山の熊さんひとすじ
熊五さんに「ついてこい」と抱き寄せられた時、その温かさだけで、もう十分でした。
流行り病で身内は既におりませんでしたし。
熊五さんの家は山をいくつも登って下って尾根を伝い森を越え沢を上って……雑木林の空き地。小屋が一軒、細く青い煙を吐いていました。
熊五さんのおっ母は腰を伸ばしもせず、土間を見たまま言いました。
良いか、おめさまの仕事はひとつ。鉄砲撃ちが出たらすぐに、ポリさんに通報することだ。すまほ、あるだろが? 電波立たね所あっがら気ぃ付けてな。
初めは勝手がわからず苦労しました、それでも二年も経つうちに私も山暮らしに慣れて参りました。勿論、鉄砲撃ちを通報するのも。電波の飛ぶ場所も頭の中に地図が出来てきて。
或る日、母熊が森の端に倒れておりました。鉄砲撃ちに気づかなかったのです。
泣く私をおっ母は大きな掌で包んで優しく言いました。おめさま今まで頑張った、ありがとな。これから倅を頼んます。
それからは、摘発率ほぼ、百パーです。
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たらはかに(田原にか)さんの裏お題、ようやく思いつきました。
ちょっぴりメルヘン? よろしくお願いします。
たらはかにさんの記事はこちら。
企画ホイホイにすぐに捕まってしまう自作置き場はこちら。
まとめて読むとそれなりの文字数かも。よろしくお願いします。