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不妊治療の苦しみと選択肢の拡張

子どもがほしくても産めない――。そんな悩みを抱えている人が沢山いることは、なかなか意識されていないように思います。

国立社会保障・人口問題研究所の調査(2015年)によると、不妊治療の経験があるカップルは5.5組に1組とのこと。そうなると、職場にひとりはこうした苦しみを抱えている人がいそうです。

最近では社会的な問題として取り上げられるようになり、2022年4月からは不妊治療が保険適用の対象となることが決まりました。

(👆不妊治療の保険適用について。出典として厚労省の資料リンクが貼られていて、内容もわかりやすかったです。)

今回はそんな不妊治療を糸口に、わたしの聞いた印象的なエピソードについて書きたいと思います。

子育ての話に傷つく人もいる

不妊治療は、子どもがほしいと考えている人ならば、誰もが当事者になりうるとても身近な問題。不妊治療を理由に離職したり、うつ状態になったりという話も見聞きするので、当事者じゃない人にとっても決して関係のない話ではありません。

不妊治療を受けている人の状況について知る人が増えれば不用意に傷つく人を減らせるかなと思っているので、参考になる記事を貼っておきます。

マダネが昨秋、女性約200人(平均年齢43歳)に実施した調査では「子どもがいないことで職場で嫌な思いをした経験がある」のは75%で、職場に意見や不満を伝えたことがあるのは9.9%。誰の言葉で傷ついたかは「女性の同僚」が41%と最多だった。

香山さんは「子どもがおらず、常に疎外感を抱いている人は、周囲に悪意がなくても『あんなに子育ての話ばかりして当て付けなのかな』と受け取ってしまう。その蓄積が心の傷になる」と解説する。

松本:もちろん、関係性やその人の性格にもよるのですが、子どもの自慢話や逆に子育ての愚痴は、あまりにも続くと「聞くのがつらい」という方が多いですね。たしかに子育ては大変だろうと想像はできるのですが、お子さんがいるだけでいいなと思ってしまうから、子育ての愚痴には治療中の女性は共感しづらいケースが多いんですよね。

二人目不妊はそれもまた深刻で辛い。さらに二人目不妊の方のほうが余計に周囲に話しづらいということもあります。かといって、一人子どもを授かっているので、一人目不妊の人にも相談しづらい。だから孤独になりがちなんです。

※わたし個人としては未婚かつ不妊治療の経験はありません。

できると思われていることができない苦しみ

わたしは前職で、不妊治療に励む人のブログを読んだり、直接話を聞いたりする機会があり、はじめてその苦しみを知りました。

わたし自身は今のところ子どもがほしい、子育てしたいと思ったことはないので、子どもがほしい人の気持ちに完全に共感できるわけではありません。

でも、「自分がどうにもできないことで、やりたいことが実現できない」「他の人があたり前のようにできていることができない」、そんな現実を日々突きつけられる苦しみは分かります。

そんな悩みを抱えて自分を嫌いになってしまったり、自分を責めてしまったりする人が、こんなにたくさんいるんだと思うと胸が締め付けられます……。

選択肢の拡張

そんな不妊治療に苦しみを感じている人の選択肢としては、子どもを産むか産まないか以外にも、里親や特別養子縁組というものがあります。

そうじゃなくて、自分と血のつながった子どもがほしい。自分で子どもを産みたい。そう思っている人も多いかもしれません。

もう何年か前ですが、トークイベントで、特別養子縁組で子どもを授かったお母様の話を聞いたことがありました。そのお母様も以前は、「自分は血のつながった子どもがほしいし、まだ若いほうだし、特別養子縁組は自分には関係ないだろう」と思っていたそうです。

でも結果的に、特別養子縁組をされました。

また、わたしが過去にお話を伺った親御さんの中には、特別養子縁組や里親について調べる中で、自分の子育てに対する考えを見つめ直せた、という方もいらっしゃいました。

夢をきっかけにたどり着いた特別養子縁組

そんなわけで今回は、子どもを「育てる」選択肢のうち、特別養子縁組をしたお母様の話をお伝えしたいと思います。

※特別養子縁組をおすすめすることが目的の投稿ではありません。

そのお母様は、以前は、血のつながった子どもがほしいと思っていた女性です。

彼女が特別養子縁組や里親などの制度について調べはじめたきっかけは、ある夢をみたことだったといいます。その夢をきっかけに調べごとをはじめ、自分の気持ちを見つめ直した結果、特別養子縁組にたどり着いたそうです。

