コクシジウム症(薬剤・備忘録)
現状の一般的なコクシジウム症対策は、薬剤を使用したものですので下記しておきます。
予防
各種合成抗コクシジウム剤およびイオノフォラス抗生物質が予防剤として使用できる。ただし、採卵鶏で10週齢まで、ブロイラーでは出荷7日前までしか使用できない。(中略)生ワクチンも利用されている。(鶏の病気より引用)
合成抗コクシジウム剤が予防剤として使用できるとは、育成場で抗コクシジウム剤を飼料に混合して与えている事をさしています。
現在の育成場とは違いますが、開業時にお世話になった育成場を視察させていただいた時に「中雛用飼料にアンプロールを混ぜている」と教わりました。
正確にはアンプロリウム、エトパベート、スルファキノキサリンの合剤です。抗コクシジウム剤としては一般的なものですが、長年の間に薬剤耐性が強くなり「完全には効かない」とも仰っていました。混ぜているという表現は、その育成場が自家配合をしていたからです。
飼料会社から配合飼料を購入する場合は、中雛用と言ったら「抗コクシジウム剤入り」という意味になるそうです。なぜ中雛用かというのは、引用部分の採卵鶏で10週齢までしか使用できないを遵守しているからです。
農研機構「2007年に実施された鶏コクシジウム浸潤状況の全国調査(動物衛生研究所研究報告・2011-2-28発行)」のなかで、農家の衛生意識は概して高かったが、給与飼料に予防薬が含まれることを把握していない農家もあると考えられた、と報告されています。
業者さんやベテラン農家は当然にご存じでしょうが、新規農家の中には、そのあたりの事情をご存じなく使用される例もあるようです。
まさとうは大雛導入ですので、育成場で抗コクシジウム剤を中雛用飼料に混合給与されたヒナを導入している事になります。
イオノフォラスと書かれていますが、イオノフォア系抗生物質と言った方がよいのでしょうか。
サリノマイシン・モネンシン・ナラシン・バリノマイシンなどが実用化されており、その数が多いため4群に分けられています。。
もともとは、酵母菌やグラム陽性菌への抗菌活性が利用されていました。
しかし、デプシドと呼ばれる一群から殺ダニ活性が発見され、ポリエーテル抗生物質と呼ばれる一群からコクシジウムへの殺滅効果と、さらに家畜への生育促進作用が確認されたため、研究が精力的に進められました。
欧州の話になりますが、以前は上記の理由から、コクシジウム対策の主力として利用されてきたようです。
現在は、化学的に生産された薬剤の使用は禁止になり、植物由来物質の研究と実用化が進んでいるようです。
私は、由来よりも使い方の方が重要だと思いますが、欧州ではよくある話と思います。
治療
サルファ剤またはサルファ剤とピリミジン系薬剤との合剤が用いられる。(鶏の病気より引用)
サルファ剤もコクシジウム対策では一般的で、例えば予防の所で書かれているスルファキノキサリンなどです。スルファとは硫黄の事ですが、多くの場面ではサルファと呼ばれています。
念のためですが、抗生物質という語には「生物由来」という意味があり、ストレプトマイセス属やトリコデルマ属などの細菌による産生が主流です。サルファ剤は生物由来ではないので、抗生物質ではありません。
薬剤を使用する場合は、獣医師の診断を受けて投薬指示書を発行してもらう必要があります。
以前は、獣医師の投薬指示書より先に薬剤を入手する事が可能でした。
根本の原因は、産卵中の鶏への投薬に対する判断が、家畜保健所や獣医師によってマチマチであった事だと思います。ある人はダメだと言い、ある人は休薬期間を守れば良いと言う。農家としては、アレコレと押し問答をしているより早く対処したい、薬問屋がその気持ちに応える、そういった状況を何件か目撃しました。
開業当初の話ですが、農林水産省の課長級通達にて「このような現場の杜撰な運用のあらためよ」との指示書面が出ていましたから、現在は厳格な運用がされていると思います。
対策
感染源であるオーシストの熱湯による加熱消毒が最も有効であるが、大規模鶏舎では応用が難しい。消毒剤としてはオルソクロロベンゼン製剤が有効であるが胞子形成オーシストを殺滅するためには5~6時間を要するために踏込消毒槽に使用する。(鶏の病気より引用)
