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高校入試問題の攻略(数学)
大げさなタイトルをつけてしまったけれど、たまには受験に特化した話を。
横浜翠嵐高校を本気で目指す生徒をどう伸ばすか、という話をしていて、おもしろかったので記事化。
合格実績を正義とする教育からは身を引いたものの、学習塾を名乗る以上、「どうすれば入試で高得点が取れるのか」が語れるのは当たり前のことでもある。
また、入試問題を戦略的に(やみくもに大量の過去問を解いたりするのではなく)クリアしていく過程には、本来の意味での「学力」が伸ばせる部分もあると感じていて、これはこれでなかなかおもしろい。
まず必要なのは、要素分解
足を速くしたいアスリートに、「とにかくたくさん走れ!」というトレーナーはいないだろうと思う(知らないけど)。
早く走るためのフォーム、筋力などの要素を分解して、足りないところを補うようなトレーニングをさせるものだと想像する(知らないけど)。
しかし、こと入試になると、「関数の問題が解けなかった」という生徒に「じゃあ関数の問題をたくさん解け!」という指導がまかり通っていたりする。親子関係ならそれでもいいと思うけど、プロとしては恥ずかしい。
入試問題を解くプロセスをひもとく
10段階のプロセス
問題の性質などによって異なるが、入試問題(数学)を解くときの思考・作業手順は以下10段階が想定される。
①読解
②整理
③反射
④仮説
⑤検証
⑥想起
⑦見通し
⑧判断
⑨作業
⑩検証
この段階は、必ずしも全て使うわけではないし、順番が逆転したり同時進行で進んだり、まあ、場合による。
たとえば、③からすぐ⑨へ飛ぶこともあるし、難問では④⑤⑥⑦が複合的に行われたりする。
①読解
問われていることを正しく理解する。
読み飛ばさないことだけでなく、読解スキルの中でも「係り受け解析」「具体例同定」「イメージ同定」あたりの能力が関係する。
②整理
情報整理。必要な情報の取捨選択や可視化など。整理する手段を持っているかどうか、およびメタ認知能力が関係する。
③反射
出題パターンに対して、「こういう問題てはまずこれを調べる」「とりあえずこれを書き出す」など、まずやるべき1手目を持っていて、反射的に実行できること。
④仮説
特に図形問題について、「この2直線が平行なのでは?」「この部分が二等辺三角形だったら解きやすいな」等の仮説を立てる力。やみくもな仮説ではなく、問題を解くための適切な仮説であるための逆算力も問われる。神奈川県公立入試の数学の図が常に正確なのは、仮説力を重要視しているから(だと思ってる)。
⑤検証
立てた仮説を検証する力。「この仮説が正しければ、ここがこうなっているはず」という因果関係の検証。ただし入試においては、「この仮説は正しいことにして解き進める」という判断が有効な場合もある。
仮説と検証の流れについて、経験の浅い数学の先生は「これがこうなっているのに気づけ!」という無茶な指導そする傾向がある。
⑥想起
使えそうな解法・公式などを脳内に列挙する。多くの応用問題は、このプロセスを避けては通れない。様々な解法・公式が、脳内でネットワークを構築しているかどうかが問われる。
⑦見通し
想起した解法について、どの解法を使うと(どの解法をどう組み合わせると)どのような手順になるのか、最後まで手順を見通し、比較する。ワーキングメモリの容量が大きく影響する。
⑧判断
⑦の見通しをもとに、最適なルートを判断する。ただし、「この問題はとばす」「近似値的な解法に切り替える」といった判断も含まれる。
⑨作業
とにかく、ミスなく答えを出し切ること。計算力やスピード、途中式のレイアウト、描画力、メタ認知、ワーキングメモリ等。
⑩検証
出した答えが適切かどうかの検証。検証する手段を豊富に持っているかどうかなので、完全に「技術」の領域。
10段階を生徒の中にどう育てるか
1.過不足なく授業に組み込む
導入時に組み込む、過去問演習時に組み込むなど、適したタイミングはバラバラ。まずは全ての要素を最低いちど伝える。
2.生徒個々の特性を分析する
模試の答案分析や、演習時間にじっくり観察するなどして、その生徒に何ができていないのか分析する。
3苦手な要素を抽出し、練習する
「読解と整理の練習」「仮説・検証・想起の練習」など、必要な部分だけを抽出して効率良く練習をする。
4.個々の能力差に対応する
上に挙げた「メタ認知」「ワーキングメモリ」あたりは、得点力を支える重要な能力であると同時に、短期ではなかなか伸ばしにくい部分でもある。
〈メタ認知〉
メタ認知は「メタ認知的知識」と「メタ認知的活動」に分類される。前者は知識なので容易に伝えることができるが、後者が難しい。自己調整学習方略などをリスト化し、活用を促す。
〈ワーキングメモリ〉
1年しかないなら、伸ばすのはあきらめる。
・メモリを開放するため、ストレス管理やタスク管理に力を入れる。
・メモリ不足を補ことをう目的にした「メモ」「線引き」「描画」等の技術を高める。
以上、これを各科目でやれば、翠嵐でも日比谷でも受かる!
教育関係者の皆さま、いかがでしょうか。