愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ。Part.3
全く同じ状況は発生しないにせよ、過去の出来事を振り返る事は、いくらか参考になると考え、前々回は、1928年~1970年を、前回は、1969年~2001年を振り返ったわけだが、その続きで、2001年以降を振り返ろう。(過不足等、多少の不備は、あるかもしれませんが、ご勘弁を…)
Part.3:2001年~2021年
ドットコムバブル崩壊で下落し続ける株価の中、2001年9月11日に、9.11のテロが続く、暗い幕開けとなった21世紀。
その後も、2001年10月17日、エンロンの不正会計疑惑。2001年12月2日、エンロン破綻。2002年7月21日、ワールドコム破綻。とバブル崩壊の余波が続く。
ワールドコムは、
「会社未分配売上科目」という偽の勘定科目を計上し、収益を粉飾した。
「ラインコスト」(相互接続費)を費用ではなく資産として計上し、減価償却費として処理することで、費用計上の先送りを行った。
(簡単に言うと、工場設備は固定資産に計上して劣化に合わせて数年かけて減価償却して費用計上するが、製品材料は使用した分を費用に計上する。この計上タイミングの違いを利用して、収益をかさ上げした感じである。)
エンロンは、
取引損失を連結決算対象外の子会社である特別目的事業体(SPE)の決算に付け替えた。(エンロンは、M&Aで買収した会社の株価の下落にヘッジをかけようとするが、実態は、エンロンが作った子会社に株を売却していたため、下落ヘッジがかかっていない状態であったが、これを連結対象外として処理をする事で、損失を隠そうとした。)
これらの会社は、いずれもアーサー・アンダーセンが監査を担当していた。そして、エンロン不正会計では、不正を助長するアドバイスをしていた。
このような事態を受けて、2002年7月30日、SOX法(上場企業会計改革および投資家保護法)が制定される。
監査人には独立性が求められ、非監査業務(コンサルティング等)を行えないようにするなど、利益相反を抑制する法律が制定された。(大体の詐欺的行為は利益相反が発生するインセンティブ構造になっている。投資する際は、第3者か、同じリスクを負う人の助言を聞くべきだろう。)
そして、9.11の傷が癒えない中で、2003年3月20日、第2次湾岸戦争に突入していく。
戦後に原油価格が落ち着くという見通しなのか、
戦争による需要増加の期待なのか、
SOX法による投資家保護が功を奏したのか、
それとも、これ以上、悪いニュースはないと言う事なのか、
よく分からないけれど、株価は、この辺りから反発している。
そして、ここから2007年、2008年の不動産バブル、サブプライム金融危機・リーマンショックへ続いていくわけだが、その前に、水面下で何が行われていたか振り返ろう。
1970年代に遡る。ラテンアメリカでは対外債務を拡大しつつも、経済成長が続いていた。特に、固定相場の中では、ラテンアメリカへ投資すると為替リスクを負わずに高い経済成長のリターンが期待できたので、固定相場は海外からの資金流入を助長する流れになった。また、その時、原油高が続いていたので、オイルマネーがラテンアメリカへ流れ込んだ。そして、1971年08月15日のニクソンショックでドルの固定相場が変動相場へ移るわけだが、ドル安が進んでいく中では問題にならなかった。
しかし、1981年1月20日に就任したレーガン大統領が、レーガノミクスによる、強いアメリカ、ドル高政策をとる。更に、FRBも利上げを始める。このあたりから、世界的な景気後退が始まり、逆オイルショックの影響もありラテンアメリカ諸国の景気が悪化し、ドル建ての対外債務が拡大し、債務不履行に発展する。
1982年8月12日、メキシコが債務返済の繰り延べと新規融資を要請。
同様の問題が、ブラジル、アルゼンチンなどの新興国でも発生。この債務危機をきっかけに、銀行の資本比率を増強する規制の動きが出る。
その際、規制対象を米国の銀行だけにすると国際競争力が損われることから、グローバル化する金融機関の必須要件として世界的にBIS(バーゼルⅠ)が適用されるように米国が働きかける。1988年7月15日に1992年末を目標として、バーゼルⅠが合意に達する。