熱湯による加熱消毒が最も有効、とあるのは地下浸透性によるものです。
実験した獣医師によると、バーナーでは表層のみ加熱されて深い部分に原虫が残るが、熱水は少なくとも地下30センチ程度は加熱されるので効果があるとの事でした。ただし、装置と労力が必要なので、まさとうのような小規模農家では採用できません。
オルソクロロベンゼン製剤というのは、単体では見たことがありませんが、クレゾールとの合剤であるオルソ剤ならば市販されています。
安価で効果的とは言っても、ガソリンか重油を乳化したような見た目です。
これぞ化学合成品と言いたくなる強烈な臭いがありますし、後処理を考えると床面への使用はためらわれます。
まさとうでも踏込消毒槽で使用した事がありますが、オルソ剤がついたままの長靴を鶏がつつくので、食品安全を考えて辞めました。
人によっては、オルソクロロベンゼンをオルトクロロベンゼンと、オルソ剤をゾール剤と呼ぶ事があります。
最後に、これまでにコクシジウム症対策として試行錯誤したものを列挙します。
投与・給与しているにもかかわらず発症した場合や、発症後に投与しても症状の改善が見られない場合や、鶏糞を顕微鏡で検鏡して病原体に変化がなかったもの、などを合わせて記しています。
いずれも効果が無いと判断したものですが、あくまでコクシジウム症対策としてです。
用途や状況が変われば、有用になる場合もあります。
いつか使う時が来るかもしれないと思い、引き出しにしまっておいた知識です。
分類してみましたが、どうしても取り留めが無い列挙になってしまいます。
生菌剤
導入当初より、①乳酸菌製剤の飲水投与と②ヌカを乳酸発酵させた飼料と③バチルス製剤を給与をしていました。
飲水投与していたのは、乳酸菌の一種であるラクトバチルス・アシドフィルス製剤です。鶏の腸内環境に合わせた専用製剤です。
飼料給与していたのは、乳酸菌を中心とした80種類の有用細菌群が含まれるとされる農業全般用の市販品です。これを米ヌカでボカシて使っていました。専門学会まで存在する有名な資材です。
バチルス属菌製剤は飼料に混合して給与していました。バチルス属菌とは納豆菌などが含まれる細菌グループで、日本語では枯草菌と言います。給与したのは5種類のバチルス属菌を混合した生菌剤で、本来はサルモネラ症対策の生菌剤ですが、製薬メーカーから乳酸菌と枯草菌の協合効果でコクシジウム症対策の効果も見込めると説明され使用しました。20kgで5万円以上もする、とても高価な資材です。
そして、コクシジウム症も呼吸器病も発症しました。上記3種は同時使用ですから、いかに効果がないモノなのかを痛感させられた訳です。
2回目に発症した時は、④バチルス・スブチリスとオリゴ糖とお茶殻の混合飼料を給与していました。
今度はバチルス菌だけでなく、オリゴ糖の整腸作用とお茶カテキンの殺菌効果の上乗せに期待していました。このオリゴ糖はグアー豆抽出物となっていたので、欧州では抗コクシジウム効果が認められている、マンナノオリゴ糖だと思います。この時も乳酸菌による発酵ヌカの同時給与です。つまり効果がなかったわけです。
その後しばらくは、別の混合製剤を給与していました。
⑤乳酸菌・バチルス属菌・酵母など15種類の微生物と消化酵素とオリゴ糖の混合製剤です。コクシジウム症は出ませんでしたが、検鏡するとコクシジウムの病原体は変わらず認められるので、一年程度で使用を休止しました。
⑥クロストリジウム属菌製剤を隔離試験で試しました。
クロストリジウム属菌は、土壌中や腸内などに存在する細菌グループです。様々な代謝産物を排出するので非常に興味深い細菌グループですが、ウェルッシュ菌やボツリヌス菌など病原性のものもこのグループに含まれます。腸内環境は席取り合戦のような感じと思い、有用菌で埋めてしまえと考えたわけです。試したのはクロストリジウム・ブチリカム製剤です。日本では酪酸菌と言って、人間用の整腸剤として市販されているものです。動物用は抗コクシジウム剤として特許公開されていて、公には消化吸収を助けながら腸内細菌の毒素産生を低減するとの効果が認められています。製薬メーカーと相談の上、市販品のサンプルを頂いて20羽を隔離試験しましたが、効果が実感できませんでした。
