設備(カーテン)
今回から鶏舎の設備について、数回に分けてお話しします。
まずはカーテンです。
まさとうの鶏舎は、2面開放型です。
鶏舎の開放面の外側に、巻き上げ式のカーテンが展張してあります。
カーテンは黄色い樹脂製で、展張する目的は
①日照の管理②換気および温度の管理③虫の侵入防止の3つ。
購入する際には、長さと幅を指定します。巻き上げ装置も含んでの単価で1平方メートル当たり2000~4000円程度です。まさとうは小口購入なので割高ですが、展張面積が大きいほど価格は割安になると思います。
①日照の管理
鶏は光による刺激をうけて、性ホルモンを分泌し、産卵します。
まさとうは、産卵率80%の抑制的な生産を目指しているので、薄暗い管理を念頭に飼育しています。鶏は明るい時間が14時間以上あれば産卵が可能である事が確かめられており、それを14L10Dと言います。その時に必要な明るさも10ルックス程度ですから、薄暗いけれども印刷文字は読めるといった程度です。感覚的には暗すぎるようにも感じますが、心配は無用です。目が受け取る光の波長のピークが、ヒトの3つに対して鳥類は4つあるからです。光の3原色だとか鳥目だとかはヒトの世界のお話で、鶏はヒトより多くの光を認識しています。
とは言っても、これは実験での下限値です。昼間にカーテンだけで、ここまで暗い環境になる事はありません。夏でも冬でも出来る限りカーテンを開けず、薄暗くなるように管理しても、安定した成績を出せています。
カーテンの開閉に最も気を使うのは、ヒナ鶏の導入時です。まさとうでは、大雛(だいすう)という産まれて100日目のヒナを導入しています。現代の鶏は、123日前後で産卵を始めるように改良されています。体の成長と性成熟が同時進行しているこの時期に、強い光によっていたずらに成熟を早めたくはありません。まさとうは産卵を抑制して、鶏に無理をさせない管理を目指しています。早い時期から多くの卵を産ませることによる、後半の産み疲れを恐れています。産卵が遅れるのはむしろ喜ばしいくらいなので、南側のカーテンは閉じて、北側のカーテンのみで換気と温度管理をしています。
鶏は日光を浴びることによって、産卵が刺激され、体温も上昇します。それ以外では、カルシウムとリンの吸収やビタミンAの合成をしています。ただしこの場合は、それほど長い時間は必要ありません。あくまで経験的なものですが、平飼い鶏舎であっても日光浴に1羽あたり一時間も必要なく、せいぜい十数分から数十分です。さらに日光の機能は、ビタミンEで代替できることが分かっています。まさとうでは、飼料にビタミンプレミックスというものを0.2%加えていて、日光浴が出来ない冬季や長雨でもビタミンの不足が起きないようにしてあります。
②換気および温度の管理
鶏舎にカーテンを展張していない農家さんはとても多く、お話を伺うと「環境に馴らして、鶏を鍛える」的な話が出てきます。いろいろな考え方があると思いますが、私はカーテンによる温度管理が必要だと考えています。
鶏は体温維持のために、エネルギーを消費して体熱を作らなければなりません。体温の維持エネルギーに過不足がなくなる温度帯のことを「熱的中性圏」と言います。念のために、体熱産生の変化なしに調節される温域の事と正確に記しておきますが、鶏の場合は気温18~21度です。ヒトでも常温や室温と言う場合は約20℃の事ですから、鶏の適温は人間と等しいと考えられます。
気温が低い季節は、下がった体温を上げるためには栄養を必要とし、その分だけ産卵のための栄養が減ります。それを避けるためには、相応にカロリーの高い飼料を食べさせなければなりません。
そこで飼料設計の際には、気温1℃当たり3.5Kcal・Me/羽/日(厳寒期)という加減をしています。
計算式は、Kcal/羽/日=W(140-2T)+2E+5ΔW
W=体重(Kg)
T=平均温度(℃)
E=日卵量(g/羽/日)
ΔW=増体重(g/日/羽)
さらにここに風の影響があるので、温度計で計ったデータだけでは正確な飼料計算が出来ません。詳しくは明らかにされていませんが、秒速1メートルで環境温度1℃低下に等しいと言われています。
