コクシジウム症

コクシジウム症

本病は、鶏を飼育すれば当たり前のように出会うものの一つです。
鶏がバタバタ死んでしまう急性症状から、分かりづらい慢性症状まであります。
現在では簡単に対処できますが、過去には2度ほど忘れられない経験をしました。

一回目は、開業の時。
初めて導入したヒナが呼吸器系の合併症を患い、診断した獣医師から投薬治療を指導されました。投薬はためらわれるものの、知識も技術も無い状況では指導に従うほかありません。

しかし一週間の投薬終了後、ヒナの体力が回復しきらない段階で、今度はコクシジウム症を発症しました。
コクシジウム症が発症すると「沈鬱(ちんうつ)」と言う状態になります。
頭と尻尾を床に垂れたまま動けなくなるので、見た目はサツマイモのようです。
400羽のヒナが苦しそうに床にうずくまる姿を前に何もできず、ただ回復を待ち続けるしかありませんでした。結局13羽が死んでしまいましたが、本当に情けない経験です。

二回目は、開業6年目に初めて業務用の注文を頂いた時。
産卵開始後にコクシジウム症が発症すると、産卵率が大幅に下がります。
この時は30%前後まで下がってしまいました。

産まれた卵も殻が薄いので、売り物にはならなくます。
個人向けの販売を休止し、少ない卵の中から何とか売れそうな卵をより分けて業務用に販売しました。
まだまだ技術も浅く、発症の間も悪い、これも情けない経験です。

コクシジウム症とはどんな病気なのか

まずは文献から見てみましょう。
「鶏の病気」より(以降、太字は引用部分)
コクシジウムはアイメリア(Eimeria)属原虫の感染によって起こる。
鶏に寄生のアイメリアは8種類あり、種によって症状、寄生部位、病変が異なる。鶏の疾病の中で最も被害が大きいものの一つである。オーシストの経口摂取によって感染が成立する。種々の下痢、食欲不振・廃絶、体重減少などの症状を呈し、死亡も認められる。鶏の日齢、性別、品種に関係なく発生する。

コクシジウム症の病原体が「原虫」である事と、感染は「オーシスト」によって起こるとあります。
原虫とは寄生虫の中でも単細胞のものの事ですが、ウィルス、細菌、カビ、原虫、線虫、という並びで認識しておけば、現場では十分です。
オーシストとは、生活環の中のステージのひとつで「接合子嚢」とも言いますが、植物のタネやカビの胞子のようなもの、と考えても実用上の問題はないと思います。
保健所のセンセイが説明される時も、親虫・子虫という表現ですから、この程度の理解で問題ありません。
ただし「オーシスト」という言葉自体はよく使います。
コクシジウム症は体内で増殖し排泄されたオーシストを別の鶏がついばむ事で感染が拡大しますし、定量的にとらえるためには糞便中のオーシストを計数するので、むしろこの言葉だけで良いかもしれません。
8種類と書かれていますが現状ではどうなのでしょう、研究が進み分類に変化があるかもしれません。
ですが、自分は下記の通りの3区分で認識しています。
また、確定診断は検鏡して原虫の大きさで判別しますが、そこまでしなくても症状を見れば判断できます。

①急性盲腸コクシジウム症
E.tenella(テネラ)の感染によって起こる。4~5日の潜伏期の後に鶏は血便を排出して発病する。貧血が顕著で、鶏は運動を嫌い仮眠状態に陥る。死亡率は高い。病変はほぼ盲腸に限局する。(後略)

急性タイプ、強毒型、盲腸コクシ、テネラなど色々な呼ばれ方をします。
仮眠状態とあるのが沈鬱(ちんうつ)の事です。
鶏の盲腸は、総排泄口に開いていて出口に近いので、盲腸内での出血が鮮血のまま排泄されます。
他の養鶏場での病状視察や経験からすると、テネラが最も急性で強毒なのではないでしょうか。
糞便中のオーシストがグラム当たり2000個以上で発症すると言われていますが、検査の結果を待っている間に鶏が死んでしまうという印象です。
他の農場での体験ですが、足元にじゃれつく鶏たちのうちの一羽から、いきなり鮮血が吹き出てきた事があります。飼育室にお邪魔してすぐは、群れとして元気そうに見えたので、長靴が鮮血に染まった時はビックリしました。その後に沈うつ鶏や死亡鶏がいきなり増えたようで、調べてみるとテネラタイプのコクシジウム症だったそうです。
おそらく弱みを見せたくないという本能でしょうが、病鶏であっても、人間が近づくと一時的に元気そうな姿を見せます。しかし、その場にジッとたたずんで10~20分見ていれば、鶏がこちらの存在を気にしなくなり、本当の状態を見せてくれるものです。そこの農場主は、静かに鶏を観察する時間をとられていなかったので、発見が遅くなったのではないでしょうか。そのほか食下量や便のニオイや色など、4~5日とされた潜伏期間中にも疾病に気付く兆候は示されていたはずです。

