目覚めよ、アカツキ
こんにちは。ヒライユウキです。
家族の創業地である100年の時が流れる家「日詰平井邸」に残された醸造所を2024年1月に復活させ、お酒を造っています。
製造免許が交付された1月17日、その翌日から仕込み始め、念願の初出荷を迎えた2月26日…そして今、年が明けてから4か月間の記憶がほぼありません。夢中で、楽しく、お酒造りと向き合ってきました。
お酒をお召し上がりいただいた方からの「美味しい~!」のお声が本当に嬉しく、励まされています。
もろみは30本近く仕込みましたが、造っていて本当に思うのは、副原料として使用している紫波町特産もち米の発芽玄米のポテンシャル。そして掛け合わせる layer 副原料(果汁)の奥行き。
造れば造るほど、見たことの無い表情や余白があり、その可能性に醸造家としてワクワクしています。ぜひ日詰平井邸の深化する酒造り、クラフトサケの味わいを通して引き続きご一緒いただけますと幸いです。
さて。
目覚めよ、アカツキ
2023年5月のある日、クラウドファンディングが終了しいよいよ始まる本格的な工事に先駆けて岩手県工業技術センターの佐藤先生と私は日詰平井邸造り蔵へ。
まだ何もない、100年の息遣いを感じる蔵。
ここに棲み、眠り、生き残った酵母を探す。途方もないチャレンジが始まったのです。
たとえば、その辺を指で撫でてみてください。
そうすると、あなたの指には無数の菌が付きますよね。いわゆるバイ菌も当然いますし、乳酸菌やカビ、野生酵母などまあバリエーション豊かな菌たちが棲んでいます。その中にいるかどうかも分からない清酒酵母を見つける、という話です。
蔵の壁、天井、梁、柱…とにかく目に付くところを全て綿棒で擦り、1本1本をサンプリング。その数は300に迫りました。
それらを培養し、薄め、培養しを繰り返します。この気の遠くなるような作業に協力していただいたセンターの先生には本当に感謝するばかりです。
そして見つかった1株の酵母…と行けば良かったのですが世の中そんなにうまくありません。なんと全滅でした。
採取方法を改めて2回目のチャレンジ。
ちなみに2回目はすり潰した甘酒をシャーレにいれて放置するやり方。これは伝統製法「生酛(きもと)」の状態に近いやり方です。
この方法が功を奏したのか、なんと、本当に1株だけ清酒酵母が見つかったのです。
しかし喜ぶのはまだ早い。
酵母に触れている人間が長く出入りしていた日詰平井邸には、現代の酵母が服などに付着し持ち込まれたものである可能性もあります。しかし、分析の結果見つかった酵母は、
・清酒酵母(Saccharomyces cerevisiae)であること
・泡あり酵母であること
・協会酵母ではないこと
・岩手県の酵母(ジョバンニの調べ、ゆうこの想いなど)ではないこと
・その他の頒布されている酵母ではないこと
が明らかになり、日詰平井邸でかつて酒造りが行われていた時に蔵に住み着き生き残った酵母である可能性が極めて高いことが分かりました。
さらに、アルコール発酵能も確認。100年前の酵母を目覚めさせるプロジェクト、まずは第一関門「採取」を突破。
新たな時代を醸し歩む
目覚めた酵母を「アカツキ」と名付け、2024年4月から岩手県工業技術センターとの共同研究契約を更新して実用に向けて試験を繰り返していきます。
まずは超少量で発酵させ、香りを確認。
爽やかなメロン様の瑞々しい香り。メロンの香りはカプロン酸エチルを主体とした吟醸香で喩えられることが多いのですが、これはまた違う構成によるもので、クラシカル、ノスタルジーすら感じる朴訥とした着心地。
酸の出方もユニークで、品種改良された現代酵母の整然とした味わいとは一線を画しつつも着慣れたTシャツのようなやらわかなテクスチャを感じます。
現在使われている主要な酵母、どれとも違う出会い。私にとっては再会、なのかもしれません。
そしてこの酵母、かなり優秀で今夏には一回目の実地醸造を目標にしています。うまく調整することができれば、そのまま「空我-くうが-」「layer」への採用になります。
100年の時を越えて目覚めた酵母「アカツキ」で造るクラフトサケが今からとても楽しみです。続報をお楽しみに!
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