こうやってカロリーの高い飼料を与えたところで、熱を作り出しているのは鶏の体です。その負担は鶏が体で受け止めています。
自分の管理の良し悪しは、鶏の状態や産卵成績によって答えが出ます。
冬季に日差しがあって、風が無ければカーテンを広めに開けてやるのも良いかもしれません。日差しがあっても風が強ければカーテンを開けないか、開けてもすき間程度にする方が良いでしょう。南側カーテンを開けるのか?北側なのか?両側なのか?全開か?半開か?すき間程度か?小屋根だけを開けてみるか?カーテンの開閉具合ひとつとってみても、産卵と温度と換気と風と日照の影響を兼ね合わせて、試行錯誤を重ねながら「感覚」と言えるものが出来上がってゆきます。カーテンが無ければ、学びの機会も無くなるような気がします。
③虫の侵入防止
17年前の開業当初。2か月ほどですが、導入したばかりのヒナたちと鶏舎で生活していました。
ローカに置いた木製ベンチで寝起きして、弁当を食べ、少しの間だけお風呂と用足しに家に行き、また鶏舎に帰ってくるという感じでした。エサを混ぜるか、鶏病について調べる以外は、ずうっとヒナを見ていたように思います。
本来は鶏病に対応しようと鶏舎生活をしていたのですが、これがキッカケで別の事に気づかされました。
それは蚊の存在です。
カーテンを全開にしたまま夜になると、うなるようなウワーンという音とともにカッカッカッという音がします。蚊の大群の羽音と、鶏のツメが止り木にぶつかる音です。痒くて掻いているのでしょう。鶏は羽毛でおおわれてますし、足には脚鱗(きゃくりん)というヨロイがあるので、狙われるのはもっぱら皮膚が露出した顔の周辺です。
私も寝るときは、タオルケットで手足を隠して寝ていましたが、顔は隠しきれずに相当に刺されました。
鶏の場合は、アカイエカやヒトスジシマカといった蚊だけではなく、ヌカカにも狙われます。ヌカカというのは、見た目はコバエのように見える小さな蚊で、田んぼに水が張られる6月ころから増えます。ヌカカの厄介なところは、ロイコチトゾーンという病気の媒介をする事です。詳しくは病気の項で述べますが、病原体の感染度合によって元気喪失や産卵低下から斃死(へいし・死亡)まで様々な影響があります。分かり易く病状がでれば対応もするのでしょうが、何となく元気を喪失した程度ならば、「いつもこんな感じ」と見過ごしてしまうかも知れません。ヒトは刺されないので、存在すら気づかれない場合もあります。
そして病気もさることながら、蚊の影響で恐ろしいのは寝不足による夏バテです。夏の酷暑による鶏の死亡が、報道されることもあるかと思います。暑さだけが原因のように感じてしまいますが、ウィンドレス鶏舎ならば断熱や換気で、平飼い鶏舎ならば鶏が地面に体を押し付ける事で高温に対処できるはずです。それでも鶏が死亡するならば、それは寝不足が原因ではないでしょうか。蚊の襲来による寝不足と、元気喪失と、食欲減退とが負の連鎖をするからです。菌でも、ウィルスでも、毒でも、虫でも対処の基本は同じ、暴露量の低減です。夜にカーテンを閉めても蚊は侵入してきますが、総量は抑えられます。そこを電撃殺虫器でさらに減らせば良いのです。あとは朝日が差し込む頃に、カーテンを開けて換気をしてやれば大丈夫です。夜にしっかりと休息ができれば、夏場でも一日当たり120g以上のエサは食べてくれますし、卵のカラが薄くなったりすることもありません。まして、鶏が死亡するまでにはならないと思います。
産開業して約2ヶ月。
卵が始まり数が産みそろってきたところで、卵を持ってご近所へ挨拶に回りました。
鶏舎にこもった頃に「仙人になるんか」と笑っていた方が「お岩さんになって帰ってきた」とおっしゃいました。蚊の猛攻で、相当にひどい顔になっていたのだと思います。「平飼い農園」より先に「日本脳炎」になると心配されたりもしました。
この経験がもとになって、野菜を作り始めた時もトマトやキュウリや白菜と夜を共にしました。ナメクジや夜蛾の襲来、夜露、地熱、そして昼間にシオれても朝にはピンとした姿に戻る命の息吹き、ついつい意識から外してしまいがちな夜に、大切なものがあります。
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