それを受けて、自己資本比率を高めるために、銀行を中心に、世界的にバランスシートのスリム化、オフバラ化、資産の証券化が推進される。
このような、オフバラ化、証券化の流れが、サブプライムショックを生み出した一つの流れとしてあった。
もう一点は、2003年2月20日頃からブッシュ大統領が進めた「オーナーシップ・ソサエティ」の政策である。この景気刺激策の一つに、住宅所有権の拡大があり、マイノリティの持家比率を高めるため、下記のような政策がとられた。
・約40,000の低所得世帯に頭金支援を提供。
・手頃な価格の住宅供給を増やす住宅税額控除を提案。
・自助住宅所有機会プログラムへの支援を増やすことを提案。
・住宅購入の簡素化と金融教育の拡大。
このような政策の後押しもあり、金融機関がオフバラ化・住宅ローンの証券化を進める中で、利益の拡大・手数料の拡大を求めて、ロクな審査をせずに、住宅ローンを推し進めることになった。最終的には愛犬の名前で住宅ローンの審査が承認されたとも言われる。
もちろん、犬が15年、30年の住宅ローンを支払える訳がなく、みんなが住宅価格の値上がりによるキャピタルゲインを目的として住宅に投資をしている状態だったので、住宅価格が下がり出すと、多くの支払いが滞り、連鎖的にデフォルトが発生した。弾けるべくして弾けたバブルだったとも言える。
特に、住宅ローンは所得の数倍から数十倍のレバレッジをかける投資であるから、不動産バブルが経済に与えるプラスの影響も、バブルが弾けた時の信用収縮によるマイナスの影響も桁違いに大きくなる。(規模が大きくなるという点は、田中角栄の日本列島改造論から続いた日本の不動産バブルも同じだったように思われる。)
その後、サブプライム金融危機の後処理に税金が公的資金として金融機関に投入され、FRBが利下げや量的緩和を行う。モラルハザードで暴走した金融機関を救済するために、加担していない一般市民までがツケを払わされた格好だ。
サブプライム問題の再発を防止するため、法律が整備され、2010年7月21日のドッド=フランク法では、証券化の組成者等に資産の移転・売却等に際して、原則、信用リスクの 5%保有が義務付けられた。販売者が購入者と同じリスクを負う事で利益相反を抑制する目論みだ。(大体の詐欺的行為は利益相反が発生するインセンティブ構造で発生すると前段で述べたが、これも同じである。)
2011年8月5日には格付け機関スタンダード&プアーズ(S&P)が米国債の格下げを行い、市場に動揺が走る。S&Pは、自分の役目をちゃんと果たしているとも言えるけど、サブプライム証券の格付けを正当にできておらず、「格付けによる利益に目が眩み、正しく審査が出来ていなかったのではないか?とモラルハザードを疑われた格付け機関」が、「サブプライムの救済に乗り出して、財政が悪化した政府」の格付けを下げると言うのだから、いい気なものである。
そのような時代背景の中、中央銀行や政府から独立した通貨として、ビットコインが生まれる。2008年10月31日、satoshi nakamotoが執筆した「ビットコイン:P2P電子通貨システム」というタイトルの論文が発表され、2009年1月3日にビットコインがローンチされる。
ビットコインはまだまだ、危うい存在だと思うけれど、こうやって歴史を振り返って見ると、ドルが変動相場制になってから、たかだか半世紀ぐらいだし、株式相場も、何度もモラルハザードを起こしながら、その度に法整備をし続けている状態だ。そして、経済システムも資本主義と社会主義のどちらが人類にフィットしているのか社会実験をし、数々の戦争を繰り返しながら、1991年のソビエト連邦が解体を経て、取り敢えずの結果が出たところだ。
そう考えると、我々の経済は、完成された磐石な基盤の上に成り立っているとは言いづらく、他人を顧みない強欲さで、度々エラーを起こす、脆弱な資本主義システムに修正パッチをあてながら、なんとか運用しているのが実情のように思われる。
まとめ
全てをカバーすることは不可能だし、端折りながら歴史を振り返った訳だが、景気後退のトリガーとなった要因や、景気後退局面での対応や、景気回復までの道のり等を振り返ると、いくらか学びがあるように思われる。