総じて感じたのは、これら生菌剤の機能はあくまで整腸効果で、フンや床の状態が良くなる効果はありますが、疾病予防まで期待するのは荷が重いということです。
クエン酸・ビタミン類
⑦クエン酸は飲水投与しました。粉末のものでも水に良く溶けます。
どこかのタイミングで2年程度使用しました。
夏場の暑熱対策としては優秀だと思います。
でも疾病、とくにコクシジウム症対策にはなりません。フンの検鏡では変化が見られないからです。
⑧ビタミン剤は飲水投与していました。鶏の要求量が多いビタミンA・D・Eの液体製剤です。
一回目のコクシジウム発症時の特に夜間ですが、足を延ばしたままケイレン・硬直する鶏が散発したのでビタミンE欠乏を疑って使用し、その後もヒナの導入時には継続して投与していました。
アイメリア属原虫(注:コクシジウム症の病原体)の発育を減退させるには、飼料中の栄養素濃度の増加やビタミンAやKなどの給与が有効である。
また、n-3系列脂肪酸を飼料に加えるとコクシジウム感染によるストレスを軽減し病変が軽度となる。さらにセレンやビタミンEの給与がコクシジウムに対する免疫獲得に有効である。(日本飼養標準 家禽2011年版からの抜粋)
とありますが、参照された論文が1960から1990年代のものです。当時と現在では鶏の体格や能力も栄養要求量も格段に違うので、参考程度です。
ビタミンの飲水給与は、保健所から「大雛に導入時の移動によるストレスがかかっているのではないか」と指摘されたこともあり、移動や疾病によるストレスの緩和のためにと、しばらく使いました。
クエン酸やビタミン類は、夏場の酷暑や疾病時の体力低下を補う事が出来ますが、あくまで補償的な存在です。夜間の睡眠や疾病予防などが、上手くいかなかったときに開ける引き出しであって、疾病対策の決定打ではありません。忘れてはならないのはあくまで引き出しだという事です。特にクエン酸は、暑いさなかにパッと見の元気さが戻る場合があるので頼ってしまいそうですが、あくまで夜間の睡眠や飼料の成分を反省する方が先です。
その後はクエン酸もビタミンの飲水投与も辞めてしまいました。
一般資材
初めての導入とともに発病した時には⑨ローヤルゼリーとプロポリスを飲水投与しました。呼吸器病の対策として知人が差し入れてくれたものです。動物用の使用方法が分からないので、人間が飲用する時のままで使用しましたが、呼吸器病にもコクシジウムにも全く効果はありませんでした。おまけに刺激が強いのか、鶏が飲みたがりません。
植物系物質
植物系資材としては、漢方薬とハーブ類も試しました。
開業当初より、飼料に⑩ヨモギ粉末を配合していました。本来は鶏回虫に対する駆虫効果を狙ったものですが、駆虫にも疾病対策にもなりませんでした。
⑪オレガノとシナモンとトウガラシの成分を混合したものを、試験したこともあります。欧州製薬メーカーのもので、小腸を刺激して絨毛組織を成長させるというふれこみでした。本来は、増体やストレスの緩和を狙った飼料添加物ですが、欧州の研究でオレガノの有効成分であるカルバクロールに、抗コクシジウム効果が認められています。欧州では、2006年より合成抗菌薬の使用が厳しく制限され、2011年からは全面禁止されているようです。(抗コクシジウム化学物質の予防的使用の禁止・2011/50/EU理事会指令)
その代替として盛んに研究されているのが植物由来の物質です。
私は効果を実感できなかったので、予防的に鶏を鍛えられるという程度で理解しました。
ちなみに飼料分野でハーブと言う時は、基本的にオレガノの事ですが、特許の関係で表記が出来ないのだそうです。オレガノそのものを粉末にした飼料があり、多くの養鶏業者が使用していらっしゃるので、何らかの効果はあるのかもしれません。
2回目のコクシジウム症発症の時に、⑫17種類の漢方生薬を動物用に配合した飼料を投与しました。南九州のメーカーのもので、本来は下痢・軟便対策として市販されているものです。獣医師からの紹介で使用しました。下痢・軟便対策には非常に効果的でしたが、鶏がコクシジウム症を耐過してくれるのを、3週間ほど待つ事は同じでした。つまり治療ではなく、あくまで体力維持などの対処であって、次善の策という印象です。
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