一体、どんな夢を見たの?という点が気になると思いますが、肝心なところがわたしの記録からも記憶からも抜け落ちていましたので省きます、すみません。

その後、彼女は児童相談所(行政)と養子縁組マッチングを行うNPO(民間)に、養親候補者として登録されました。そして、児童相談所経由で乳児院で暮らしていた2歳の女の子を授かることになりました。

※特別養子縁組をおこなう機関としては、行政がやっている児童相談所と、民間の団体と大きく2種類の機関があります。

(👆特別養子縁組についての概要やFAQ、民間機関の紹介などわかりやすくまとまっています。)

念願の子育て、でもうつ状態に

娘となる子どもにはじめて出会ったときには、「自分を信じてよかった」と思ったそうです。

ただ、その女の子はずっと乳児院で暮らしてきて一人きりになったことがなかったので、最初はトイレまで一緒についてきて大変だったといいます。

心から望んでいたはずの子どもとの生活でしたが、ずーっとつきっきりで子育てをするなかで、お母様は一時期うつ状態になり、身体が動かなくなったこともあったそう。

それを機に、さまざまなカウンセリングに通い、自分と向き合った結果、いまは家族3人でたのしく暮らしているとお話されていました。

自分と子どもの苦しみを正直に受け止める

お母様のお話の中で感銘を受けたピソードがあります。こんなお話です。

娘は生まれてすぐ乳児院に入ったので、生みの母の記憶はないはずだけれど、何かあると「生んでくれたお母さんがいいって言ってた」「生んでくれたお母さんがどこどこに連れて行ってくれた」という話をするんです。だから、「そうなんだね」と言って受け止めるようにしています。

お母様の心境を思うと、心に痛みを感じます。

でも、お母様は、「娘にとって、生みの母親との関係は大人になっても抱え続けていかなければならない課題であるからこそ、そのことに寄り添っていきたい」と仰っていました。できることなら、生みのお母さんとの関係も大事にしたかったとも。

一方で、自分が(お子さんとなった)娘を産めなかったという苦しみを抱えていることを隠さず、「わたしが◯◯ちゃんを産みたかった」と率直に伝えているとも仰っていました。

わたしは、この話を聞いたときに、お母様の深い愛情を感じるとともに、すごいバランス感覚だと感動したのを覚えています。

葛藤を生むような子どもの言葉や自分の感情を否定することなく、自分の抱えている苦しみと子どもの抱えている苦しみに寄り添い、愛を伝えつづける。苦しいことかもしれないけれど、素敵な親子関係だなと思いました。

みんながみんなハッピーなわけではない

もちろん、特別養子縁組をすれば幸せになれるというわけではありません。わたしが知っているエピソードは、あくまでも「特別養子縁組や里親をした体験を人に発信したい」と思える人の話です。

なので他人に言いたくない記憶を抱えている人もいらっしゃると思います。

里親や特別養子縁組など、社会全体で子育てをする制度のことを「社会的養育」と言いますが、そうした環境で育つ子どもは、幼少期に親との離別を経験しているので心に傷をおっていることが大半です。ネグレクトを含む虐待を受けていた経験がある子どもも少なくありません。

ケース・バイ・ケースであることが前提ですが、そうした子どもを育てることは決して容易ではないという話も聞きます。

だから「子育てをしたいなら、特別養子縁組をすればいいじゃん」なんて無責任に言うことはできません。

はやくに選択肢を知っておくだけでも

一方で、不妊治療をしたからといって必ずしも子どもを授かるとは限らないという厳しい現実もあります。

そして、特別養子縁組登録をしても子どもを授かるとは限りません。児童相談所にも民間縁組団体にも登録者はたくさんいるものの、実際に子どもを授かる人の数は決して多くないのが現状です。

だからこそ、「子育てをしたい」という方は、早いうちに多くの選択肢を知っておいたほうが、あとから後悔することが少なくなるのではないかと思いました。

何か解決策があるわけではないですが、たとえ子どもができなくても、妊娠・出産・子育てをめぐって、自分を嫌いになったり、責めたりすることがないといいなと願っています。


※この投稿は、わたしが数年前に参加した特別養子縁組をしたお母様がゲストのトークイベントで聞いたお話の記録をもとに書いています。ただ、そのトークイベントのタイトルなども忘れてしまっており、お伝えができないことをご容赦くださいmm


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