②急性小腸コクシジウム症
E.necatrix(ネカトリックス)の感染によって起こる。病原性は最も強い。(中略)鶏は4~5日の潜伏期の後突然大量の粘血便を排出して死亡する。寄生部位は小腸中部と盲腸で(中略)病変は小腸中部を中心に認められる。(中略)腫大部位の粘膜は肥大してかゆ状でもろくなる(後略)

急性タイプ、強毒型、小腸コクシ、ネカ、ネカトリックスと呼ばれます。
小腸の内壁が剥がれて血液とともに排泄されるので粘血便となりますが、病変部が体内の深い部分なので色も濃赤色や黒色になります。
重篤なものでは小腸から剥がれた内壁がゼリー状のかたまりで排泄されることもありますが、軽微なものでも小腸の絨毛組織が損傷、喪失するので栄養の吸収ができなくなり栄養失調になります。
大まかな病態はテネラが失血・貧血で、ネカトリックスはさらに栄養失調が加わります。
ネカトリックスが最も強毒とされてはいますが、投薬等の選択肢を持つ農家であれば、対処する時間があるだけテネラよりは良いのではないのでしょうか。上記とは別の農場で発症した様子を視察した事がありますが、クロストリジウム症との合併症ながら、2種類の薬剤を投与され、死亡鶏無しで治癒しました。

③慢性小腸コクシジウム症
E.aceruvulina、E.maxima(アセルブリーナ、マキシマ)(中略)の6種の感染によって起こる。感染種によって症状はやや異なる。水様下痢便、粘液便、肉様便を排出する。体重が減少し、立毛などが認められるが、死亡することはまれである。産卵率の低下も認められる。(中略)病変は小腸に限局し、(中略)原虫の寄生は粘膜上皮細胞に限局する。(後略)

慢性タイプ、弱毒型、アセルブリナと呼ばれます。
紛らわしいのは、こちらも小腸コクシと呼ばれる場合があることです。
粘血便や肉様便とあるのは粘膜の損傷部分が排泄されたもので、絨毛組織が傷つく事により栄養吸収が阻害され、体重減少や産卵率の低下が引き起こされます。
発症レベルは糞便1グラム当たりで10000個以上と言われていますが、6~80000個が検出されているにも関わらず、鶏にも成績にも目立った変化がない例を他の農場で目撃したことがあります。
この例に限ったことではなく、慢性タイプは感染と耐過を繰り返して原虫と鶏が折り合っていくので、鶏とはこういうものだと認識していらっしゃる養鶏家には、何人かお会いしてます。その場合でも、他の疾病との合併症になる危険性はあります。特にクロストリジウム症は、コクシジウムの原虫がつけた傷から侵入して発症するので、合併症にも注意が必要です。

参考文献には書いてありませんが、慢性タイプの分かり易い目安は「緑便」ではないでしょうか。
緑色のケイフンですが、これも血便です。
なぜ緑色なのかは別稿で考察しますが、血液が消化管内を通過する間に、消化液にさらされて変色すると言われています。
水様性下痢便は排泄してすぐ床に吸収されるので判別しづらく、粘血便などを目撃する様では対処が遅いのです。
緑便は出血が軽微な段階での症状なので、この段階までで対処できれば、良いのではないでしょうか。

コクシジウム症との付き合い方は、発症レベル以下で管理する事

コクシジウム症の3区分を読んで頂けば分かるように、種類が何であろうとオーシスト数を2000以下で管理すれば「発症」を防ぐことができます。
アイメリア原虫は、野外からの持ち込みやヒナの導入を通じて絶えず侵入します。原虫を完全にゼロにする事ではなく、コストや労力と見合わせながら、発症しない程度に管理すれば十分です。
次稿では、まさとうで実践しているコクシジウム症対策を記します。

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