例えば、コロナ対策として、各国が早期回復に期待して、お金に糸目をつけず財政出動をしている状況を歴史に当て嵌めてみると、
バイデン大統領が掲げるグリーンニューディールは、1933年にフランクリン・ルーズベルト大統領が掲げたニューディール政策あたりを振り返ることに意味があるだろう。
インフレ、資源高が懸念される状況では、1970年、1980年を振り返ることが参考になるだろう。同じく、インフレを懸念するのであれば、この時期の金の動きに着目する価値があるかもしれない。
また、1980年のようにFRBが金利を上げて、ドル高になる局面では、自国通貨が弱く、ドル建ての負債が多い新興国への投資には気をつけた方が良いように思われる。
大規模な財政出動後、増税が必要とされる局面では、米国だけ増税すると競争力が失われるため、1988年のバーゼル規制のようにG7等のサミットで各国が協調してグローバル企業の税率を引き上げるような流れになるかもしれない。
2011年のように、景気回復の道筋に暗雲が立ち込めた時には、新興国は当然として、アメリカでさえ格下げの可能性があることも、頭の片隅に入れておいた方が良いかもしれない。また、このようなストーリーを想定するならば、金の動きに着目すると良いかもしれない。
一方で、1988年、2003年に打たれた布石が2007年まで続く不動産バブルを引き起こしたように、水面下では、次のバブルを引き起こす土壌が、すでに何処かで育っている可能性を想定して、日々のニュースに目を配るのも良いかもしれない。
他には、エンロン不正会計やサブプライム問題と同じように、利益相反が発生するインセンティブ構造になっていないか警戒することは、あらゆる場面で自分の身を守るのに役立つだろう。これを意識していれば、自分たちがリスクを負わずに、手数料ビジネスで儲けようとするソーシャルレンディングに投資する事はないだろう。サブプライムと同じ構造なので、サブプライム問題を知っていれば、審査が杜撰になることは、火を見るよりも明らかだ。(不祥事が発生したSBIはソーシャルレンディング事業を廃業するらしい。)
更に言うと、高い金利には高いリスクが内在する。ノーベル賞を受賞者を集めたLTCMが新興国の債務リスクを過小評価し破綻したことを知っていれば、素人が簡単にソーシャルレンディングで高い利回りを享受できるのは不自然だと疑問を持つだろう。
(おそらく、このソーシャルレンディング問題を解消するには、サブプライム問題の時と同じように、信用リスクの 5%保有を義務付ける規制が必要になるだろう。)
「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ。」と言うビスマルクの言葉に従って、軽く歴史をなぞってみたが、興味が湧いた出来事や疑問を持った出来事は、もう少し深く丁寧に歴史を振り返ってみることをお勧めしたい。あなたの知的好奇心を満たすような新しい発見が得られるだろう。
最後に
こうやって歴史を振り返ると、人類は石油や土地や天然資源など、限られたパイを奪い合う、残念な争いを繰り返している。
石油や資源を奪い合う戦争を繰り返すよりは、
平等に降り注ぐ太陽エネルギーを活用する未来に期待したいし、
無限に分配が可能な情報技術がもたらす未来や
資源を分け合うシェアリングエコノミーが創出する可能性に投資をしたい。
短期的には人類の強欲さに絶望しつつも、
長期的には時折見せる人類の慈愛に期待して
チープな言葉かもしれないが、
「Make the World a Better Place」を掲げる
ハイテク企業が描く未来に期待したいし、
経済の発展に投資を続けたいのだ。のだ。のだ・・・
おつかれさん「缶コーヒー1杯ぐらい、ご馳走してあげよう」という太っ腹な方がいれば、よろしくお願いします!
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おまけ
課金してくれた方には、感謝を込めて、おまけ程度ですが、2001年のチャートに、米国債10年の金利,MonetaryBase,FFrate,CPI,新規失業保険申請件数、失業率を追加した図を付けておきまーす。
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