしてきます。「いつまでも」というのも、そうなってくるとちょっと、スケール感が変わってくる気がしますね。

 こういった表現の一部分からはじまる連想が、やがて、最初に言ったような「(笑)」的な態度で読まれる可能性をこの歌から除いていっているんじゃないかと思います。おもしろいですね。短歌を読んでいるとこういうことがあっておもしろいんです。

「燃やさなくては」を告げるこのひとの表情が、真顔、なようで、真顔かどうかさえよくわからない……。と、こちらの表情も、なんか、わからなくなってくる。自分の表情なのにね。そういうことが起きる、歌でした。

カーテンは内から内へとじられて母がわたしの顔へ似てゆく
/丸山るい「顔」

「文學界」2024年9月

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