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【コラム】慶応義塾大学理工学部とKid Cudi
「ヒップホップやR&Bで英語を学びたいのであって、受験英語の話なんか聞きたくねーよ」という声が聞こえてきそうですが、bear with me. 今年の慶応義塾大学理工学部の入試問題で、こんなものが出ました。
I’m really proud of how far you’ve ( F ).
これが単発で出たのではなく、遠距離恋愛中のMr. HiyoshiとMs. Yagamiの会話文に続いてMr. HiyoshiからMs. Yagamiに宛てたメッセージがあり、そのうちの1文が上記の文でした(ちなみにこの日吉くんと矢上さんの会話文、2018年からストーリーが続いています笑)。また、( F )以外にも空欄がいくつかあり、選択肢の中からそれぞれの空欄に当てはまる単語を選択する問題になっていました。お察しのとおり( F )には動詞の過去分詞しか入りえないんですが、動詞の過去分詞としては選択肢の中にcomeとstudiedがありました。副詞farとの組合せを考えればstudiedは不適切なので(仮にstudiedだとしたらhow hardとかhow muchとかでしょうか)、comeが正解です。ベーシックな文法・語法の問題といえるでしょう。
これが仮に選択肢なしの問題だったとしたらどうでしょうか? その場合でも、選択肢を見ずとも、空欄にはcomeが入るなと思われる方は一定数いるでしょう。ここでのcomeは物理的にでなく概念的に「ここまで来た」みたいなニュアンスで、上のような組合せで非常によく使われます。そう思わない方にとっては残酷な話かもしれませんが、受験英語云々じゃなくて日頃から英語に触れていれば、まぁだいたいそう思うはずなんです。逆に、大学受験用の教材だけをやり込んでいたら、ここにcomeが入るという発想には至らないかもしれない。もちろん理論的にはcome以外にもgoneとかreachedとかtraveledとかが入りえますし、実際にネイティブがそれらの単語を使っている例も見受けられるので、前後の文脈と照らし合わせて問題なければそれらも正解です。
で、実際にそういう問題が出たとしたら、我々はその問題をどう評価すべきなのでしょう? 学校では習いようがない難しい語彙の知識でなく、基本的な単語の使い方やその組合せを問うという意味では、良問といえると思います。しかしながら、comeがSVCの文型をとることや、
Whenever you around I seem to come alive for ya
come aboutやcome acrossの意味や、
Ever since this new star fame came about
Or ever since me and Drizzy started hangin’ out, huh
I won big the day that I came across you
“come to 動詞”で「…するようになる」の意味になることは、
Fantasies, they go through my mind, and I've come to realize that I need true love
文法の問題集や単語帳を真面目にやっていれば身につくのに対し、“I’m really proud of how far you’ve ( )”ときたらcomeでしょうという感覚は、それだけでは体得できない(私が大学受験生だったのが15年以上前の話なので、今の教育課程や教材は違うとかだったらすみません)。学習量というよりは英語のセンスを問う問題という見方もできます。そう考えると、受験用の教材でコツコツ頑張っている受験生が報われない悪問だという見方もできるかもしれません。でも、受験用の教材だけでなく日頃から英語のコンテンツに触れることを促す問題という意味では、やはり良問なのかもしれませんね。もっとも、これが良問か悪問かは価値論にすぎず、真偽値のつく話ではないのですが(*サングラスをかけて斜め上を向いて*)。
何が言いたいかというと、大学受験の英語において、参考書や問題集だけでなく日常的に英語のコンテンツに触れることの重要性は、年々高まっている(あるいは、昔から高かったことに自分は最近ようやく気づいた)ということ。冒頭で例に挙げたのは会話文でしたが、同じく慶應義塾大学理工学部の大問1, 2では2023年の本や2024年の雑誌の文章が扱われていること、同様の傾向が他の大学・学部についてもみられることからも、これは明らかでしょう。そう、昨今の大学入試に出てくる長文読解の文章って、もはや“受験英語”用の文章じゃなくて、普通に最近世界の人々に読まれてるもの(あるいは、それをリバイズしたもの)なんですよね。だから、参考書や問題集だけで入試問題に立ち向かおうとすると、現代的な言い回しとかに引っかかりを覚えてしまう。なので、『やっておきたい英語長文』シリーズとかもいいんですが、同時並行で、興味のあることだけでもいいので英語のコンテンツを観る・聴く・読むようにするといいと思います。
せっかくなので、概念的に「ここまで来た」というニュアンスのcomeとfarが一緒に使われているリリックをいくつか紹介して本記事を終えましょう。
Happy to see how far I’ve come
You take the time
To look behind and say, “Look where I came
Look how far I done came”
and I didn’t come this far
to settle on the moon when I’m meant for mars
ではまたお会いしましょう。Peace ✌️
追記
上に書いた「最近の入試問題の文章は新しい」というのと反するのですが、入試問題の文章の一部は「古典回帰」しているという面白い指摘がありました。ご興味のある方は読んでみてください!
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