今日のブルース⑨テキサス・アレクサンダー「のぼる太陽」
オレの女はのぼる太陽みたいなもんを持っている
オレの女はのぼる太陽みたいなもんを持っている
いつそんな細工がされたのか、だれにもわからねえ
日が長くなっていくのをくよくよしたってしょうがねえ
日が長くなっていくのをくよくよしたってしょうがねえ
転がっていくものは転がっていくんだからしょうがねえ
女はなにやら丸いものを持っている。まるで蝙蝠みたいな
女はなにやら丸いものを持っている。まるで蝙蝠みたいな
ときどき思うんだ、「いったい何じゃこりゃ」ってな
テキサス・アレクサンダーはその名の通り、テキサスのブルース・マン。楽器は弾けないが、その深い声と独特の言葉選びで、人気があり、当時、ブラインド・レモン・ジェファソンに次いでレコードが売れた。楽器が弾けない本人の代わりに伴奏をつとめるのは、ロニー・ジョンソン、キング・オリヴァー、エディ・ラング、ミシシッピ・シークスといった当時の凄腕ミュージシャン(この曲では、「歯痛のブルース」でも登場したロニー・ジョンソン)で、表現力はあるが、決して流麗とは言えないアレクサンダーの歌と好対照を見せている。錚々たる面々が伴奏を買って出たのも、アレクサンダーの独特の歌世界に敬意を寄せていたからこそだろう。
さて、そんなアレキサンダーが歌うブルースに特徴的なのは、女性に対する恐怖や嫌悪である。他のブルース・マンも「悪い女」に毒づくことはある。騙されたとか、裏切られたとか言って、女に対する愚痴をこぼす。男にとってブルースはそのためにあるようなものだ。一方、アレクサンダーの恐怖はもっと根源的なもので、この歌(タイトルを"The House of Rising Sun"としているサイトもあるが、こちらは"The Rising Sun"で、アニマルズで有名な「朝日の当たる家」<これもタイトルの訳が間違っていて、売春宿の名前だから「朝日楼」とすべき>とは全く違う歌)でも、女性の持っている力に対する恐怖や、女性器の形状に対する嫌悪が歌いこまれている。この歌でも、女性の力は「のぼる太陽」とか「まるいもの(あるいは、まわるもの)」に結び付けられていて、季節を巡らせ、生命を生み出す自然の力に行きつくのだろうが、結局、男のアレクサンダーにはその力の出どころは理解できず、「いつそんな細工がされたのか」「いったい何じゃこりゃ」と疑問のなかに取り残されてしまう。それでも、「転がっていくもんは転がっていくんだからしょうがねえ」と、自然の流れに身を任せる28歳のアレクサンダーであった。
それにしても、日が「長くなること」をくよくよ考えてしまうのはどういうわけだろうか。日が長くなるのは、暖かくなって、冬の間眠っていた命が息を吹き返す喜ばしい知らせではないのか?いいや、もしあなたが奴隷だとしたら、日が長くなるということは、それだけ強制労働の時間が長くなるということを意味する。何もいいことはない。おそらく、この表現は奴隷制時代のワーク・ソングなどから受け継いだものではないかと思う。(このへんは、少し調べてみようと思います)そして、ここでは女が太陽のようなものを握っているわけだから、男の生殺与奪は女に握られているわけであります。女性の方々、異論があるのは重々存じております。これは、100年近く前の、テキサスのある男の世界観であります。押忍っ。
ところで、アレクサンダーは戦後、1950年に行われた最後の録音で、ロバート・ジョンソンの「クロスロード・ブルース」を録音している(アレクサンダー版のタイトルは「クロス・ローズ」)。アレクサンダーにとっては、録音の機会もめっきり減り、16年ぶりに手にしたチャンスだったはずだ。それなのに、言葉選びにこだわりのあるアレクサンダーが、自作のブルースではなく、(歌詞はかなり奔放に変えられているとはいえ)ジョンソンの曲を選んだのはなぜだろうか。しかも、当時はジョンソンのLPも出ておらず、ロバート・ジョンソンと言っても誰もわからない、そんな時代である。もしかすると、それは「のぼる太陽」”The rising sun”というフレーズがジョンソンの「クロスロード・ブルース」で使われていたからではないのか。「クロスロード伝説考」で、 "the rising sun"の"rising"と"sinking"の組み合わせが、チャーリー・パットンの「ハイ・ウォーター・エヴリホエア」の歌詞を意識した本歌取りであり、そのことが絶対に理解できる人物としてウィリー・ブラウンの名前が挙げられているのではないかと書いた。一方、このことを知ってか知らずか、アレクサンダーは「のぼる太陽」と言えば、俺でしょ、あいさつもないまま死んじまいやがって!とちょっとカチンときていたのかもしれない。そこで、十数年越しに「クロスロード」を録音。しかし、そこには「のぼる太陽」という言葉はない!「お前の言いたいことなんか、『のぼる太陽』という言葉を使わなくても、言えるんだよゴルァアア」・・・と言ったかどうかはわからないが・・・ここまでくると、「信じるか信じないかは、あなた次第です」と言う世界ですが。皆さんはどう思いますか?
追記 またもや怒られそうなことをやってしまいました。ブラインド・レモン・ジェファソンとテキサス・アレクサンダー。生前の二人はよく一緒に演奏したそうです。しかし、二人で演奏した録音は残ってません。そこで・・・作ってみました。二人のモーンをあわせると、それはもうすごいことに。ちなみにギターは名手ロニー・ジョンソン。ジェファソンのギターはアレンジ上の問題で、涙をのんで消しました。
My woman got somethin' just like the rising sun
My woman got somethin' like the rising sun
You can never tell when that work is done
It's no use to worryin' 'bout the days bein' long
It's no use to worryin' 'bout the days bein' long
Neither worries 'bout your rollin' because it sure goin' on
She got somethin' round and it look like a bat
She got somethin' round and it look just like a bat
Some time I wonder, "What in the hell is that?"
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?